第1話 戦国時代のロスタイム

 時代は戦国が終わり江戸へと移った頃、世界史で見ても長い戦乱の150年の締めくくり、大阪夏の陣が終わると、戦場での武士の仕事が無くなり、武士は何時しか侍に、文官仕事をする者を刺す事と成り、戦働きしかしたことの無い武士達は旧来の武士たちは職にあぶれる事と成る。

 そして戦働きしか出来ない脳筋武士達は何処へ行くかと言うと。


「私の故郷で傭兵として働きませんか?」

 宣教師の振りをした奴隷証人が甘い言葉を吐いて居る。

 世界史的にはこの時代は大航海時代、宣教師と商人、奴隷商が幅を利かせる時代である。

 この時代、宣教師の振りをした奴隷商は「私の故郷で勉強しませんか?」等と言う甘い言葉を吐きながら日ノ本の国から連れ出し、海の向こうで人身売買、奴隷貿易をして利益を上げていた、同時に職にあぶれた武士に対してこの様に傭兵の求人を出して戦地に傭兵もとい剣奴(けんど)として売る事もしていた。

 そして、この諸々の行動は後々幕府の預かり知る事と成り、諸々の振る舞いに怒った幕府によって鎖国を敷かれる事と成る、だが江戸幕府の始まりから鎖国迄は其れなりに時間があったため、かなりの人数が海を渡る事に成る。

 この物語は、その海を渡った一人の武士の話である。




 わいわいがやがやと人が集まっている。

 野次馬に誘われて、人混みを見下ろす様に高台、民家の屋根の上から二人の人間が見下ろしていた。

「この者は人の心を惑わす魔女である! 勇敢なる民衆の告発に寄り判明した! これより公開魔女裁判を行う!」

 妙にキラキラとした鎧の男が高らかに宣言する、その後ろにはボロボロの少女が縄で縛られ、ステージと言うか踏み台の上に半ば吊るされた状態で衆人監視の下にさらされていた。縄は人を吊るすだけにしては大袈裟な櫓常の構造物を通り、反対側に人より重そうな石が縛り付けられていた。手下らしい者達が周りを囲んでいる。

「なあ。アレは?」

 旅の道連れが興味深そうに指を指す。

「魔女裁判、この時代のこの国は一寸目立った女を有る事無い罪で告発して痛めつける事を娯楽にしてる」

 思わず嫌そうに説明する。実際嫌な時代だ、宗教と迷信が幅を利かせ、人権が無い、平民の命は鳥の羽より軽く、アイルランド兵は弓矢より安い、実質的なこの時代の中心とはいえ、余り文化の華と言う物は感じられない。

 ある意味150年ほど当ても無く戦争を続けた故郷が文化的にすら感じられる。

「無実なのか?」

 キョトンと男が聞き返して来る。

「あの娘の罪状は解らないけど、大抵無実・・・・」

「この者の罪状は、毒物を部屋に隠し持って居た事である!」

 偉そうな男が高らかに宣言する、距離が有るので少女の返答やら何やらは聞こえないが、首を横に振って居る。

「前言撤回、あの偉そうに喋ってる阿呆の自作自演」

 恐らく少女の持ち物でなくても、取り調べ中にこんな物が出て来たと自分のポケットから取り出したとしても、少女は無実を証明できない。

「で、あの娘は如何なる? 無実は証明できるか?」

 興味深そうに改めて聞いて来る、

「無理、魔女だと認めなければ認める迄痛めつけられて、認めたら火炙りか縛り首」

 一般的に告発されて捕まった時点で詰んでいる。

「味方は?」

「居ない、この国で一般人が権力を持ってる教会にたてつくと殺される以外のオチは無い」

 思わずため息を付く。

「アレはどんな器具なのだ?」

「見た目通り、重りと少女が天秤状態に成ってて、留め具を外すとものすごい勢いで重りに引っ張られて、その衝撃で全身の骨が外れる・・・・」

「ほう・・・・」

 ごそごそと男が何かを始める。

「この者は黙秘を決め込むようだが! 我々はそんな事を許さない! もしもこの者に神の加護が有るのならば縄が切れるか空を飛んで無傷に済む事だろう!」

 さあやれと手下に指示を出している。

「ならば、儂の加護が有って助かっても問題無いな?」

 妙な自信に満ちた声が聞こえる。

「一体何を?」

 思わず呟きつつ声の方を見ると、流れる様に弓に妙な細工をしつつ、弓を構えて引き絞る男が居た。

 眼下では手下達が目配せしつつ留め具の縄を外し始める。

 今か今かと残酷なショーを見つめる民衆。

 さあ落ちるぞと言うタイミングで、風切り音が鳴る、少女を縛る縄が切れて、少女が尻もちをつき、固定を失った巨大な岩がズシンと言う音を立てて地面に落ちる。

 一瞬、場が静まり返った。

「奇跡だ・・・・」

 誰かが呟く。

 奇跡だ奇跡だと騒ぎが広がって行く。

 ばつが悪くなったのか、先程より小さな声で今回はここまでと呟き、教会の面々が引き上げを始めたが、少女は尻もちをついた状態のまま転がされていた。

 騒ぐ民衆は遠回しに呟くだけで助け起こしに行く様子も無い。


「奇跡だ何だと言っても人情薄いもんじゃのう?」

 男は得意気だが、不満そうに呟いている。

「じゃあ、助けた者の責任を取りに行こうか?」

 矢を回収して証拠を消す為と、少女を助け起こす為にこっそり屋根から飛び降りた。



 追伸

 描写されて居ませんが、弓矢の細工は矢羽根を一列引っこ抜いて飛ぶ方向をずらして居ます、目の前の石畳に矢が突き刺さっては直ぐにバレると言う事である程度方向転換してどこか遠くに飛んで行く様にの小細工です。

 初速の高速時に直進して、ある程度失速すると空気抵抗で曲がる感じです。

 観衆の視線は少女に集中しているのでマジックの視線誘導が先にかかっている状態ですので、矢さえ見つからなければ騙すのは、そう難しくありません。

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