第十二章「カワイイは正義というなら誰が正義になるのだろうか(その3)」

「人間はそう簡単には屈さない……殆どの戦を勇一人に押し付けていた人間の底力とは如何ほどのことか」


 その後姿に向かって、セリスは形の良い口元を歪めて呟いた。


 毒のある呟きを聴いたクゥは反論せずに黙って空となったカップへ視線を落とした。


 彼女の反応はセリスの言を無言で肯定するものだったのだ。


 異世界は勇が召還された時点でほぼ半分が制圧されていた。


 各国の軍隊も人間相手ならまだしも、魔族や魔物で構成された軍隊の前には連戦連敗を余儀なくされた。魔界軍からすれば、まさに鎧袖一触とはこのことであった。


 雷電の勇者が召還されて以降は、彼が片っ端から魔界軍を蹴散らしていき、次々と占領された地域を奪還していったが、大きな戦いの全てを勇一人で戦い抜いた故の成果であった。


 マックス王国をはじめとする各国は自国防衛に精一杯であり、多少の支援を除き、異世界の軍隊が行ったのは奪還した土地の治安維持ぐらいのものであった。


 軽視すべき職務ではないが、年端もいかぬ少年一人に負担の九割以上を押し付けた事実がある以上情けない戦果であった。


 今回の件も、十万の精兵を集めたというが、戦力の要はクゥ姫と姫子であろう。それとて、勇よりも劣るのは誰が見ても明らかであった。


 それらを踏まえてセリスは皮肉気な笑みを浮かべ、クゥは心ならずも勇に負担を押し付けた罪悪感に沈黙する。


 まだ事情をあまり知らない姫子も二人の間に漂う気まずい空気に気圧されて居心地悪そうに視線を明後日の方向へ逸らす。


 勇は腕を組んで妻の呟きにも姫君の沈黙にも答えなかった。


「……あの王子様に何か策でもあるのだろうな」


 短い沈黙の後、セリスはうな垂れているクゥに突き刺すような目を向ける。


 十万という数字は異世界では大軍であるが、魔界においては大きい方のゲート守備隊規模の兵力である。


 クゥや姫子の力添えでなんとか愛二十四ゲートのような小規模ゲートの守備隊相手に互角以上の戦いが出来るのが限界であった。ゲート一つを占拠して維持を試みようとしても、一ヶ月も持ちこたえれば上等であろう。


 目的が勇者を武力で奪還ならば、数千万の大軍相手に喧嘩を売るには十万は少ない。地理に不慣れで相手の情報も少ないのなら尚更である。


 最初から話し合い目的ならば、半端に兵隊集めるより先に使節を派遣すべきだろう。


 拒絶されるにしろ、形式を最初から無視するのはあまりにも乱暴である。侵略してきた魔族に護る礼儀などないと主張するかもしれないが、それも理由としては正解ではなさそうだった。


 相手はゲート占拠が目的ではないのか。


 異世界ではなく、わざわざ魔界にあるものを使うのは、この世界に危害を加えようとしてるからか。何を呼び出そうというのか。


 セリスは銀色の髪を掻きあげた。情報の乏しい中での推測は主観が入りすぎる。結論はまだ出せない。情報を集めなければなるまい。


「貴様は兄が何か企んでいるの知らんのか?」


「お兄様がそんな真似をするだなんて、信じられません。貴女ではあるまいし」


「信じるのは勝手だが、ではあの気障ったらしい王太子は何故ああいう物言いをするのだ? ハッタリもある程度根拠がなければすぐさま看破されるぞ」


「仮にです、お兄様にお考えがあろうとも、私には知らされてません。実務は全てお兄様が引き受けておられるますから」


「おいインスタント勇者。お前は何か知らないのか?」


「クゥ様がご存知ないのにアタシが知るわけないじゃないですか」


 両者の返答にセリスは大きく舌打ちの音をたてた。


「まったく役に立たないな。我ら夫婦に役立つ機会というのに。我が家で飼ってる愛玩動物以下とは嘆かわしい。せめて一芸をもって人の役に立とうという意欲ぐらいあったらどうだ」


