第4話 来客

「にしても、何もしないというのは退屈だな……」

 ココノが作ってくれた雑炊を食べた後、彼女は

「ちょっと買い出しに行ってきます。家から出たら燃やしますからね」

という、物騒なセリフを言い残してスーパーに行った。

 言われた通りワタシは部屋で安静にしていたのだが、三日も寝ている上に幼少期のトラウマもあるのでおちおちゆっくり寝ていられなかった。しかし、これといってやることもないのでキッチンのあるリビングでタバコを吸っていた。

「まいったな……家に何もなさ過ぎて、時間を潰す手段がない」

 やることがないので独り言をしながらどうやって時間を潰そうか考えていると、不意にインターホンの音が鳴り響く。

「誰だ?」

 ワタシはソファの前にある小さな机の上の灰皿でタバコの火を消して置く。

 基本的にこんな古いアパートには来客なんてない。来るとすれば新聞の勧誘などだろうか。

疑問に思いつつ、ワタシは玄関に向かった。


「どちらさまですか……ん?」

 ワタシはそう言いながら玄関を開ける。だが、ドアの先には人の姿はなく、左右を見ても人影はなかった。いたずらかと思い、家に戻ろうとすると

「どこを見ているの? 私はここよ?」

という、大人びた女性の声が聞こえる。視線を落としてみるとそこには眼鏡と白衣が特徴的なモモが立っていた。どうやら身長の差があってワタシの視界の中に入らなかったようだが……これは言わぬが仏だろう……。

「案外元気そうね、ヒスイ」

 ワタシが倒れたのを知って見舞いに来てくれたのだろうか、手には果物の入ったかごを持っている。

 しかし、ワタシはここで疑問がよぎる。

「……お前に家の住所教えたか?」

 確か自身の記憶では家を引っ越したということは言っても、住所は教えていないはずだ。それに、このアパートはモモの結界の外。結界内ならどこになにがあるか把握しようと思えばできるが、外にあるこのアパートをピンポイントでワタシの家と断定するなんてことは流石にできないはず。一体どうやって……?

「ココノさんに教えてもらったわ」

「またアイツか……」

 そろそろ個人情報を漏らすなって一言言った方がいいかもしれないな……。

「貴女、今起きたの? 髪型もいつも以上にぼさぼさだし、服装も寝間着かしら? 恥じらいもなくその服装で出るのは一人の女性としてどうかと思うわよ?」

 モモはそう言ってワタシの服装を見る。

 ついさっきまで部屋で休んでいたので服装は部屋着な上に髪型はぼさぼさだ。

「仕方ないだろ、そもそもお前が来るなんてこと一切聞いていなかったわけだし。あと一言余計だ」

 そう答えるとモモは苦笑し、

「そうね、急にきて悪かったわ。これ、よかったらどうぞ」

と、果物の盛り合わせを差し出す。

 ワタシはかごを受け取り、少し迷ったあとに

「何もないけど中に入るか?」

と言った。

 彼女のことだ、見舞いだけが用事ではないだろう。何か調査に進展があったのだろうか。

「えぇ。じゃあお言葉に甘えて」

と答え、ワタシの家の中に入った。


「貴女が体調を崩すなんてよっぽど何かあったのかと思ったけど、まさか睡眠不足とはね……」

 モモは部屋のソファに座り、ワタシは今までの経緯を話した。

「それはココノさんも怒るわよ」

 彼女は苦笑しながらそう言う。

「お前だってよく徹夜するだろ?」

「私はあなたと違ってしっかり仮眠をとっています。それに現地調査とデスクワークを一緒にしてはいけないわよ。どちらも大変だけど現地調査の方が体力的に過酷だわ」

 モモも説教口調で言う。全く、ワタシの周りはこういうやつしかいないのか……。

「ところで、何しに来た? 見舞いだけが目的じゃないだろ?」

 本格的な説教が始まる前にワタシは本題を聞く。

「そうなのだけど、その前にせめてそのぼさぼさ頭をどうにかしてくれない……? 短髪だからか知らないけど、寝ぐせも凄いわよ?」

 だが、モモはワタシの身だしなみを指摘する。自分の髪の毛を触ってみると、確かにあちこちはねている気がする。

「そこまでひどいか?」

「えぇ。例えるなら……そうね……ハリネズミみたいね」

「仕方ないな、じゃあちょっとなおしてくる」

 これ以上なにか言われるのも面倒なので、ワタシは洗面所に行って髪型を整えるついでに顔を洗うことにした。

 

