第33話 龍珠

「まずはそちらの2人、名をなんと申す。」


「バルトロマエウスです。」

「アリシアです。」


「では2人を龍の試練の間に送る。龍脈の力を扱えるようになれば戻って来れよう。」


説明が何もないので聞いてみないと。

「龍王様、龍の試練の間とは一体どういった場所でしょうか?

 そちらに行けば詳細を教えている方がいらっしゃるのでしょうか。

 また、命の危険などはありますでしょうか?」


バルトロ兄さんとアリシアがそれが聞きたかったんだと頷いていた。


「おぉ、説明が必要であったな。龍の試練の間では案内人の指示に従えば龍脈の力の使い方を覚え、ある程度まで使いこなせるようになる空間である。

 もし使いこなせなかった場合も生きて戻ってくることができる。

 命の危険はない。

 まぁ、心が折れてしまった場合は戻ってきても廃人になる場合があるがな。

 これでわかっただろうか?」


 どうやら龍の試練の間というのは訓練のための施設のようなものらしい。

 心が折れるという言葉が少し気になるが大丈夫だろう。


 「2人とも大丈夫そうかな?」

 「うん、ネモ先生との修行も耐えたし大丈夫だと思う!」

 「強くなってみせるさ。」

 「あれ、でもアルクスはどうするの?」

 

 確かに2人は龍の試練の間に行くとして僕はどうするのだろう。


 「アルクスは先に先程話したラピスの破片から龍珠を作り出してやろう。

  龍珠ができたら同じく龍の試練の間に送ってやろう。

  では先に龍珠を作るかの。

  アルクスよ、ここの中心に座るのだ。」


 龍王様はそういうとどこからか杖を取り出して、地面に謎の模様を描き出した。

 

 「あの、これは魔法陣というやつでしょうか?」

 「うむ、最近の人間は魔法陣は使わないのか?」

 「そうですね、書物で見かけたことがあるだけで、学園でも教わらなかったです。」


 龍王様は少し考え込む様子が見られたが、すぐに続きを描き続けた。


 「魔法陣は発動する内容を描き、力を流し込めば様々な効果が発動するのだが、

  今は魔力を練って魔術を発動するのが主流であったか。

  魔術と違い、力の源さえあればラピスがないものや魔力がないものでも扱える優れたものであるのだがな。


  これは龍脈の力を用いて龍珠を作り出す魔法陣だ。

  この中心にしばらく座っていれば完了する。

  アルクス、ここに座るが良い。」


 龍王様に促され、魔法陣の中心に座った。


 「よし、では行くぞ。

  大地に眠る龍の力よ、其は世界の根源なり。

  彼の者に世界の楔となりし、龍の秘宝を授けたまえ!」


 龍王様が呪文の詠唱を終えると、魔法陣が光り輝き始めた。

 そして、僕の体を激痛が襲った。


 「ぐっ、がぁぁぁぁ…!!」


 「アルクス、大丈夫…!?」

 「近寄るでない!」


 アリシアが駆け寄ろうとするも、龍王様に止められた。


 「今、アルクスの体の中ではラピスの破片を用いて、龍の秘法であり秘宝である龍珠を構築しているところである。しばらくすれば終わるので、お主らは先に龍の試練の間に向かっているが良い。」


 「がはっ…」

 大量の血が口から溢れ出た。

 体の中が熱く捻れているようで、立ってなどいられなかった。


 「でも、こんなに血を吐いて…」

 「大丈夫じゃ、我がいる限り死ぬことはない。ではお主らも送るぞ。

  開け、龍の瞳よ!」


 龍王様が叫ぶと両の眼に光が灯り、その光に照らされた2人はどこかへと消えてしまった。


 「さて、では後はお主の龍珠が出来上がるのを待つとするかの。

  なに、たった数日で完了する。」

 龍王様はそう言い残すと目を閉じ、寝入ってしまった。


 僕は苦しみのたうち回ることしかできなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「アルクス…」


朦朧とする意識の中、誰かの声が聞こえたような気がした。


「まだそちらへ行ってはダメよ。貴方はまだ何も成していないでしょ?

 私が見守っているから頑張りなさい。」


「母さん…?待って、行かないで…!」


母の声が聞こえたような気がしたが、また僕の意識は深い闇へと沈んでいった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

  

 数日後


 「さて、そろそろ終わったかの?」

 龍王が目を覚ますと魔法陣の光は消えていた。


 そして、アルクスは魔法陣の中心に倒れ込んでいた。


 「む、これはいかん。プロウィス、雫を持ってまいれ!」

 「は、こちらに。」

 「よし、これを飲めば死にはせんじゃろ。」


 龍王がぐったりとしているアルクスにプロウィスが持ってきた液体を飲ませると、アルクスの顔に生気が戻ってきた。


 「これで大丈夫じゃな。うっかり殺してしまうところだった。

  さて、龍の試練の間の方はどうかの?

