第61話 飛行
クリオが闘気の修行を着々と進めている間に、森や近くの川沿いなど組織の連中に辿られないように気をつけながら西へと進んだ。
『これだけ離れたならそろそろ大丈夫なんじゃないか?』
『そうね、一度近くの街へ出てみてもいいんじゃないかな?』
『そうだね、僕が行くと問題が起きそうだからアリシアとバルトロ兄さんお願いできるかな?』
『じゃあ私はアルクスと一緒に待ってますね。』
そうしてアリシアとバルトロ兄さんが街の中へ入り、僕とクリオは近くの森の中で待機することにした。
『特に貼り紙はなさそうだね。』
『あぁ、アルクス達を呼びに戻る前に宿の手配だけでもしておこうか。』
『じゃあその間私は探索者協会に顔出しておくね。』
街中に指名手配の貼り紙は見当たらなかったため、アリシアとバルトロはアルクス達を呼びに戻る前にと準備をしておくことにした。
その頃森の中で2人を待つアルクス達は役に立ちそうな草や実を集めて、傷薬などを作っていた。
『エルフの人達も薬草とか詳しいけど、調合もしているの?』
『そうね、難しいものでなければ皆自分達で作るかな。そんなにいろんなものは作れないけど、アルフグラーティはエレメントで満ちているから作ったものの薬効は結構高いの。』
『へー、そうなんだ。作る場所によっても効果が変わるのか…』
クリオと話しながら、傷薬以外にも解毒、鎮痛、消臭など調合の難しくない薬を作って時間を潰しているとアリシア達が戻ってきた。
『お待たせー!特に貼り紙とかなさそうだったから宿を取ってきたよ。
探索者協会でも怪しい話はなかったよ。』
『海が近づいて来たからか、宿の食事には結構海産物が使われているみたいだったぞ。』
『海産物!それは楽しみですね!』
クリオは海を見たことがないらしく、海産物に興味津々だった。
その後宿につき、海産物の料理を満喫していながら組織の話になった。
『あいつら流石にもう追いついて来ないだろうな。』
『どこに行ったかわからなくて困っているとか?』
『メテンプスの情報網もそんなに完璧じゃないんじゃないかな。』
『昔の話だけどメテンプスと言えばこの大陸の人族を裏で操っているなんて噂もあったくらいだから、もし同じ組織だとしたらあまり油断しない方が良いかも…』
『エルフでもメテンプスのことは知っているんだね。』
『外から帰って来た人が教えてくれたの。怪しい組織があるから、もし人族に会うことがあれば気をつけなさいって。』
『まぁ、もうすぐ海沿いの港町に着くだろうしあと一踏ん張りだろう。連邦を出てしまえばあいつらに関わることもないだろう。』
『そうだね、クリオは海を見たことがないって言ってたし、早く見せてあげたいね。』
次の日、街を出て西へと進もうとしたところ、街道沿いに武装した集団が集まっているのを目にした。
『何だ、あいつら。メテンプスの奴らとは違って、装備には統一感があるな。』
『変なのに絡まれると面倒だし、街道は避けて進もうか。』
街道を避けて進もうとしたところ、武装集団に囲まれてしまった。
『お前がアルクスだな!我々は連邦中央騎士団だ。
王国から我が連邦にスパイが送り込まれ、荒らしまわっているということで手配書が回って来ている。この手配書だ、見覚えはあるだろうか?』
武装集団の隊長格の男が手配書を見せてきた。
『また、偽物の手配書?やることが幼稚だね…』
『ちょっと待って。あの手配書には連邦政府の印が押してある。
魔力の流れを見る限り、あれは本物ね。』
クリオが言うには今までの偽物の手配書とは違い、公的でかつ正式な手配書らしかった。
『え、僕本当に指名手配されたの?』
『連邦政府までメテンプスの手が伸びているのかもな。
これでアルクスは一流の悪党だな!』
バルトロ兄さんが笑いながら言っているが、ここまでされてしまうと笑い事ではない。
『おい、スパイども、何か言うことはあるか?もしあるとすれば、連邦裁判所で申し開きをすると良い。』
『まさか、僕達は龍王様に会いに来ただけだ!スパイなんて濡れ衣だ!』
ドッと笑いが起きた。武装集団は皆笑っている。
何かおかしなことでも言っただろうか…
『龍王だと?この時代になって御伽噺を信じているのか?寝言は寝てから言え。
だがメテンプスの息がかかっている精鋭部隊を追い払う実力は認めよう。
あいつらには困っていたんだ。
そうだ、その実力を見込んで逆に連邦のスパイになる気はないか?
