第60話 手配
蒼翠龍様と別れを済ませ、転移した平原から近くの街に立ち寄ると、そこにはアルクスを指名手配するという貼り紙がしてあった。
『アルクス、貴方アルフグラーティに来る前に何か悪いことしていたの?』
クリオが真剣な眼差しで問いかけてきた。
『いや…、特に悪いことをしたつもりはないけれど…』
アリシアが考え込むような表情をしていた。
『もしかして…』
『どうしたの、アリシア?』
『私達、メテンプスの拠点をいくつか潰したでしょ?その時に顔がばれていて、狙われているとか?』
『確かにいくつか拠点を潰したしな。だが、それなら俺達も狙われそうだが。』
クリオが貼り紙に顔を寄せていた。
『この指名手配書、誰が指名手配しているのかが書かれていないですね。国や探索者協会などの組織が指名手配しているわけではなさそうです。』
『偽物ってことか?』
『探索者協会が発行しているわけじゃないなら、協会に行って捕まるってことはなさそうじゃないかな。
協会に行って聞いたみたらどう?まずは情報を集めないと。』
アリシアの提案に皆で賛成し、一旦探索者協会で情報収集を行うことにする。
『アルクスはとりあえず顔は隠しておこうか。』
『龍装鎧の強化がこんなところで役に立つとはね。』
『そういえばクリオは探索者協会に登録していたりする?』
『いえ、私はアルフグラーティから出たことがなかったので…
知識としては知っているのですが、アルフグラーティには支部とかはありませんでしたから。』
『そうだよね、じゃあクリオの探索者登録も兼ねて情報収集だね。』
街中の探索者協会を見つけて中に入ったところ、特に指名手配の貼り紙はしてなかった。
『あの、すいません。探索者登録を行いたいのですが。』
『はい、登録は4名でよろしいでしょうか?』
『いえ、僕ら3人は既に登録済みですので、この子だけお願いできますでしょうか。』
『かしこまりました、私エルフの方の登録って初めてなんですよね。
こちらに記入をお願いします。』
クリオの登録はあっさりと終わったため、指名手配に関して聞いてみた。
『あぁ、あれですか。なんなんでしょうね。公的な組織が出しているものではないので、関わってもろくなことがないだろうってことで皆近付かないようにしているんですよ。
たまに興味を持つ方がいるんですけど、何か起きても協会では助けてあげられませんから注意してくださいね。』
『そうだったんですね。教えていただきありがとうございます。あとついでに素材の換金をお願いできますでしょうか?』
『もちろんです!』
大森林で倒した魔獣から手に入れた素材の一部を換金し、食事をしながらこれからの道程を話し合った。
顔が見えても問題ないだろうということで、龍装鎧も腕輪に戻した。
地図を広げつつ、現在地であるメディウムの街から西の方にある港町ポルト・トランキを目指そうということになった。
『この大陸の西側の港街まで行けば多分商会の支店があるはず。そこからなら帝国への船が出ているはずだよ。あと王国にも連絡できるはず。お父さんもそろそろ寂しがってるんじゃないかな。』
『確かにそろそろ手紙の1つでも書いた方が良いか。』
『ルーナにも手紙を書くって言ってたし、今までのことでもまとめるか。』
『あの、商会ってどこかの商人と繋がりでもあるんですか?あとルーナさんとはどなたでしょうか?』
確かにクリオにはまだ話していないことが色々あったということを思い出した。
王国や辺境のことを知らなかったクリオにメルティウム商会や王国にいる家族のことを説明した。
『そうだったのね。確かにアルクス達は王国から来たんだったよね。家族と離れると寂しいものかな?』
『うーん、辺境にいた時から家族とは離れていたしね。それにアリシアとバルトロ兄さんも家族みたいなもんだし、一緒に色々なところを旅して驚くことばかりだし、寂しく思う暇はあんまりないかな。』
『ふーん、そういうものなのね。』
話の流れで王国時代の話を思い思いにしていた。
皆は特に僕の学園時代の話に興味がある様子だった。
『人族ではその学園というものに通って、色々学ぶのね。効率的ね…』
『いや、皆が通うわけじゃないぞ。辺境では皆生活で精一杯だからな。』
