第59話 命名
この子に相応しい名前か。まだ飛べないみたいだけど、小さい翼が生えているな…
「じゃあ君の名前はアーラだ。その翼を世界を飛び回って欲しいっていう願いを込めたんだ。」
「ぴー!」
「アーラか、良い名だ。それでは世界を旅し、龍王に会い、その子が成長したらまた我のところに戻ってくるが良い。引き続き頼んだぞ。
蒼翠龍よ、この度は感謝する。ではまたな。」
そう言って藍碧龍様からの連絡は途切れた。
「藍碧龍があれだけ楽しそうにしているのも珍しい。
長く生きていても退屈なことが多いが、こういった変化はとても楽しいものだな。
さて、其方達これからどうする。すぐに次の龍王のところへと向かうか?」
「あの…、私から1つよろしいでしょうか。」
蒼翠龍様の質問に対して、クリオが申し訳なさそうにしながらも、発言を申し出た。
「うむ。」
「わ、私も龍脈の力を使えるようになってハイエルフになりたいのですが、可能でしょうか。
そ、その…アルクスからラピスがあると龍脈の力を扱うことができないと伺ったのですが…」
蒼翠龍様は少し考えるような様子を見せた後、口を開いた。
「ハイエルフか。確かに最近は龍脈の力を扱えるエルフは増えておらなかったな。どれだけ前だったかは忘れたが、以前に力を身につけた者達は元気にしているかの?」
「は、はい。普段は眠っていらっしゃいますが、起きた際は元気にされています。」
クリオはエルフの国やハイエルフ達の現状をかいつまんで説明した。
「そうか。確かにあれからしばらく経つか…
さて、ハイエルフになるためには龍脈の力を扱えなければならない。
だが、そのためにはまずはラピスを取り除くこと必要がある。
其方は自身に宿っているラピスのことは把握しているのか?」
「いえ、特にラピスが宿っていて魔術が使えているということ以外は何も分かっていないです…」
蒼翠龍様はクリオがどう答えるのかを分かった上で質問している様子だった。
「そうだな、ウィルドあれを。」
「かしこまりました。」
蒼翠龍様の指示でウィルドが下がると、1つの大きな珠を持ってきた。
学園で選別の儀の時に見た魔導珠と似たような大きさだった。
そして、地面を叩くと珠の台座らしきものが迫り上がって来た。
「その様子だとアルクス、其方はこれが何か分かっているみたいだな。
知らぬ者に教えると、これはラピスを覚醒させたり、宿っているラピスが何であるのかを見ることができるものだ。人族では確か魔導珠と呼んでいたか。
さて、今回は覚醒をする必要はないので、クリオに宿っているラピスを見ることにするとしよう。
さてクリオよ、この魔導珠の前に立ち、珠に魔力を込めるが良い。」
クリオは魔導珠の前へと進み、両手をかざして魔力を込めた。
魔導珠が光り輝き始めた。
そこには強い緑の光とその近くを青・白の光が漂っていた。
「風を中心に水と光か、典型的なエルフだな。まずは風属性の魔術を使いこなすことだ。もちろん水属性と光属性の魔術もそれなりに使える必要がある。
あとは合成魔術も使えるようになっておいた方が良いな。」
「合成魔術ですか?」
「あぁ、そうだ。合成魔術の使い手などほとんどいなかったか。
だが、まずはそれからだな。そうして今扱える魔術を極めた先に其方の夢はある。
その時が来たら自ずとわかるだろう。そうしたら、どこでも良いので龍王のところへ行くと良い。其方ならば過去のハイエルフの例もあるので、ここに来るのが一番良いと思うがな。」
「ありがとうございます。頑張ります!」
クリオは自分にハイエルフになるための道があると分かっただけでもとても嬉しそうな顔をしていた。
「ぴー」
「おぉ、アーラも応援しているな。しかし、龍の赤子は可愛いの。」
蒼翠龍様はアーラを見つめた後、1つ提案をしてきた。
「其方達、しばらくここに滞在せぬか?子龍の育て方などわからないであろう?
