◇04.竜が女の子になったんですけど。


 それから二日後。

 俺は召喚された竜とともに王宮の花壇にいた。


 俺が出立の準備をする間、竜にはこの花壇で待ってもらっていた。

 数日野ざらしだったのは申し訳ないが、トラブルを起こすこともなく、静かに過ごしてくれていたらしい。

 召喚時に受けた傷もすっかり自然治癒している。

 知能も高いし、これだけでこの竜がかなり優秀な個体だということがわかる。


「いい子にしていてくれたんだな。ありがとう」


 地に伏せていた頭をなでてやると、竜は恥ずかしそうに目を細めた。


「さて、これから俺たちは王都を出る。向かうのは南のカルスの森だ。そこには俺の魔術の師匠の居宅があって、お前の住処になりそうなでかい洞窟もある。今から一緒にそこに向かうわけだが……。すまないが、お前の背に乗せていってもらえないか」


 俺が頼むと、竜は承諾の返事としてクォーンと高い声をあげた。


 そうして俺たちは国を出る。

 国境線上で唯一結界が張られていない大正門をくぐった後、南の森へ。

 歩けば数週間かかるところだが、竜の飛行速度では三日も経たずに着いてしまった。


 ちなみに、竜用の鞍などないので、俺は闇属性の魔力の帯を編み込んで、それで即席の座席と手綱を作らせてもらった。

 闇の魔力は意外と使い勝手が良かった。

 風や炎のように実体がないわけでもなく、ある程度の硬さを保ったままで自由に形も変えられる。

 俺の手から離れた後も、崩れてなくなったりすることもない。


(まあ、それでも、いかにも呪われた魔力っぽいから、他の奴は触るのを嫌がるんだろうけどな……)


 とりあえず、俺が闇属性であることは、引っ越し先では黙っていようと思った。




 カルスの森についた。

 俺は森の入り口で呪文を唱え、祈りの所作とともに念を込める。

 すると、うっそうと茂っていた森の木々が、道をつくるようにかき分けられていった。

 これは俺の魔法属性とは関係ない、森全体にかけられた通行用の術式だ。


「ここから少し歩いたところに魔女の住処がある。その魔女が俺の師匠なんだ。彼女は異国人である俺のことも差別せずに魔法を教えてくれた。ただ、数年前に胸を悪くして、そのまま亡くなられてな……。この先にある家も含めて、彼女の遺産は俺が受け継ぐことになったんだ」


 師匠には魔術以外にも薬の作り方など、一通りのことを教わっていた。

 だから俺は当面は薬師として、この森で生計を立てようと考えていた。


 竜は俺の説明を聞くと、何か言いたげに森と俺を交互に見て、グワゥと一鳴きする。

 あぁ、そうか。呪文で草木をかき分けたつもりだったが、サイズ的にこいつが通るにはまだまだ狭かったようだ。


「悪い、待ってろ。もう少し広く道を拓くから」


 しかし、俺がそう言った直後、『いえ、大丈夫です』と、どこからか声がした。


『私の方が小さくなりますから』


「え」


(女の声……?)



 それは心に直接語り掛ける、テレパシーのようだった。

 まさかと思い竜を見ると、視線があった直後、巨体が強く光り出す。

 まぶしくて目を開けていられず、俺は腕で顔を覆う。

 しばらくすると徐々に光は収まってゆき、竜がいた場所をもう一度見ると、そこには純白の魔法衣に身をつつんだ銀髪の少女が立っていた。

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