冒険の小休止 お手並み拝見?!セリスの手料理
アルガドールを出発したエミル一行。馬車はゆったりと街道を南へと進んでいく。
のどかな昼下がりである。キャリッジの窓から差す暖かい陽の光と、適度な振動が眠気を誘う。
うつらうつらしていたエミルが遂に睡魔に完敗しそうになったその時――
「ねー、セリスぅ!お腹減ったんだけど。お昼ご飯作って下さる?」
唐突にエレジオールが昼食の催促をした。
「かしこまりました、少々お待ちください。」
セリスはそう言うと街道沿いの火を使っても問題なさそうな場所を探し、馬車を停めた。
ちなみに、昨夜は謁見後にアルガドール城下町で一泊している。そのため夕食と今朝の朝食は宿で出されたものだった。
つまり、一行にとってこれがセリスの料理を食べる初の機会、という訳だ。
馬車を固定し、馬たちにも餌と水を与えて休ませると、セリスは手際よく料理の準備を始めた。
その辺で薪を集め、火を起こし、焚き火でアルガドール産の魚の燻製を焼き始める。
同じ焚き火に鍋を吊るし、野菜と燻製魚の簡単なスープも作った。
ハーブと燻製独特のいい香りが辺りに漂いだした頃、軽くパンを炙り。
「そろそろ出来上がりますよ!」
エレジオール達を馬車からエスコートする。
「新鮮な魚、とは参りませんが。燻製を買いました。今日は初日ですし、浅めに燻したものをお出ししますね。」
そう言うと、これまた手際よくエミルとエレジオールに取り分け、ふと手を止めて訊ねる。
「ええと、こちらの魔法生物様の分は如何しましょうか?」
「あ、このこシェリィっていうの。魔法生物様じゃ呼びにくいでしょう?次からそう呼んで。
それから、この子は大気中の魔力を取り込んで生きてるから、食事は要らないの。ありがとう。」
「かしこまりました」
**シェリィのことも忘れないとはいい心がけだね!褒めて遣わす。
**はいはい、どんなに褒めても伝わらないから。
馬車の屋根で日光浴しているシェリィをよそに、食事の必要な3名はセリスが取り分けた料理を早速頬張った。
「うわあ!!凄い!!セリスさん、とっても美味しいです!!」
「あら、なかなかやるじゃない!これなら合格ね!!」
セリスの料理を純粋に賞賛するエミル。味にうるさいエレジオールも気に入った様子だ。
表面はカリッと香ばしく、中はしっとりジューシーに焼き上げられた魚の燻製に、シンプルな塩味ながら具材から良く出汁の出たスープ。軽く炙ったパンも間違いなく美味しい。
**セリス、やるわね!!正直ここまでとは思ってなかったわ!!
**ふーん?そんなに美味しいんだ??ま、シェリィには関係ないけど。エリィが肥えるのだけは心配かな。
**うるっさいっつーの!!
御者としての腕、そして調理は文句なしと言わざるを得ないのが何となく悔しいエレジオール。
**これは…是非戦闘の腕も見せてもらいたいわね!
**セリス、優秀そうだからホントに何でもこなしそうだよね。エリィお役御免かな?!
**いくらセリスが優秀だろうと私がお役御免なんてありえないわ!!エミルは私がいないとダメなんだから!!
念話でそう言ってしまってからハッとする。
――私がいないとダメなんだから?!
どうしてそう言いきれるのか。確かにエミルは独りにしておくと危なっかしいが。エレジオールでなければダメと本人に言われた訳ではないし、セリスがいればエレジオールがいなくても確かに何とかなりそうではある。
だがしかし。
**ふふん!!エミルが私みたいな美少女見捨てるわけないじゃない!!当然よ!!有能なだけじゃなくて可愛いもの。それもとびっきり、ね!!
立ち直りが早いのはエレジオールの数少ない性格面での長所である。
**まあ、頑張って!!
シェリィがほぼ棒読みの声援(念援?)を送ったところで、セリスから声がかかった。
「エレジオール様、そろそろ片付けますのでお早めにお召し上がりを。」
「あら、ごめんなさい。」
見ると2人はとうに食べ終わっていて、食べているのはエレジオールだけだ。
「慌てなくて大丈夫ですので、しっかり噛んでお召し上がりください。」
エレジオールは喉に詰まらせないように、しかしできるだけ急いで食事を終えると、セリスが手馴れた様子で食器を片付けた。
馬車の上にいるシェリィに声をかけて屋根から下ろし、エミルとエレジオール共々馬車に乗せると、馬車の固定を解き、御者台に上がるセリス。
その様子を馬車の中から見詰めながら、エレジオールは密かなライバル心を燃やすのだった――
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