  うーん、少し苦戦している様子じゃな。

  とりあえず此奴も送っておくか。

  仲間同士協力するとようじゃろう。

  開け、龍の瞳よ!」


 龍王の眼光に照らされたアルクスはそこから姿を消した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


「うーん、ここは…?」


目を覚ますとアリシアの顔が目の前にあった。


「アルクス、良かった!体は大丈夫?」

アリシアに抱きしめられて驚くも、体に不調は見られなかった。


「血を吐いて、苦しくてのたうち回って記憶はあるけど、どれくらい時間が経ったかな?」

「あれから大体4日くらいかな?昨日ここにアルクスが送られてきて、ずっと寝ていたんだよ。」


そんなに時間が経ったのかと思うと、バルトロ兄さんもやってきた。

「おっ、アルクス起きたのか。体の調子はどうだ?」

「大丈夫だよ、どこも悪くない。ところで2人は龍脈の力は使えるようになった?」


2人は少し困ったような表情を浮かべていた。

「俺は基礎の基礎はできるようになったのだが、応用に手間取っている。」

「私は基礎の部分でつまづいちゃって…」


2人とも上手くいっていない様子だった。

「僕も今日から一緒に参加するよ。龍王様は案内人に従うようにって言ってたけど、その方はどちらにいるのかな?」

「あぁ、プラエルさんなら試練の間にいるよ。準備ができたら向かおうか。」


そうして、試練の間へと向かった。

試練の間へと繋がっている道は全体的に白くて硬そうな壁に覆われていた。


「なんだか不思議な空間だね。」

「そうね、ここに来てから見たことがないものばかりだよ。」

「ところでアルクス、お前その髪どうしたんだ?」

バルトロ兄さんに指摘されて見てみると少しだけ黒くなっているように見えた。

龍珠ができた影響だろうか?


「わからないけどきっと後で龍王様が教えてくれるんじゃないかな?」

「問題がないなら良いが。」


歩いて行くと急に開けた空間に出た。

奥には少し大きい扉が見える。

そして、空間全体に何かの力が満ち溢れているように感じる。


「ようこそ、アルクス様。お目覚めになられたのですね。私はプラエル、この龍の試練の間の案内人でございます。」

急に背後から獅子の頭部を持った人が現れた。


「こちらこそ、宜しくお願い致します。ここでは具体的に何をするのでしょうか?」

「まずは龍脈の力を感じ取り、扱えるようになるための基礎訓練。

 次に実際に龍脈の力を自らの力とするための応用訓練。

 そしてそれができましたらアルクス様には最低限の龍珠の扱い方を学んでいただきます。」

「わかりました、宜しくお願いします!」


「じゃあ俺は応用訓練の方に向かうな。」

そう言ってバルトロ兄さんは奥の扉の前に立つと今までに見たこともない圧を放ち扉を開いた。


「あれが龍脈の力の一端でございます。あの程度であればお二方もすぐに使いこなせるようになりますよ。」

「ところで具体的にはどんな訓練をするのでしょうか?

 この空間に満ち溢れている力を使う練習でしょうか?」


プラエルさんが驚きの表情でこちらを眺めてきた。

「おぉ、さすがです。もう龍脈の力を感じ取ることができているのですね。

 それであればあとはこの力を使うのみです。

 アリシアさんは引き続き龍脈の力を感じ取る訓練です。」

「はーい、がんばります。アルクスにこんなに早く追い抜かされるなんて…」

アリシアはぶつぶつ言いながら、座り込んで水晶球のようなものを抱えていた。


「純粋な宝石はウィスやエレメント、そして龍脈の力を溜め込みやすいのですよ。

 その特性を利用して力を感じ取る訓練をしていただいています。

 バルトロさんも昨日やっと龍脈の力を感じ取り、基本的な使い方を覚えたところでした。

 アルクス様はこの部屋に入った時からもう感じ取られていたのでしょうか?」


なぜかプラエルさんから様付けをされていて、落ち着かない。

「なるほど。そうですね、この部屋に入ってから急に密度が濃くなった感じがしました。

 体の中に龍珠ができたせいでしょうか?

 あと僕に様付けは不要ですよ。2人と同じようにしてもらえると…」

「いえいえ、龍珠の持ち主とあれば、それらは我らよりも上位の存在ということです。

 まだ力は使いこなせていませんが、あっという間に私よりも強くなりますよ。」


 そうして大きな立方体の前に連れてこられた。


「では龍脈の力を用いて、これを砕いてください。闘気を使ってはいけませんよ?」

 プラエルさんは笑顔でそれだけ言い残して、姿を消してしまった。


「どうすれば良いんだろうか…」

 何もヒントがなく、しばらく途方にくれることになった。


 


 



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