第3話 蔵の中で見た物
「暗い......」
昼なお暗い蔵の中、煩雑に詰め込まれた品物に辟易しつつ、天井からぶら下がっている裸電球のスイッチを操作して明かりを確保する。色温度低の弱々しい光が周囲を照らし出す。ホコリが降り積もって、自分の動きで舞い上がったほこりがキラキラと光っていた。
蔵の中は独特の静寂と、夏だというのに外気から遮断された涼しさで、外でかいた汗が引いていく。
「うん、何処から手をつけたものやら?」
蔵の持ち主である祖父母は狭いしよく分からないからと、鍵を開けた後は直ぐに居なくなってしまっていた、改めてマスクと手袋で装備を調え気合いを入れる。
入り口の地層は年代的に新しそうなので、奥だろうと当たりを付け、農機具のスコップやトウミやら千歯こきやら軽く見るだけに留めて奥を目指す、多少は使って居るようだが、一階はどうやら昭和の地層か? と言う事で、梯子の様な急階段をよじ登り、二階に上がる、使っている内に元からあったモノを段々と上に押し込んでいった様子で、上の階には明らかに古いモノがみっしりと積み上げられていた。
中々見事な日本式の甲冑一揃いが家紋付きの鎧櫃(よろいびつ)に収まっていた、甲冑は傷だらけで使用感が有り、明らかに戦場帰りと分かる、鎧櫃の中には他にも、登録証書無しの日本刀に、短刀……先ずは登録しなきゃ困るな? 手入れはせずにほったらかしだが、納める前にちゃんと油は引いていたのか、余り酷い状態ではない。
コレも戦場帰りで色々斬った後なのか、生々しい刃こぼれが有ることはご愛敬と言ったところか。
「蔵は素晴らしいな?」
二階の鎧櫃に納められていたので、地面から上がってくる湿気からも守られていたのか、ホコリが積もっている以外は、驚くほど保存状態は良い。
「ダマスカス……ウーツ鋼の短剣?」
何気に手に取ったモノを見て首をかしげる、古い地層から出て来るモノとしては不釣り合いだ、日本式の折り返し鍛錬で作られる波紋、木目肌とは違う、ランダム的に配置された独特の模様が違和感を主張していた。
「なんで金貨や銀貨やらが小判やになにやらと一緒に納められてるんだ?」
不勉強なので外国製のものとしか分からない、日本の硬貨なら大体分かるのだが……
「青い……宝石?……カラーストーン?」
一緒に入っている小さな袋には、小さな青い宝石の原石がざらざらと入っていた、無造作すぎてちゃんとした宝石には見えない、当時としては高かったんだろうか?
「本?」
奥に入っていたボロボロの紙束を見つけて、慎重に開く。
「いや、洋紙? 硫酸紙?」
経年劣化していて、触った端から崩れそうだが、劣化具合としては紙の質が良いのか割と白い。
「なんで和紙じゃないんだ……?」
和紙なら千年は保つが、洋紙、硫酸紙は薬品の関係で勝手に劣化してしまうのだ。
「下手に触れん……」
慎重につまんで、中身を少し見る。
ノートの様に罫線が引いてある、と言うか……
「なんで現代語?」
妙に細い文字で書き込んであった、筆文字では無い。
「横書きだし?」
日本語筆記としては最近過ぎる。
「どっかで見たような?」
酷い癖文字だが、読めないことはない。
「と言うか、現代かな使ってる……?」
文字も文体も現代だ、オーパーツにしても可笑しいので、変なところから紛れ込んだのだろう。
誰かのメモ紙だったのか、読めることは読めるのだが、何とも断片的で、何が書いてあるのか分からないし、そもそも薄暗くてモノを読むには向かない状態だ。
「後でちゃんと読もう……」
一旦保留として横に置いた。
ずずん………
ぱらぱら………
「ん?」
小さく、だが、妙な違和感のある振動が響いた。反作用として降り積もっていたホコリが落ちてくる。
「地震?」
思わず動きを止め、周囲を伺(うかが)う。
ガガガガガガ!
大きく揺れ出した、降り積もっていたホコリが崩れて視界が真っ白になる、咄嗟にリュックだけ手に取り、転がるように階段を降りて、外に飛び出した。
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