「なんで大魔王の貴女なんかの役にたたなければいけないんですか!?」


「そうですよ! 桜上くんの為だとしても、大魔王から取り戻せるんだったら私たちは殿下の味方するのが当たり前じゃないですか!」


「勇は妻のモノだぞ。妻は夫が望むなら様々な行為を受けるが、寝取り寝取られは好みでない。愚かしい考えは捨ててとっとと帰れ帰れ」


「帰れと言われて帰るぐらいならこんな物騒なとこに来ませんよ。それぐらいも察せないとは、頭が色ボケしてるのではなくて?」


「勇ぅ。凶暴女が妻を苛めるのだー。傷ついている繊細な妻を慰める為に甘えさせてくれー。妻は寂しいと死んでしまいそうだー」


「キャラ変えて甘えるなんてやめてくださいよ!! もう、離れてください人外の総元締めがー!」


「だからなんで赤の他人が異議を申し立ててるのだ。こちらは結婚式も初夜も済ませた結婚生活三ヶ月目の新婚なのだぞ。子宝に恵まれる為の努力を怠らずしておるし、来年にはこちとら母親(予定)じゃ」


「既に初夜完了済ですって!? 桜上くんの純潔を奪うとは、やっぱり貴女はまぎれもない大魔王です! 鬼畜です! 表に出ろです!!」


「ゆゆゆゆゆゆゆしゃしゃしゃしゃささささささままままままがががががが……」


「初心な小娘どもには我ら夫婦の濃厚なひと時なぞ理解できまいよ。はははは、悔しいのう悔しいのう」


 かしましい娘達の和やかな会話の中、勇は心ここにあらずな態で天井を見上げていた。


 あまりの馬鹿馬鹿しさに逃避に走ったのではなく、あの熱が騒ぎかけていたのだ。


 実を言うと、最初ゲートの話を聞いたときから、魔力の乱れを意識して身体の芯がゾクゾクするような感覚が駆け上っていた。


 発作のように、不意に蠢く血の熱さが肌を過敏にさせる。体内で脈打つ何かが思考を麻痺させようと触手を伸ばしてくる。


 自分でも分からない滾る感情を持て余し、勇は悟られぬように熱っぽい息を漏らして目を閉じる。早く静まってくれと焦り、眉根を寄せた。


「桜上くん?」


 先程から沈黙している勇を訝しく思った姫子は遠慮がちに声をかけた。


 最初反応が来なかったが、二度三度呼ぶと、ようやく黒髪の勇者は自分が呼ばれている事に気づき、瞼を開け、首を軽く横に振った。


「どうしたの桜上くん」


「えっ、いや、わりぃ。ちょっとぼんやりしてた」


 誤魔化すように鼻先を掻いて俯いた。相手に説明し難い故に内心を悟られぬように大袈裟な身振りをしてみせる。


 不自然な挙動を見せるものの、姫子は気づくことなく安堵の笑みを浮かべた。


「それならいいんだけ。まっ、でも仕方がないかぁ。色々あって頭が追いつかないしね」


「色々あったな確かに」


 勇はしみじみとした口調で姫子に同意した。


「それにしても、華野が勇者になるなんて想像出来なかったぜ。アッチじゃ大人しい図書委員だったのがさ、本の代わりに物騒な杖を持つなんて目の前に居ても信じられないぜ」


「それはね、アタシも最初は『なんで!?』って文句の一つも言ったよ。でも、桜上くんが異世界で勇者やってて、つい最近大魔王に攫われたって聞かされたらさ、アタシも頑張らないといけないなって」