「ヒスイ……? あまり髪型戻っているように見えないのだけど……」

「髪質硬くてなおらなかった。まぁ少しはましになっただろう」

顔を洗い、一応髪の毛をくしで整えてきたつもりだがワタシの髪質は手のひらに刺さるぐらい硬く、そう簡単に寝ぐせはなおらなった。それもわかっていたことだが……。

「もしかして、常に帽子かフードかぶっていたのって寝ぐせ隠し?」

「あぁ。毎度毎度、整えても寝て起きたら癖ついてるし、いっそのこと放置した方が楽でな」

「それでよく今まで自分が女性らしいなんて言っていたわね……。まぁ今の時代、男性が女性よりも身だしなみを気にすることだってあるから、その逆がいたっておかしくはないか……」

 モモはそう哀れみとも呆れとも言えない目でワタシを見る。

 ワタシはよくわからず、

「どうかしたか?」

と聞くが、彼女は

「いいえ、なんでもない」

と額を抑えて、困ったような声で答えた。

「で、用件は?」

 変な空気になったので仕切りなおしてもう一度聞く。

 モモははっとした顔をして、さっきとは違う仕事用の真面目な顔をして話し始めた。

「ごめん、そうだったわね。ここに来たのは調査の進展とついでにお見舞いも兼ねてきたの。ココノさんのおかげであなたがいなくてもある程度調査はすすんだわ。でも、まだ肝心な部分は不明なままよ」

 解析は進めていたとは聞いたが、もうわかったことがあるのか。

「わかった部分?」

「この騒動の原因とその一連の流れと言ったところかしら? 推測もあるけれどね」

 彼女はそう言うと突然指を鳴らした。すると急に光を放ったかと思えば、いつの間にかモモの右手には辞書のような厚さの本があった。これは彼女が使っている魔導書だ。

モモはその本を何ページかめくり、続きを話し始める。

「結論から言ってしまえば、この不可解な現象の答えは人間が起こしたことよ。魔力というエネルギーと人間という材料を手に入れるために起こしたこと」

「人間が?」

 ワタシの仮説はあながち間違ってはいなかったが、まさか本当に人間が実行したというのを聞くと驚きを隠せない。

 しかし疑問が残る。どうやって人間はペリを感知し、エネルギーに変換したか。また、エネルギーに変換したところでそれをどう活用するのだろうか。

「通常の人間がペリに対して影響を与えるなんてことはできない。だから普通に考えれば、人間がペリを利用しようとするのは困難だわ。まぁ、例外はいるけれどね」

 モモが言わんとしていることはわかる。ワタシたち書斎の鍵以外にも魔力を扱える人間はいるが、そこまで多いわけではない。

「でも、自分が魔力を持たなくてもペリの力を借りることができるの。それについてはヒスイがよくわかっていると思うわ」

「……?」

 魔力がなくてもペリの力を借りることができる……。確かに、ワタシには魔力というものがほぼない。ココノから借りて使っている。

「それはペリとの契約のことか? 条件が合えば確かに魔力がなくてもペリの力を借りることはできる。だが、ペリから契約を持ちかけること自体滅多にない上、最低でも互いに意思疎通が取れなければ契約は成り立たないだろ?」

「えぇ。でも、例えば剣などといった武器にペリそのものをねじ込み、疑似的に契約することは可能よ。伝承とかである勇者が聖剣を引き抜く……とかそういうのね。実際に赤い戦車の分析をしていたときにその証拠が見つかった。あの赤い戦車は疑似的契約に失敗したなれの果て。人間側の肉体がもたなかったか、精神がもたなかったか、あるいはペリとの相性が悪かったのか。いずれにしてもそういった失敗作の塊。それが赤い戦車よ」