どうやって育てるのかを伝授しよう。そしてその間にアルクスに新たな龍術を教え、クリオには魔術を成長させるための秘訣を教えようかと思うが如何だろうか。」
思ってもいない提案に僕達は目を見合わせた。
「ぜひお願いできればと思います!」
「うむ。ではウィルド、この建物の案内を頼んだぞ。」
「かしこまりました。」
そうして僕達はまた龍王様のもとで世話になることになった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから蒼翠龍様の下に1ヶ月程滞在した。
その間、クリオは基礎からやり直すということで、魔力を練ることから初め、水・風・光属性の魔術の練習、そして合成魔術を扱えるようになるまでと短時間でかなり詰め込んだ修行となった。
アリシアとバルトロ兄さんは新しい龍装鎧の扱い方を覚えてからは今までよりも龍気を扱えるようになり、龍装鎧を扱った戦い方を上達させていた。
2人は特にウィルドとの手合わせを中心に行うことで、実戦経験積み上げていった。
僕はというとまずはアーラを育てるために龍珠の中を快適な空間にするための空間術の成長や精霊召喚を常に行うことで精霊3柱の成長を促し、精霊との連携や闘技の幅を広げたり、精霊の力を仲間に付与する方法の拡張など多岐に渡った。
その間、アーラは龍脈の力を吸い上げてすくすくと成長していき、翼を使って宙に浮くことができるようになった。
寝る時は龍珠の中が快適らしく、いつも龍樹の中で寝ていた。
起きると外に出てくるのだが、胸元から急に出てくるからいつも驚いてしまい、なかなか慣れなかった。
基本的に修行の毎日だったがこの状況に慣れてしまったので、そろそろ次の龍王様の下へと旅立つ時期だと皆で話始めていた。
「蒼翠龍様、そろそろ旅立とうと思います。」
膝の上にアーラを乗せていた蒼翠龍様は少し残念そうな顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「そうか、確かに最低限は習得したことだし、ここから先は実践しながら磨いていくのが良いだろう。さて他の龍王を探しに行くとなると、この近くには龍王はいないからな…ここから一番近くにいる龍王だと、帝国がある隣の大陸にある、とある山に生息している。
あれはこの世界の…いや、何でもない。直接会えば話してくれるだろう。場所はウィルドに聞いておくが良い。」
蒼翠龍様が指示を出すと執事の格好をした靄が地図を持って来てくれて、ウィルドが帝国のどこを目指すべきかを教えてくれた。
その後、しばらくは持つであろう道中の食料や使わないということで薬などの素材も多く渡してくれた。
「そうだ、餞別にこれを渡しておこう。渡した素材の使い方などがまとまっている調合の書物だ。昔ハイエルフが残していったものだが、ここにあっても誰も使わないのでな。」
そうして思いがけず、ハイエルフ直伝の調合レシピを手に入れることになった。
「この道を真っ直ぐ行くと、地図のここに出る。ここに戻ってくることはしばらくないであろう。この世界を周った後、どのようなことを思い、どう生きていくかということが決まったら教えて欲しい。龍騎士は龍王の娯楽みたいなものでもあるからな。」
蒼翠龍様達に別れを済ませて、言われた道を進んでいくと途中で境界を越える転移の感覚に包まれた。
すると光に包まれ、何もない平原に出た。
アリシアとバルトロ兄さんは慣れた様子だったが、クリオは少し驚いた反応をしていて、見てて面白かった。
「今までいたのって、藍碧龍様の時と同じように蒼翠龍様が作り出した空間だったのかな?」
アリシアがふと思ったことを口にしていた。
「確かに現実とは少し違う感じの場所だったよね。」
「蒼翠龍様はずっと人型だったな。」
「えっ、蒼翠龍様には別のお姿があるのですか?」
「そりゃあ、龍だからね。」
「そうだったんですね、他の龍の方を知らなかったので、あれが正しい姿なのかと思ってました。」
「蒼翠龍様はどんな格好の龍なんだろうね。藍碧龍様ににているのか、はたまた全く別なのか…」
僕達は今までいた場所や龍王様に思いを馳せつつも、もらった地図と現在地と言われた場所を見比べて、これから帝国にどうやって向かうのかを話し合い、まずは一番近くの街へと向かうことにした。
1日もかからずに辿り着き、街中へ入るとなんとなく気になる貼り紙がしてあった。
「アルクス、どうしたの?」
「いや、なんだか僕に似た顔のような気がして…」
【連邦特別指名手配人物:人族のアルクス 報酬:金貨10枚 生死問わず】
「え、アルクスが指名手配されてる?」
「そんな馬鹿な…」
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