『でもアルクスが来てからは皆が勉強する環境もできたし、やっぱりアルクスはすごいのよ。』
『へぇ、アルクスは教師としての才能があるのね。』
『ただ今までやった学んだことを真似しただけだよ。それに皆にやる気がないと続かないしさ。』
そう言えば今までは周りに向上心というかやる気がある人が多かった気がする。
生きることに疲れた無気力な人達に対して同じことができるだろうか。
特に不授で虐げられることが多かった人達に対して同じことをするためには途方もない努力が必要な気がする…
食堂を出て、宿をとろうとしていると何やら騒がしい様子がした。
『こいつを見たっていうのは本当なんだろうな?』
『はい、あそこの食堂で見かけました。もちろん報酬はいただけるんでしょうね?』
『本人だということが確認できたらな。』
『あっ、あいつです。あの槍みたいなものを持っている男です!』
近づいて来た男達の1人が僕を指さして、そう言った。
『確かに。おい、こいつを連れてって報酬を渡してやれ。』
そうしてその男は裏道へと連れて行かれたかと思うと、呻き声が聞こえた後に静かになった。
『お前がアルクスだな。お前は指名手配されている。同行してもらおうか。』
男達の中で一際偉そうな男が、突然理由も指名手配の理由も告げずに同行しろと言ってきた。
『すいません、こちらには同行する理由がないのですが。指名手配される理由も特にないですし。』
『なんだと?この指名手配書が見えないのか?』
『そんなどこが出しているのかわからない手配書のことですか?そんな怪しいのに引っかかるほど愚かではないですよ。』
『なんだと、我々を愚弄するのか!手荒いことは避けてやろうと思っていたが、こうなれば無理にでもついてきてもらうぞ。お前ら、やれ!』
隊長らしき男の指示で一斉に後ろにいた手下達が突撃してきた。
統率の取れた動きから、訓練されている様子が見てとれる。
だが、前に出たバルトロ兄さんが盾を展開して押し返すと、突撃した勢いのまま弾き飛ばされていった。
『な、なんだと…組織の中でも実力者を集めた我が隊がこんなにもあっさりと…
おい、お前達怯まずに立ち向かえ!』
『地穿槍!』
隊長の指示に対して、他の手下達が突撃の構えを取ったその時、土でできた槍を生み出して、突撃するのを躊躇らわせた。
『こんな奴らに構っていられない。今の隙に逃げよう!』
『おまけにこれでも喰らいなさい!』
逃げ出した瞬間にアリシアが投げた玉は大量の煙を放ち、辺り一体が見えなくなってしまった。
『お前達、逃すなよ!必ず捕まえるんだ!』
隊長の喚く声が聞こえたが、その後手下に追いつかれることはなかった。
『はぁ、ここまで逃げればとりあえずは追いつかれないかな。』
当初の予定通りメディウムの街を逃げ出して、港町ポルト・トランキを目指して西へと向かった。
街道沿いは奴らに見つかるだろうということで避けて、森の中へと入った。
近くに村や町はあったが近隣の街だと奴らがすぐにたどり着くかもしれないということで、しばらくは森の中を西に進むことにした。
『はぁ、また森の中か。最近は森の中にいることが増えたな。』
バルトロ兄さんがぼやいていた。
『私は森の中の方が落ち着くわ。大森林以外の森って結構違うのね。』
『私も。辺境にいた頃は森で採取していたし、兄さんだって慣れているでしょ?』
『慣れているのと落ち着くかどうかは別だ。』
森の中を進みながら、僕は薬の材料になりそうな草や実を集めながら進むことにした。
『そういえばこの辺りは龍脈が通っていないね。蒼翠龍様と別れた辺りからずっとだけど。』
『今のところ闘気で問題があるわけじゃないし、大丈夫じゃない?』
『アリシアは闘気も使えるの?』
『うん、3人とも使えるよ。』
『私は魔術しか使えないのに…』
『使えて困ることもないし、使い方教えてあげるよ!』
『本当!?ありがとう!』
クリオは苦戦しつつも、アリシアに教えられて闘気の感覚を掴むことはできるようになった。
跳躍や移動には使えそうであったが実戦で戦うにはまだ時間がかかりそうだった。
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