第2話

──ゲートに迫り来る何10体もののオーガロイドに、エドモンド率いるアッシュガル8機が突撃を開始した。

《C2からC5は左右に展開、2対1で通常個体を撃破せよ! C6、C7は取り逃がしの撃破、C8はC9の補助を頼む!》

 !!》》》》》》

 エドモンドはコールサインで次々と各機体に命令を出す。命令を受け、アッシュガル第54部隊は左右へと広がり、オーガロイドを一体一体ターゲットにロックオンする。

 《C9は狙撃で新型オーガロイドに傷を負わせろ! 確実に消耗させ、動きを止めさせるんだ》

 《あいよ、隊長》

 C9と呼ばれたアッシュガルは、右肩にスコープ、頭部に狙撃センサーを搭載した遠距離戦装備となっている。搭乗してるのはエドモンドの相棒、アシェリー・イェーガーだ。

 《C9、狙撃位地に到達、あの牛野郎を撃ち倒してやる》

 アッシュガルはリアスカートに装備した超加速エネルギー弾のカートリッジを、狙撃ライフルに装填する。

 《こんがり焼いた牛肉め、いい加減骨の髄まで食べ頃だろ……纏めて爆発させてやるがな!!》


──アッシュガル各機はコンビを組み、オーガロイドの心臓を狙ってアサルトライフルを連射した。弾丸はオーガロイドの心臓を直撃し、エネルギーが行き場を失い暴走したオーガロイドは爆発四散する。アッシュガルに搭載されたOSはオーガロイドの撃破を確認すると、コンビを組んだ機体と連動して次の目標を定める。

 《こちらC4、C5、優先目標を全て排除!! 援護はいるか?》

 《ちょっと欲しいぜ、たくっ!!》

 C3の機体は風副長の搭乗するC2と連携しながら、額に汗を流しながらも一体ずつ撃破していった。

 《弱音を吐くな、ジャン。隊長の武士道を見習え》

 《分かってますよ副長さん!! ですけどねっ、精神論は廃ってますよ!!》

 冷静にオーガロイドを撃ち倒す風副長に対し、C3に搭乗しているジャンは感情を荒げた。

 《どう思いますかねエモン隊長! いや、俺ぁアナタの武士道というのは賛成っすよ!! って、え、隊長さーーーん……》

 エドモンドのアッシュガルに目をやり、ジャンは呆然とした。

 エドモンドは単機で、数10匹のオーガロイドを討伐していた。両手に構えたアサルトライフルからは硝煙がたち、激戦があった風貌を漂わせる。

 《こちらは片付いた。どれ、ジャン。援護に向かおうか》

 《いやいいです!! 俺は俺で十分です!!》

 《アタシもいるぞ、ジャン》

 エドモンドの圧倒的な強さを目の当たりにし、ジャンは気合いを入れて残りのオーガロイドを副長と共に掃討する。

 《あとの群れは他の部隊が引き受けてくれる……C9、新型の様子はどうだ?》


 《こちらC9、目標射程内にいる。新型の熱反応が変動、再びゲートの破壊を始めるぞ》

 アシェリーの機体は新型オーガロイドに狙いを定めた。新型は上半身が大柄、角は第2ゲートに狙いを定めて反り返っている。全身に鉄製の気管が埋め込まれており、その見た目は牛の像のようでもあった。

 《新型オーガロイドのコードネームは“ファラリス”……チッ、誰が命名したんだか。悪趣味だな》

 アシェリーは一呼吸おく。心臓の鼓動は静まり、指から操縦桿へ、そしてアッシュガルのトリガーに触れるマニピュレーターに意識が伝わる。

 《ファイア》

 トリガーが引かれ、オーガロイド“ファラリス”の左肩を弾丸が貫通した。

 ファラリスは左肩からよろけ、突進を止めた。

 《こちらC9、ファラリスの左肩を狙撃。突進の阻止に成功。今のうちに叩け……ん?》

 異変に気づき、アシェリーは狙撃モニターをフォーカスした。ファラリスの様子に異変がある。蒸気が肩スラスターや口部から漏れだし、全身が光輝き始めている。

 《こちらC9、ファラリスの熱源に急激な変化あり》

 アシェリーが部隊に通信を入れた瞬間、他部隊からも緊急通信が入り込んだ。

 《こちら第48部隊、コードネーム“ファラリス”熱源が急激に上昇!! 第2ゲートに突進します!!》

 《ダメだ、熱で近づけない!!》

 《熱放射がなくなった瞬間を狙うのか》

 《それは敵にゲートを壊させろということか!!》

 エドモンドは通信回線を第48部隊と繋げる。

 《こちら第54部隊のエドモンド、突進を食い止められるか?》

 あの“ブシドー・エモン”か! 第48部隊の隊長はエドモンドに希望を見出だす。

 《こちらでファラリスのコアは破壊した! そしたら熱源を上昇させて突進をかけやがった! 何発撃ち込んでも止まる気配がねぇ──ガタ!?》

 第48部隊の捉えた映像が、エモンのコクピットのモニターにも映し出される。そこには一体のアッシュガルが暴走突進してきたファラリスを抑え、ブースターを全力で吹かし第2ゲートから遠ざけていた。