 言葉が出なかった。人身売買され、ペリとの契約と全く適合できず、苦しんだあげくに失敗作と言われ、自我を奪われ、失敗作を魔力で固めてあの肉片のかたまりともいえるおぞましい生物兵器ができる。

 正直、ブルートのやっていることは吐き気がする。どんなに大義名分を掲げたところでアイツらのいう「平和」からは血生臭いにおいがする。何かしらの対策をしなければ、奴らの思惑通りになるだろう。

「この赤い戦車は人間とペリの複合体でもあるのだけれど、動力として利用されているのはペリの持つ魔力なの。だけど、この赤い戦車に使われている動力は契約を用いたものとは別のものね。少しややこしいけれど、赤い戦車に使われている魔力自体はペリの生命維持に使われている魔力をつかっているわ」

「えーっと……話がややこしいんだが……簡単にまとめてくれると助かる」

 ワタシは額を抑えてそういう。現状頭痛がひどく、考えるだけで痛み出す状態だ。そんな状態で一気に情報をまくしたてられても情報処理能力がそこまで高くないワタシにとっては呪文や念仏のように聞こえる。

「まとめると、人間側がペリから魔力を得る方法は大きく分けて二つ。さっきヒスイが言ったペリと契約を結ぶ方法と赤い戦車の動力のようにペリそのものをエネルギーに変換して利用すること。今回町でペリを攻撃していた人間たちはおそらく後者だと思うわ」

「うーん、まぁ、薄っすらわかった気がする」

 要は今回ペリが姿を消しているのは単なる失踪ではなく、誰かがペリという名の魔力を目当てにして集めているわけだ。

「だが、結局今回のことで人間が犯人って言える証拠はないんじゃないか?」

「あったのよ。その証拠がね」

 彼女はそう言うと持っている本に対して手をかざし、小声で呪文を唱えた。すると魔導書は淡く光ったあと、写真のように何かが映し出された。

「これは?」

「普段から天池町内には飛行型の使い魔を何体か放って、その使い魔の視界をこの魔導書に記録していくように設定しているの。貴女が倒れている間は、その使い魔の数を増やして厳戒態勢を敷いていたのだけれど、その時に奇妙なものが映ったの。それがこれよ」

 彼女はそう言って本に映し出されたものを指さす。本に映し出された写真は夜なのか、辺りは暗く全体的に見えづらい。写真中央には覆面を被った複数人の人間が一体のクラゲのような形をしたペリに向かって銃らしきものを発砲しているところだった。クラゲのペリは人間から逃げているように見える。

「この人間……とペリなのか?」

「そうよ。恐らくこの人間たちはペリのことが見える。この写真のような光景が貴女が倒れた翌日からいくつも出始めた。だけど不思議なことにこうやって証拠として残っているのに、ココノさんも私も当日に気づくことができなかったの」

「お前が気づけなかった? 結界を解いていたわけではないんだろ?」

 それは確かに妙だ。ココノはともかく、魔力探知能力においてはワタシ達の中で一番秀でているモモが気づかないのはおかしい。だが、こうやって証拠の写真が何枚もあるのであれば実際に起きているのは間違いないのだろう。

「ペリや人間が消え始めたタイミングとこの写真が撮られたタイミングはほぼ同時期だからこの人間たちが実行犯というのは間違いないと思うわ。ただ、どうしてココノさんと私が異常に気付くことができなかったか、契約を結ばずにどうやってペリを純粋な魔力に変換したかは謎のままね。その上に相手はまるで貴女が動けないことを知っているような動きだった。少なくとも貴女の存在は敵にばれていると思った方がよさそうね」

 深刻そうな表情で彼女はそう言うと本を閉じてこちらを向いた。

「それともう一つ。ここに来てから気づいたことがあるわ」

「何がだ?」

「あなたには元々微量しか魔力がない。それこそ常人よりもはるかに少ない量。それは間違っていないわね?」

「あぁ」

「そして、今はヒスイの影の中にココノさんはいない」

「そうだ」

 彼女は確認するようにいくつか質問した後、今持っている辞書のような厚さの魔導書を消して今度は桃色表紙の手帳のような本を出現させ、ページをいくつかめくる。

 ある程度ページをめくった後、モモが小さく呪文を言うと本のページから魔法陣が浮かび上がる。数秒経つと魔法陣は赤黒い色から真っ白な色になった。

「この魔導書は近くにいる対象の人間の魔力の種類を調べることができるの。色がその人の魔法の種類を表しているのだけど、本来の貴女なら魔法の色は赤黒い色だけのはず。だけど見てのとおり、先ほど魔法陣は赤黒い色から白へ変化した」