王国の情報を持ち込んでくれるなら厚遇するよう上申するぞ?』
目の前にいる騎士団の隊長は、スパイとする相手を取り込もうとするなどそれなりに知恵が回り、権力も持っている様子だった。
だが王国を裏切って仲間にならないかと言うのはどういった理由だろうか。
王国と連邦の関係は良かったと思っていたが…
それに王国は不授の扱いはひどい場所となってしまったが家族や友人がいる。
断るしかないな。
『王国では不授の人間はゴミのように扱われています。スパイにしようとしたところで役には立たないと思いますよ。』
『何だと、あれだけの力を持ちながら不授なのか?
わかったぞ、王国ではどれだけの力を持とうとも不授は排斥されるというわけか。
それで王国から逃げて連邦へやって来たのだな。不授の楽園でも目指していたのか?』
『不授の楽園というとパラディースの街のことですか?
あそこは邪悪な組織であるメテンプスの拠点で、不授の楽園ではなかったですよ。
むしろ不授の牢獄と言った方が正しいかもしれません。』
隊長と会話をしていると後ろの方からちょび髭の偉そうな貴族のような男が急に割り込んで来た。
『組織のことを邪悪と謗るとはなんという愚かな者達だ!
やはり王国人なんかをスパイにするなんて無理があるのだ。
不法入国の罪と騒乱罪で連行してしまえ!』
話が通じそうにない男だ。
隊長はメテンプスとは違いそうだが、この男も組織の息がかかっているに違いない。
死者蘇生などと言う邪法に手を出している組織に愚かだなんて言われたくない。
『龍王様にも認められたアルクスを愚かだなんてどの口が言うのですか!
死者蘇生などという、自然の摂理に反した行いをしているメテンプスこそ邪教ではないですか。』
今まで静かに聞いているだけだったクリオが急に激昂し出した。
『ク、クリオ落ち着いて…』
『いえ、同じ連邦内にこんなにも愚かな人族がいたなんて情けなくて…
エルフを代表してこの者に鉄槌を下します!』
そういうとクリオは集中して魔術の詠唱を始めた。
『な、なんだこのエルフは。この私に逆らうとは…
もういい、やってしまえ!』
隊長は止めたものの、どうやらこの貴族の息のかかっている者も多いらしく、静止を振り切って突撃してきた。
そこに詠唱を終えたクリオが最後の一言を口にした。
『荒ぶる嵐よ、我が前に立ちはだかる愚かなる迷い子達を吹き飛ばせ!』
クリオの手から生まれた竜巻は突撃してくる者達を巻き込みながら、直線上に進んでいき貴族とその配下の者達は彼方へと飛ばされていった。
それに警戒したのか、隊長とその部下達は突撃して来ずにゆっくりと数にものを言わせてこちらを囲み様子を伺っていた。
『メテンプス支持者で権力を持っているあの方には困っていてな、だが助かった。しかしそれだけの力があるのであれば我々としては放っておくわけにはいかないな。』
クリオの力を目にして、敵は本気で僕達を捉える気になってしまったらしい。
その頃、騒ぎを聞きつけたのか、街の人達が集まって興味深そうに遠巻きに見ていた。
しばらくの間、こちらが牽制で攻撃をしても、あちらの魔術で守りを固めて簡単にかわされるなど隙がなかった。
『あの人達は傷付けたくないんだけどな…』
『龍脈がないとやりにくいな…』
『私がまた吹き飛ばそうか?』
『いや、今それをしてもまた次の街で捕まって、解決しない気がする…』
このままいくと負けることはないが、後ろの街や住人に被害が及ぶ可能性が出て来た。
あちらもそれがわかっているのか強引に攻めてくることはなかった。
困り果てていたその時、アーラが龍珠の中から顔を出してきた。
『ぴー!』
『ちょっと、アーラ危ないよ!お願いだから中にいて!』
出てきたアーラは一声鳴くと今までアルクスが溜め込んでいた龍気を吸い取り始めた。
『アーラ、な、何を…』
そのまま龍気だけではなく、闘気と魔力まだ吸い出した。
『アルクスッ!』
力を失ったアルクスが膝をつき、そしてその隙を見逃さなかった隊長が突撃の指示を出した。
『今だ、捕まえろっ!』
だがその瞬間に目の前にはいつの間にか巨大化したアーラがいた。
『な、なんだこいつはっ!』
『ピューイ!』
アーラは一声あげると4人を背中へと乗せて、大空へと飛び立った。
『アーラ様、このお姿は…』
『うわっ!』
『え、飛んでる…!?』
そして、1人アルクスだけは力を吸い取られて気を失い背に乗っていた。
4人は防護膜に覆われ、落ちることなくアーラの背の上にいることができた。
その時地上で街の住人達は『龍の御使い様が現れた!」と口々に叫んでいた。
『本当に龍がいたのか…御伽噺じゃなかったのか…』
そして、隊長と手下達はポカンと見ていることしかできなかった。
『なんて報告しよう…』
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