◇25.それで聖女を助けたんですけど。
なんだか知らないが、めんどくさいことになったなと思った。
俺のもといた国、グラフィアスの公爵令嬢アンリエッタが目の前で襲われていた。
しかも街中とかならともかく、人も通らない森の中で。
なんでここにいるんだ。
どうなってんだかさっぱりわからない。
「とりあえずあんたたち、剣を納めろ。うちの森で殺生なんかするな。やるんならよそでやってくれ」
正直言って、彼女のことはどうでもよかった。
本音としては、俺はあの国の王族や貴族たちに良い印象を抱いていない。
彼女個人にひどいことをされたわけではなく、恨みもない。が、積極的に関わりたいとも思わない。
ただ、さすがに目の前で殺しが行われるのを黙って見ているわけにはいかず、俺は男たちを呼び止める。
しかし、どいつも気にした様子はなく、令嬢に剣を振り上げていた男は首をかっ切る仕草で他の奴らに指示を下した。
つまり目撃者である俺たちを始末しろという指示だ。
その動作で、残りの男たちは方向転換してこちらへと襲いかかってくる。
──あ、これはヤバいやつだ。
その素早い動き、ためらいない動作から俺は直感する。
おそらくこいつらは暗殺者が本職だ。自重を感じさせない走り方からして常人じゃない。
気を抜いたら、一瞬でやられてしまう。
「『
俺は即座に闇魔法を発動させた。
剣が間合いに入るより先に、帯状の魔力が地表から湧き上がり、彼らを拘束する。
「『
続いて魔力の波長を殺傷形態に変え、縛り上げた帯を棘化させて一気に貫く。
ザザザザザシュッ!
「ぐぁっ……!」
「がっ……!」
「かはっ……!」
アンリエッタを襲おうとしていた男も含め、全員に致命傷が入る。
そのまま男たちはバタバタと倒れ込み、すぐにピクリとも動かなくなった。
悪いが先手必勝で急所を狙わせてもらった。皆、即死だ。
「……ったく、怖いんだよ。速攻で殺しに来るなっての」
「む、婿殿……」
息をもつかせぬ展開に、メルフィナがやっとのことで言葉を絞り出す。
「ああ、悪い。勝手にいかせてもらった。様子見とかしてたら、多分俺たちの方が危なかっただろうから」
「い、いや、婿殿……やはりあなたは侮れんのだな。容赦がないというか……。さすがは竜の巫女の夫なだけはある」
メルフィナはそう言って、冷や汗をかきながらも俺に拍手を送ってくれた。
……別に賞賛されるほどでもないんだが。
闇魔法の棘は影と同色で、敵に視認されにくい夜だから倒せただけだと思う。
いち早く動けたのは、亡命時に苦労した経験があるからだ。
てか、さっきから思ってたんだが……婿殿って呼び方はどうなのさ。
そして俺は、腰が抜けたまま尻もちをついて動けないアンリエッタに手を差し伸べる。
「久しぶりだな、お嬢さん。ろくに話したこともなかったが……召喚の場で会って以来か。……立てるか? とりあえず、今夜はうちに泊まって、明日になったらわけを聞かせてくれるかな。こんなところにあんたがいる
この時は迷い込んだだけかと思っていたのだが……なんというか、彼女との邂逅が、すぐ後の大騒動へと俺たちが巻き込まれるきっかけになるのである。
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