 そこまで言うとモモは一度言葉を区切って魔導書をしまう。

「それだとおかしいのよ。私と貴女が今日初めて会ったとき、貴女自身から魔力を感じた。普段ならヒスイから魔力は感じず、影から感じるはず。ここからは推測なのだけど、貴女が倒れたのは睡眠不足と誰かからの攻撃を受けたからとかではない?」

 攻撃? ここ最近で誰かから攻撃を受けたなんてあっただろうか。見回りはしていたが、戦闘行為をしていたわけではないし……強いて言うなら数時間前ココノから受けたデコピンぐらいだろう。

「誰かからの攻撃……? ココノの魔力と間違えてないか?」

「いえ、ココノさんの魔力は把握しているわ。それとはまったく別のものよ。具体的に言葉にするなら、性質は毒みたいなものかしら? 受けた対象の肉体を滅ぼしていくココノさんの炎と似ているかもしれないわ」

「ココノの炎と? じゃあワタシが倒れたのってそれが原因だったりするのか?」

「可能性はあるわね。ただ貴女の耐久力は常人よりはるかに高いから、倒れた原因がその魔法とは断言できないわ。貴女の場合、睡眠不足で倒れたって言ってもおかしくないし」

 だが三日意識がなかったことが人為的であれば、この騒動は誰かが書斎の鍵に向けて攻撃したことになる。

 書斎の鍵は認知度が低い。知っているとなると、それなりに絞られてくるが……。

「傭兵か、ブルートがこの町に入ってきてるってことか?」

 そういうとモモは少し考えるそぶりをしたあと、

「傭兵ではないわね」

ときっぱり否定した。

「違うのか?」

「よく考えてみなさい。傭兵たちがわざわざ私たちを消すのにそんな回りくどい真似をするかしら? 少なくとも一名は貴女を見つけたら直接攻撃するような人間だと思うわ」

「あぁ……」

 ワタシはモモが言っている人物を脳裏に思い描く。

 傭兵でワタシたちと交流があり、なおかつ、ワタシに因縁を吹っかけて勝負を挑んでくる馬鹿は一人しかいない。

「あの狂犬女が町に来たら一発でわかるからな。破壊音が聞こえる方に行けばいい」

 呆れともあきらめともつかない声でワタシはそうこぼす。

 傭兵たちと会ったことがあるのは何も一度きりではない。最初の交流があってから、何度か不定期に潜入捜査をしていたらしいが、そのなかでも『狂犬女』月島 影(つきしま よう)はワタシだと確信すると決まって弾丸のように攻撃をしかけてきた。

 そして一緒に来ていたのであろう他の傭兵たちがアイツを回収してこの町を去っていく。

「いくら傭兵が組織的行動をとっていたとしても、この町に潜入できる人間は限られてくる。それなら、最初から私達と面識があるあの三人が来るでしょう?」

「傭兵たちをあの三人以外見たことがないのは、結界のお陰か?」

「全員が全員ではないけれど、大体は結界がはじいてくれているわね。まぁ、侵入できたとしても、貴女がいる時点で意味はないけれど」

 彼女はそう言うと、持っていた桃色表紙の手帳を光に変えて消した。

 モモの結界の条件はワタシにもわかっていないのでどういう基準で選定しているかはわからない。聞いているのは条件に満たさないものが町中に入ろうとすると、全く別の場所にランダムに飛ばされるらしい。

「となると、この奇妙なことはブルートが?」

「ブルート直々ではないにしろ、情報が流されている可能性はあるわ。私はこの町を間接的に貴女は直接的に守っている。敵からすればまず攻撃をしかけやすい貴女を狙うはず。その何者かがまだ誰かはわからないけれど……」