「んな無理しなくても異世界の人たちに任せてればよかったんじゃねーの。ゲームじゃないから下手打ったらあの世に逝っちまうんだぜ?」


「わかってる……つもり。だけど、それでもアタシは桜上くんが好きだから! 好きだからここまで頑張れたの!」


「……なぁ、さっきも言ってだけどよ、それは同級生とか学友としての意味じゃないのか?」


「違うってば! L・O・V・Eと書いてラブと読む方だよ。一年の時同じクラスになったときから好きだったんだから」


「……」


 返答に窮した雷電の勇者は、白金卿と呼ばれている少女を強引に無視したい衝動に駆られたが、人並みには空気を読めると自負する彼にはそれが出来なかった。呼吸を整え、呻くように問いかける。


「好きになった理由を、可能ならば聞きたいんだが……」


「いいよ。この際言う事言って進展させるのも有りだよね。えぇとね、あれは……」


「おぉっとぉ! 手が滑った!!」


 頬を赤らめて語りだそうとした姫子の顔面めがけ、セリスが魔力の篭った正拳突きを迷う事も反れる事もなく振るわせた。制止する暇もなく、物質が潰れる音が勇らの鼓膜を叩いた。


 姫子は椅子から吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


 衝撃で壁に大きなヒビが入るぐらいには強力な一撃である。彼女の顔はお岩さんよろしく見るも無残に潰れた……と、思われたが、そうはならなかった。


 叩きつけられ、壁から床へとずり落ちた姫子の顔面には傷一つなかった。顔を庇った右の手に握り拳サイズの痣が作られているだけである。


 姫子は咄嗟に右手で対物理用の魔法障壁を作り上げて防護してのけたのだった。


 伊達に勇者として選ばれた人間ではない非凡さであろう。手加減されたというのは殴った方も殴られた方も暗黙の上ではあったが。


「衝撃吸収処理も施したのに、なんていう力してんですかこの魔王……」


「量産型の割には悪くない反応だ。勇の事がなければ近衛師団入りさせてもいいぐらいだ」


「誰が量産型ですかぁ!?」


「黙れ間女。お前みたいなのは量産型か簡易型で十分。ラ○オトルー○ーとか陸戦○ガン○ムとかフリ○トとかの立ち位置だ。スペックは高いが主役には及ばないお手軽要因がお似合いだぞ」


「こっちに分からない単語使わないでくださいよ! ついていけないったらありしゃないのに」


「それよりもお前。いきなり殴るこたねーだろ。防御してなかったら華野死んでたんだぜ」


「そうですわよ。それは私も内心では仇敵の大魔王に喝采を送りかけそうになりましたけど」


「クゥ様何言ってるんですか!? アタシと桜上くんの仲に嫉妬してるからって節操なくて見苦しって、痛い痛い痛いです!! ず、頭蓋骨が軋んでるんです! 頭が割れそう、いや、ホントに嫌な音が……折角防御したのにこれじゃ殴られてるの同じって、イタイデスイタイデス……!」


 頃合と見たのか、姫子にアイアンクローを施していたクゥは、セリスを非友好的な目で一瞥し、勇に向き直り会釈した。


「お兄様達とお話がありますので、名残惜しいですが失礼しますわ。休憩が終わりましたら、すぐにではありますがお会い致しましょう。必ず、勇者様を還してもらいますからね」


 苦痛の声をあげる姫子の頭を掴んだまま、クゥは二人の前から立ち去っていった。


 彼女の言うとおり、休憩が終わればまた顔を合わせるので特に返事をせず見送っていった。


 二人が去り、また様々な用事で出払った会議室は二人だけしか居なかった。


 勇は熱い呼気を吐き出した。騒がしさで紛れたと思っていたが、静かになった途端に再び熱を意識することとなった。


 一人で大人しくしてれば潮が引くように収まる筈だった。今までもそうやってれば押さえられていた。


 口実を作ってこの場から離れようとして立ち上がろうとした勇をセリスは腕を掴んでとめた。腕を引っ張る椅子へと戻らせる。


「離せよ」


 苛立ちを隠さない夫に気づかないフリをして、セリスは顔を近づけた。数分前まで見せていた傍若無人で厚顔不遜を擬人化させたような態度ではなく、誠実さと穏やかさとが姿を見せていた。