 《うぉおおおおおおおおおおおおお!!》

 アッシュガルの表面装甲は熱で歪み、コクピット内にも蒸気がこもる。

 《俺の町を、破壊させるかあああああああああああ!!》

 《ガタ一等兵えええええええええ!!》

 ファラリスはアッシュガルもろとも爆発四散した。

 アッシュガルの破片が飛び散り、後方に向けてパイロットが吹き飛ばされた。

 《チッ! エモン、こっちのファリウスもどうかしなきゃいけねぇぞ……エモン!?》

 エモンは単機で、よろけながら立ち上がるファラリスの前に立ちふさがる。

 《エモン!! バカヤロー!! お前が前に立つんじゃねぇ!! 俺たちが向かう!!》

 アシェリーは自機のブースターを起動しようとする。

 《アッシュ、狙撃位置からずれるな。私がおまえに預けてるのは背中だからな》

 アサルトライフルの弾倉を充填し、エドモンドのアッシュガルはブースターを起動し全速力で発進した。ファラリスも肩の部分から蒸気を放出してブースター発進し、2体はぶつかろうとした。

 《エモンーーーーー!!》

 《隊長ぉぉぉぉぉぉ!!》

 アシェリーや風副長、他の隊員が慟哭する。

 アッシュガルとファラリスが激突する直前、エドモンドはブースターを前方に緊急パージした。

 ブースターはファラリスに衝突し爆発した。

 『ブシュアアアアアアアアアアア!!』

 ファラリスは断末魔をあげ、悶える。

 《熱のこもったブースターをぶつけ、爆風でファラリスの熱を消し去る……そういうことかエモン! ブースターの立て替え覚えておけ !》

 《説教はあとだ、アッシュ、いまのうちだ!》

 《あいよ!》

 熱が奪われ、弱まったファラリスを第54部隊のアッシュガルが包囲する。

 《一斉射撃!!》

 ファラリスをアサルトライフルの銃口が取り囲み、その体にいくつもの弾丸が撃ち込まれた。

 『ブシュアアアアアアアアアアアアアア!!』

 《肉が抉れた! 副長!》

 全員の弾倉が切れた瞬間、副長のアッシュガルがナイフを取りだし、硬い殻で覆われたファラリスのコアに深々と突き刺し、すぐに離脱した。

 ファラリスはエネルギーの行き場を失い、爆発四散した。

 《こちら第54部隊、ファラリスを撃破! 攻略法を送る!》

 《待てエモン、ブースターでなく爆弾で攻略法を送れよな!》

 アシェリーの背中にドッと疲れが現れ、コクピットの座席に深々と腰を沈める。

 第54部隊の任務は、これにて終了した。

 

 戦闘開始から3時間が経過し、オーガロイドの大群は一掃された。新型オーガロイドも、爆弾戦法によって無力化され、第2ゲートの被害は最小限に抑えられた。

 「第3ゲート向こうの民間人に被害はない……任務は成功だ」

 アシェリーはタブレットを開き、任務の結果を確認する。

 人員用の輸送ヘリに、第54部隊のパイロット一同が乗り込んで自分達の基地へと帰っていく。

 「ふぅ、今日も一段とピンチだったなぁ」

 ジャンの軽口に、風副長の肘打ちが飛ぶ。

 「あ痛ぇ!!」

 「気を緩めるな。いつまた緊急発進するか分からない」

 「副長の言う通りだ、エモンの機転がなければ、第2ゲートは破壊され今後の防衛にひどい支障が出ていた。そんな現場はあそこだけじゃない」

 アシェリーは輸送ヘリの窓から戦場跡を見下ろした。ゲートの改修、破壊された拡性兵から引っ張り出したもの、疲労感と途方もない景色を眺める多くの隊員……

 「いつになれば終わるんですかね、こんな日々……」

 隊員の一人が頬杖をついてぼやく。

 「これでも10数年前に比べたら、まだ戦えてる方だ……もっとも、いつ逆転されるか分からねぇがな」

 アシェリーは損傷したアッシュガルのデータを確認しながら言葉を返す。

 「はぁ、俺たちでこの戦争を終わらせられたらなぁ」

 ジャンが天井を見上げながら呟く。

 シンと、全ての動きと音が止まったような瞬間が訪れる。

 「じょ、じょ、ジョークっすよジョーク! まぁあれですよ、俺らが戦わねば誰が戦うってことですよね!?」

 ジャンの慌てように、一同はニヤニヤと笑みが溢れた。唯一、エドモンドだけが嬉しそうにジャンの肩を叩く。

 「ジャンの言う通りだ、いつか我々の手で、この戦いを終わらせる」

 「隊長、本気なんですか」

 風副長が真剣な表情でエドモンドの顔を見る。エドモンドの顔は、覚悟と闘志に満ち溢れていた。

 「本気だとも。具体的にどう終わらせればいいか、私には分からない。だが、オーガロイドと戦い続け、討伐した先に平和があるなら、我々はただ戦い続けるのみだ。我々が戦うことで人を、地球を守れる。それは確かなことであり、それがいつか戦争を終わらせるという本気に繋がろう。それまで私はサムライとして、お前たちに本気を見せてやろう!」

 エモンは夕焼け空を見上げながら宣言した。この戦況を打開する切り札は現れる。そう信じながら彼は燃える夕日を見つめ続けた。


──エドモンドが見下ろしたフォンタナ都市。とある民家のドアがノックされる。

 「パパだ! パパが帰ってきたんだ!」

 「アナタ、無事だったの!」

 「何とかな、ギリギリ脱出出来て、何とか生き残ったよ」

 彼は隊員として、町を守れた誇りを、妻子と共に抱き締めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

拡醒戦記アースセイヴァー:サムライ・ハート 影迷彩 @kagenin0013

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