「何者かが……? そういや、倒れる前に妙なペリと接触したな」

「妙なペリ? 初耳よ?それ」

 モモは眉をひそめてこちらを見る。そういえば聞かれていなかったから全く話していなかった。

ワタシは思い出す限りのことを鮮明に伝える。

「人身売買に、謎のペリ……そういうことはもう少し早く言いなさいよ……」

「すまん、忘れていた」

「でもそうなると、真実かどうかはともかく、色々と繋がってくるわね」

 確かに辻褄はあうが……解せない部分も多い。結局ワタシから感じた異質な魔力の正体もわからずじまいだったが、モモは書斎に戻ってから解析をしてみると言っていた。

「話が長くなってごめんなさい。今のところはこんなところね。そろそろお暇するわ。貴女も元気そうとはいえ安静にしなくちゃいけないだろうし、どうせココノさんに外に出れば燃やすとでも言われているのでしょう?」

「は」

 ズバリココノに言われていたことを当てられたのでつい動揺して声が出てしまった。

「当たっていたかしら? まぁ、あんなにドアの外に出ないようにしていたからそう言われたのかと思ってね? 貴女は見た目によらず単純でわかりやすいし」

 けなされている気がするがワタシはそれに関しては何も言わないことにした。

「そうか。わざわざすまなかったな」

「気にしないでいいわよ。お大事にね」


 モモが出ていったことを確認した後ワタシはソファに横になる。

「異質な魔力……実行犯は人間……ペリの失踪……行方不明者……」

 先ほど言われたことをひとつひとつ確認するようにつぶやく。余計にわからないことが増えたが、わかったこともあった。

「結局は現場に行ってみないとわからないな」

「なにか独り言を言っていると思えば、モモさんでも来たのですか?」

「うわっと……なんだお前か……」

 突然声が聞こえたので急いで起き上がり、振り向くと食料の入った買い物袋を両手に持っている人型のココノが立っていた。

「随分と遅かったな」

 ココノが持っている荷物の半分を受け取り、買ったものの整理を始める。

「ここは町はずれだから遠い上、行きはカラスの状態で行けても帰りは荷物があるから歩かないといけないのですもの。それに一週間分買うから必然的に遅くなりますよ。誰かさんが倒れて荷物持ちもいませんし」

「わかったわかった……ワタシが悪かった……」

 いつも以上に根に持っている気がする。今度から気を付けよう。

 買った分の食料をある程度整理し終えた後、モモが来たこと、モモが話していたことをココノに話した。

「なるほど、異質な魔力ですか……モモさんがそう感じたのならそうでしょうね。ワタシや貴女はそういう魔力の感知は苦手ですし。それにしても随分色々とわかったのですね。実行犯が人間ですか」

「あぁ、それだけは確かだな。裏で暗躍している奴はいるかもしれんが……なぁココノ、明日にでも神社と廃工場あたりに行ってもいいか?」

 今日は休むといった以上、動くことはできないが明日以降なら少しは動いてもいいだろう。早く解決したいのならそれ相応に動かなければならない。急がねば……。

「え? 明日ですか?」

 ココノは少し驚いた顔をしたあと腕を組んで考える。

「……無茶をしないって約束できます?」

「……具体的には?」

「敵を見つけて囲まれても応戦したりしない。駄目だと思ったら玉砕覚悟でぶつかっていかずにしっかり逃げる。あとは……」

「わかった。もう……もういい……」

 この手の話になるときりがなさそうなので無理やり終わらす。そんなに今まで無茶をしてきただろうか。確かに、ココノの能力を過信しすぎていた時期はあるにはあったが、最近はなるべく使わずにモモが作った短刀などを使って対処するようにしているはず。

「善処はする。善処は……」

「……」

 時と場合によるがなるべく彼女の言う無茶というものをしないようにしよう。なによりあとが怖い。

 ココノは少しワタシを睨むように目を細めた後、また「はぁ」とため息をついて明日の外出を許してくれた。

「無茶をしたら……わかっていますよね?」

「……明日に響くといけないからもう寝る」

 ワタシは返事をせずにそれだけ言って、自室に戻ってベッドに横になった。

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