第3章 連邦編

第32話 龍王


薄明かりに導かれて進んでいった先に大きく開けた空間があった。

そこにとてつもなく大きく長い横たわる伝説上の龍らしき存在を見つけ、僕があまりの驚きに言葉を失っていると龍(?)は目を覚ました様子だった。


「うん?人の子がここにやって来るなど、珍しいこともあるものだな。何百年ぶりだろうか…もう忘れてしまったな。お主、そんなに離れていては話難いであろう。もう少し近う寄れ。なに、取って食うというわけではない。」

「は、はい!」

バルトロ兄さんとアリシアを置いてきたのは失敗だったかな…

いや、でも道はここしかなかったし、龍(?)に出会う機会なんて一生のうちにあるはずのない出来事だ。

緊張のあまり体は硬いけれど、この興奮は言葉にできない。

旅を始めて本当に良かった!


僕は興奮のあまり頭の中がまとまらないままに、龍(?)の眼前まで近づいた。


「ふむ、お主は…

 ふむふむ… 落ちたのか… あんなところが脆くなっていたとは…

 直しておかんとな。

 プロウィス、いるか。」

「は、ここに。」

背後から声がして、そこに人(?)がいることに気付いた。

何の気配も感じなかったことに気付き、少し冷や汗をかいた。


「ここに通じる道は封じてあったはずだが、時が経ち脆くなっている箇所もある様子だ。

 再度封鎖と他に脆い箇所がないか確認しておくように。」

「かしこまりました。」

気付いた時には気配は消えていた。


「あの、今の方は一体… あと落ちたことはまだ話していなかったと思うのですが。」

「そうだな質問に答える前に、人と話すのも久方ぶりではある。お主、そもそも我が何であるかわかっておるまい?」

「はい、以前書物で見かけたのですが、伝説上にわずかに記述が見られる龍だと思います。ですが、それが正しいかも怪しいですしそれ以外はわからないです。」

「うむうむ、そうであろう。龍であると言うのは間違いないな。

 我は龍脈を管理する八大龍王が一柱、藍碧龍である。

 お主が知り得る遥か昔よりこの大陸の龍脈を管理しておる。」

 

歴史や伝説など割と詳しい方だと思っていたけれど龍脈や八大龍王なんて聞いたことがないな…

世の中にはまだまだ知らないことが数多くありそうでワクワクしてきた。


「む、あまりわかっていなそうな顔をしておるな。

 龍脈とは自然にあるウィスとエレメントの大元が流れているところだと思ってもらえば良い。

 エレメントが溢れる源泉であれば知っておるであろう?

 あれは龍脈の出口の1つだ。

 龍脈の流れが滞ると自然界のウィスやエレメントのバランスが崩れてしまうため、その管理をしているわけだ。


 八大龍王はこの世界が出来た時に世界の楔として生み出された存在である。

 この世界を管理している者だと思うとわかりやすいか。

 ドラゴンのようなトカゲ共とは一緒にしてくれるなよ? 

 あれらは我ら龍とは全く別物である。」


龍王様はこれから聞こうと思っていたことを聞く前に答えてくれた。

もしかしたらとても良い龍なのかもしれない。


「この世界の管理者とのことですが、神様とは違うのでしょうか?」

「うむ、神々にもこの世界を成長させるベくやるべきことがあるのだが、あやつらのやり方にはあまり納得がいっておらんのだ。

 我ら龍王は神々の観測者でもあり、この状況を改善したいと考えているのだが我々は神々の領域には手が出せぬ。まぁ、あちらからも手は出せないのだが。」


龍王様のような存在でもなんとかならないこともあるんだな。

旅のついでに何か手伝えることがあれば良いのだけど。


「僕達はこれから連邦へ向かうのですが、何かお手伝いできることはありますでしょうか?