「勇」


 セリスは勇の前髪を指先に絡ませ、優しい手つきで梳きだす。


 思いがけない行動に戸惑いを見せる勇へ、銀髪の魔王は月のように輝く銀の瞳で見つめる。


「身体が熱いのか」


「……ッ!」


「自分で自分を抑えられないぐらいに」


 見透かしたかのような台詞。実際図星なだけに勇は絶句してしまった。ようやく問いかけられた声も弱い呟きにしかならなかった。


「なんで、それを」


「当たり前だ。妻は勇の奥さんだぞ。夫の些細な変化も見逃さないのが良妻の条件であるのだから」


 誇らしげに胸を張るセリス。


 いつもならば言い返す勇であるが、目の前に居る妻は気づき、それ以外の相手には気づかれなかったのだ。王太子ですら微弱な乱れしか察する事が出来なかったのだから、誇りたくもなるのも理解は出来るので口には出さなかった。


 指先で相手の髪を梳きつつ、大魔王はここで休めと彼に告げる。


「落ち着くまで会談は休憩にしてやる。妻も傍にいてやるから、安心して休むがよいぞ」


 指は絡めていた髪から離れ、勇の額から頬へとゆっくりと下り、唇や顎をなぞる。隅から隅まで触覚で感じようと、愛しげに夫の肌を触れてまわる。荒ぶる熱を落ち着かせるかのように。


「なにせ勇はもう私無しでは生きられない身体になってるのだからな。私がいなくてはならないのだから」


「……言ってろ馬鹿」


 観念した勇はセリスの手が肌に触れているのを感じながら、背もたれに背中を預けて目を閉じた。しばらくすると、規則的な寝息が勇の唇から漏れ出した。


 眠りに付く夫を間近で見つめ、慈しむように相手の髪の毛を撫でながら、セリスは思考をめくらせていた。


「そろそろ限界か……あの男、もしやコレを知って何かしでかそうとしてるのかな?」


 自問する大魔王に答える存在はなく、文句の多い伴侶の安らいだような寝息が聞こえるだけであった。

 





 そのようなやりとりが行われている中、陰謀の種は蒔かれようとしていた。


 会議室の一室。異世界陣営にあてられた控え室にて、側近らに囲まれた王太子は、大魔王に威圧されて怯えきっている周囲を励ますように口を開いた。


「言わせておけばよい。最後に勝利を掴むのは我らなのだ。大魔王も、雷電の勇者も、我々の為に用意された生贄に等しいのだ」


「し、しかし殿下。憎き大魔王はともかく、勇者様は我らの世界を救ってくださった英雄ですぞ」


 側近の一人の発言に、ガーオネ王子は不快感も露に顔を曇らせた。


「下賤な平民如きが英雄などと、その称号は選ばれし高貴なる人物にこそ相応しい」


 柔和な貴公子の顔に傲慢さを多量に滲ませている。先程まであった清らかさや穏やかさは剥ぎ取られ、俗の強さが露わとなった。


「この私、ガーオネ・ガユウキ・マックスが、大魔王を打倒し、魔界を征服してくれる」


 会談で見せた押しの弱さは偽りだったと言わんばかりに狡猾な笑みが端然としていた顔に刻まれている。


「魔界を支配し、我らの世界をマックス国が統一する。そして天界、冥界、天の国、ありとあらゆる世界を征服して、そして」


 謡うように熱く語る王太子の瞳は、見えない世界を映していた。自分が絶対的な存在となり、新たな世界秩序を作り上げる姿を。


「そして私は新世界の神となるのだ」


 ガーオネ王子は側近らに言い聞かせるように宣言する。


 セリスがこの場に居たならば、「その台詞は失敗フラグだぞ。駄目だコイツ、早く何とかしないと」などと言ったであろうが、この場には日本のサブカル知識のある者はおらず、家臣らは恭しく王太子の宣言に賛同の意を示したのであった。






