◇24.聖女が絶体絶命だったんですけど。
俺がアンリエッタに会うよりも、半日前に時はさかのぼる。
その日、俺はエイラたちのパーティに加わり、ダンジョンの中に入っていた。
ただ、その時の探索はいつもと少し異なり、ダークエルフの女剣士三人がそこについてきていた。
俺の店に押し掛けてきたあの三人。村長のスィーリアからお達しがあり、当然、リリアの夫である俺にも失礼な真似をしないようにと厳命があったのだが、三人のうちメルフィナ以外の二人は「人間ごときが」という思いを捨てきれないらしく、違背を承知で俺との勝負を持ちかけきた。
要するに、自分たちが人間よりも優っていることを証明したいらしい。
別に俺は見下されようが構わないのだが、ちょうどその日はエイラに誘われていたこともあり、ならばダンジョンでスライムの撃破数を競ってみるかと提案する。
「い、いいのか、
お目付け役としてついてきていたメルフィナはそう戸惑っていたが、ぶっちゃけいっしょにモンスターを狩ってくれればその分探索も楽になる。
一石二鳥の考え。ありがたいことに彼女らは上手いこと話に乗ってくれて、俺たちは普段降りない階層まで歩を進めることができた。
「なるほど、婿殿は闇属性の力を物体化して利用しているのだな……。我らとは一味違う魔法の使い方で、興味深い」
探索を終えた後、メルフィナはダークエルフがどのように闇魔法を使用しているか、色々と俺に教示してくれた。
彼女たちは俺とは異なり、闇属性の魔力を主にエネルギー状に変化させて、他の魔法と似た感じで運用しているらしい。
たとえば、闇の魔力を黒い炎へと変換したり、あるいは雷状のエネルギーに変化させるなどだ。
今回の勝負でも、ダークエルフの二人は漆黒の雷撃を剣にまとわせて、それをスライムの核部分に突き刺すという戦法を採っていた。
ちなみに俺の方は、闇属性の帯を長く伸ばして地に這わせ、それを石畳の隙間に紛れ込ませたうえで棘状にして突き刺している。
色々と研究を重ね、そうやって蛇のように自在に操ったり、あるいはカードのように小さく切り離したりして、それらを遠隔操作することが可能となっていた。
勝負の結果は引き分け。なお、その勝負で一番利を得たのは、物理オンリーのメンバーしかおらず、通常攻撃でスライムに対処できないエイラたちのパーティ一同だった。
「スライムがドロップするジュエルって、結構換金率高いんですよねー。えへへー、得しちゃった」
ま、それは別にいいんだけど。
メルフィナたちがいない場合、俺一人でそれをやるつもりだったから。
そんな感じで一日の探索を終え、俺はメルフィナだけでなく、他のダークエルフともそれなりに打ち解ける。
「むぅ、人間も……なかなかやるではないか」
「そうだな。貴様は姫巫女様の夫でもあることだし……認めてやらんこともない」
素直じゃないのか何なのか。俺は彼女たち二人とも世間話をして仲良くなり、エイラたちと別れた帰り際には、ダークエルフの逸話なども教えてもらうまでになった。
たとえば、大昔のダークエルフには人間に好意的な者もいて、俺と同じように身代わりの影布を使用して人々を助けていたとか。
身代わりの影布にはさらなる発展形の魔法が存在して、魔力の大きい俺ならおそらくそれも可能であるとか。そんな話だ。
「その奇特なダークエルフの男は、お前と同じように黒髪でな。闇属性の色も相まって、『黒の賢者』などと人間から呼ばれ、慕われていたらしい」
「もしかしたら、人間とのハーフだったのかもしれんな。我々は基本的に銀髪だ。黒髪の同族は見たことがない」
なお、先に言っておくと、俺がそのダークエルフの生まれ変わりだなんてオチはない。前世の記憶なんてものはないし、先祖にダークエルフがいたわけでもないから。
そうやって俺たちは薬屋への帰路を歩いていたのだが、突如森の奥から炎の弾が飛んでくる。
「──っ、な、何だっ!?」
敵意は感じられず、流れ弾のように見えたその火炎魔法。それが発射された方角へと警戒しながら向かったのだが、偶然か必然か、そこにはまさに今斬られんとしているアンリエッタがいたのだった。
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