 あ、でも仲間にも確認しないと…」

「ふむ、仲間というのはそこに立っている2人のことかの?」


 そう言われて振り向くとバルトロ兄さんとアリシアが大きく口を開けて、僕と龍王様が会話しているところを呆けて見ていた。


「あ、2人とも起きたんだね、大丈夫だった?」

 近づくと我に返った様子で動き出した。


「あ、あぁ。アルクス、先程まで話していたあの方は一体…?」

「あんなに大きな生き物見たことがないから…」

 

 2人は龍王様の大きさに驚きつつも、先程まで僕と会話している様子を見ていたため、恐ろしい存在ではないと理解していた。


「む、我の大きさに怯えてしまったか。ならばこれでどうだ。」

そういうと龍王様は少し背の高い人型に変身した。

まだ少し見上げるくらいだが、これなら2人も大丈夫だろう。


そう思ったら2人ともまた驚きの表情を浮かべて固まっていた。


「さて、話も長くなるだろうし、準備をしようか。プロウィス。」

「は、取り急ぎティーセットの準備をいたしました。皆様こちらにおかけください。」


あまりの手際の良さに僕も目を丸くした。


「さて、そこの2人への自己紹介はまだしていなかったな。我は龍脈を管理する八大龍王が一柱、藍碧龍である。少し困っていたことがあって、そこの…お主名をなんと申す?」


そういえば名乗っていなかったな。

「アルクスです。」

「そう、アルクスが手伝ってくれるというのでな。その話をしようかと思っておったところだ。」


2人はアルクスが良いならと話を聞く姿勢になった。

「ふむ、信頼されておるのだな。お主らは見たところラピスが宿っていないな。アルクスはラピスの破片はあるが、どうやら壊れてしまった様子だな。」


やはり、僕の中のラピスはなくなってしまっていたのか。

ん、壊れたということは直せるのだろうか?


「見ただけでわかるのですか?」

「そうだな、我らは力の流れを見ることができるのでそれくらいは造作もないことだ。」

「あの…、壊れてしまったラピスは直すことはできるのでしょうか?」

「ふむ。

 器が出来上がっていれば新しくラピスを授けることは可能だが、直すことは難しいな。

 ラピスの管轄は神々だから我らが授けることはできない。

 それにラピスを宿していて良いことなどない。

 龍脈の力を十全に使えなくなってしまうからな。」

「どういうことでしょうか?」

「ラピスは生物が簡単に龍脈の力を使い成長するために神々が作り出したのだが、魔力を効率的に使えるようになるかわりに闘気を扱う効率が下がり、倒した相手から取り込むウィスの量も少なくなる。

 お主もラピスが壊れてからは成長が速くなったのではないか?」

龍王様に指摘されて、確かに実感として辺境に行ってからは以前よりも体の成長が速い気がしていた。

環境の問題だと思っていたんだけど、違ったのか。


「今の人間達は闘気よりも魔術が得意であろう?魔獣にしてもそうだ。昔は闘気を纏う人間や魔獣が多かったが、今では少し自己強化する程度の者達ばかりであろう。

 さて、話を戻そう。

 我の頼みというのはだな、今の世界を見て回ってきて欲しいのだ。」

 

「世界を…ですか?」

「うむ、世界中を旅して他の龍王に会ってきてもらいたい。

 もちろんタダでとは言わぬ。

 制限はあるが、龍脈の力を扱える力を授けよう。

 これはラピスが宿っているものには使えぬ力だ。

 そしてアルクス、お主のラピスの破片を使って、龍珠に作り替えてやろう。」


龍王様は世界中を旅する代わりに力を授けてくれると言っている。

龍脈の力や龍珠のことはよくわからないけど、ただ不授として生きていくよりは良いだろう。

どちらにしろ世界を旅する予定だったのでこれを受けようと思う。

2人の意見も聞いておかないとな。


「僕は良いと思うけど、2人はどうかな?」


「俺はアリシアとアルクスを守るためにも、もっと強くなりたい。

 魔術が使えない不授の俺が強くなれるなら断る理由はないな。」

バルトロ兄さんはすぐに即答した。


「私はちょっと怖いけど、兄さんとアルクスと一緒ならいいよ。」

アリシアはいつもの元気がないが、受けると言ってくれた。


「龍王様、その依頼引き受けたいと思います。」

龍王様の依頼で世界を旅するなんて、面白くなってきたな。


「よくぞ言った、これより龍の試練を始める!」

そう答えると龍王様は目を光らせ、巨大な咆哮を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る