 拉致会談はそれから幾度も繰り返され、一週間経過した時点で十二回にも及んだが、進展はまったくなかった。


 進展もなく平行線を辿るのは織り込み済みであるのだから、その事は大した問題ではなかった。


 問題なのは、会談が会談として成り立っていないことであった。


 大魔王である魔界の女帝セリスは、第一回の会談から話し合いに応じる姿勢を見せず、それどころかクゥや姫子の存在を知ってからは尚更会戦を望むかのように挑発的な発言が益々表に出てくるようになった。


 異世界側でもクゥ姫や白金卿こと姫子が妥協を見せず、勇者を還せの一点張りである。


 実際戦うとなると勝算は0に限りなく近いのだが、目の前で夫婦の光景を見せられた為か、やや冷静さを欠いているのは否めなかった。


 そこまではいいのだが、ある程度会話が進行すると口論となり、口論は更に過激となって単なる罵り合いとなる。いつ殴り合いないし殺し合いに発展するのか見守る面々の肝を冷やしていた。


 勇に対しての所有権を主張しあう姿は、一世界を背負った代表ではなく、一女性の張り合いのように見える。いや、どう見てもそのような水準であった。


 また、初会談では穏便な話し合いを主張していたガーオネ王太子も、会談を重ねるごとに発言数を減らしていき、十回目時点ではついに公式での発言は無くなった。


 比例して側近らと小声で会話する回数が多くなっており、また彼の部下らがゲートとニーバカルとの往復が頻繁となっていた。


 不審に思う者も居ないわけではなかったが、クゥや姫子はセリスとの対決に意識が集中しており、魔界側も人間のやることに大した関心を持つ事はなかった。それを理由に戦端を開けないものかと考える者がいればまだマシなぐらいだった。


 こうして王子は半ば無視された立場となったのを利用して何事かを画策しだすのであった。


 本来ならば陰謀の類は芽のうちに摘み取るべきであるが、結局誰もが無視して誰もが関心を持たなかったので摘み取られることはなかった。


 後日勇は苦笑を浮かべて妻に語った。


「あの程度は陰謀なんてご大層なもんじゃなかった。ただ誰も芽のうちに摘み取らなかったから結果として陰謀と呼べる水準に達しただけだ」


 さて後日そう語ることとなる勇者といえば、会議室と同じフロアにある事務室にて書類の束に目を通していた。


 為政者として有能で公明正大な大魔王陛下は、ここ数日はクゥや姫子らと会談という名の罵り合い、もしくは勇所有権主張に忙しく、国政がやや滞っていた。


 その間の重要な用件は、大半が臣下らの手によって処理されてるので問題はないのであるが、それでも大魔王に目を通してもらった上で判断を求めるものも存在する。


 そこでセリスは勇に自分の代理をさせることにした。


 補佐には近衛衆の面々がすることとなった。実際のところ、勇も彼らも舌戦時には暇を持て余すのである。


 勇は大魔王の婿であるので立場上は殆ど同格と見なされている。法律で配偶者の統治権に関しての記述がまだ曖昧だったのを理由に、セリスは「権利が無いわけではあるまい」として彼を代理人として任命した。


「難しく考えなくてもよい。ランスロットらの説明を聞いたうえで判子押してくれるだけでいいから」


 面倒ごとを押し付けられて渋面を作る夫に、妻は気軽な調子で言ってのけた。


 なお、公表されないもう一つの理由としては、勇がこの事態を好機と見なして逃走する可能性を潰すというのもあり、近衛衆は補佐と同時に監視の任も兼ねる事となる。


 いい顔をしなかった勇であるが、結局引き受けたのは、会議場で三人の女性が自分の主張権争いされるのに些か嫌気が差していたからだった。


 恥ずかしさといたたまれなさに勇は会談中幾度も中断を求めて抗議したが受け入れられずにいたのだ。


 この件に関しても「勇者様に悪しき魔界の仕事をさせるとは」と、クゥらが異議を唱えた。


 しかし勇が引き受けたので渋々と認めざるえなかった。その間に二言三言血の流れない言葉の殴り合いが演じられはしたが。


 そのような流れで、にわか政治家となった勇は近衛衆の三名と共に書類仕事を行っていた。

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