◇03.竜になつかれたと思ったら、国外追放されたんですけど。


「お前……俺のことが理解できるのか?」


 そう尋ねると、竜は喉をグルルと鳴らした。


「痛かったよな。大丈夫か」


 キュウキュウ、グルル。


 竜は顔を俺に近づける。

 何だか知らないが懐かれたみたいだった。

 とはいえ、電撃を打ち消しただけで怪我が治ったわけではないので、恩に着られるのは申し訳ない気持ちになる。


(敵意は、ないみたいだな……)


 鱗のない首の下の部分に手を近づけると、竜の方からなでさせるように俺の手のひらに触れてきた。


「カイト・フェデラル……お、お前、その竜と知り合いなのか……?」


 この場の責任者である召喚長が尋ねる。

 俺は「そんなわけないでしょう」と否定した。


「俺の魔力で、こいつの身体を傷つけてたエネルギーを相殺したんです。どうやらそのことで感謝されてるみたいで……。つまり、この竜はちゃんと知能があるんですよ。殺すのはやめた方がいいんじゃないですかね」


「てめぇ、偉そうに何を……」


 同僚の一人が俺をにらんだ。

 すると直後、竜がそいつを見て低くうなる。


「グォルル……」


「ひっ」


「待て待て。敵じゃない」


 俺の言葉に竜はそこで止まった。

 ありがたい。本当にこちらの言うことは聞いてくれるみたいだ。


「か、カイトよ。その竜の処分、貴様に任せても……その、大丈夫か?」


「構いませんが。ただ、殺せという命令なら、俺はご免こうむりますよ」


 人道的にも、物理的にも、それは無理な話だ。


「よし。ならば貴様が責任をもって、その竜を国外へと追いやるのだ。このような巨大な化物を飼う余裕など我々にはない。殺したくないというなら、国に被害が及ばないよう貴様が国の外で面倒を見ろ」


「……は?」


 いや、ちょっと待て。今とんでもないことをさらっと言われた気がするんだが。


「すみません。俺に国を出て行けと言っているように聞こえましたが」


「そうだ。お前がこの竜を殺せないのなら、当然そうなるだろうな。仕方がないが、従ってもらうしかない」


 いやいやいや、何言ってるんだよ。どうしてそうなるんだ。


「待って下さい、納得いきません。この事態が生じたことに、そもそも俺の責任はないでしょうが」


「だが、当面この竜をどうにかせねばならんことに変わりはないだろう。それにお前は闇属性の魔術以外を使えなくなったと聞いたぞ。そうであるならむしろ都合が良いではないか。お前がいくら粘って王宮に留まっても、魔法を使えねばそれこそ無意味なことだ」


 それは王子のせいで……いや、ダメだ。この人に王子を追及する権限はないし、端からその気もないみたいだ。

 トカゲの尻尾切りと同じだった。いなくなっても問題ない俺を、竜ともども放逐し、それで事態は収まったことにする。

 周りを見れば、王子も同僚の魔術師たちも、下卑た薄ら笑いを浮かべて俺の方を見ていた。

 誰もがこちらの事情など考えもせず、ただ都合良く利用できたと喜んでいる。

 味方がいない。誰にも頼らず一人でやっていけると思っていたけど、困った時に助けてくれる人がいないというのは、思った以上にキツいことだった。


「……わかりました。ですが、出立までの時間と、退職金くらいはいただけるんでしょうね。俺だって金がなければ生きていけないんで」


「うむ。竜を鎮めた功績は認めねばならぬしな……。まあ、いいだろう」


 はぁ、国外か……。まあ、住む場所の当てがないわけじゃないけど……。


 そんな俺の心配をよそに、俺の背後で竜がグルルと優しい鳴き声をあげたのだった。

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