拡醒戦記アースセイヴァー:サムライ・ハート
影迷彩
第1話
[1995年、突如として地球上各地に隕石が落下し、多数の被害をもたらした。
それと同時期に各地で巨大怪獣“オーガロイド”が出現、方々で暴れまわり、様々な国を蹂躙し破壊し尽くした。“オーガロイド”でわかることはほぼ不明であり、効果的かつ明確な弱点も見つからず、人類は追い詰められていた。
だが人類は“オーガロイド“に対抗するべく拡張性能人型兵器、通称「拡性兵」という力を生み出し戦っている。両者の力は拮抗し、この戦いは終わる気配がない──]
[これは、とある部隊が謎の拡性兵“アースセイヴァー”に出会う前の話である]
《怪獣警報!! 怪獣警報!! オーガロイド反応、多数接近!! 住民は慌てず、冷静に周辺建物へ避難せよ!! 繰り返す、住民は慌てず、冷静に周辺建物へ避難せよ!!》
警報鳴り響くアメリカ合衆国カリフォルニア州の都市フォンタナ。山岳や砂漠との境界線に防壁が張られたこの都市に、巨大怪獣オーガロイドの群れが第1ゲートを突破し侵略を開始しようとしていた。
第2、第3ゲートの内側にある都市では、人々が建物へ避難し、中で固まっていた。
どういうことだ? ゲートが破られるだなんて……
このまま残りのゲートが破壊されたら、この街は……
人々は同じ恐怖を抱きながら、パニックにならないよう震える肩を抑え堪(こら)えていた。
「ママ、アタシたちどうなるの……?」
ある民家で、幼子一人がとうとう堪えきれず涙を流し始めた。
「大丈夫よ、私たちにを守ってくれるパパや、皆がいるんだから」
母がすすり泣く我が子の肩に優しく手を置いた。この家の父親は、今ゲートの近くでオーガロイドとの戦闘に待機している。
母が見つめる窓の向こう、見上げると輸送ヘリにワイヤーで懸架された拡性兵が都市の上空を通過していった。機体名を“アッシュガル”。アメリカと日本に配備され、それぞれの国の主力となった拡性兵である。
実は母は上空のアッシュガルに不安な気持ちを抱いた。この都市にもゲートに駐在する拡性兵の部隊がいる。なのに新たなアッシュガルが輸送されたということは……
「大丈夫よ、皆きっと……」
我が子に置いた手に、無意識に力がこもる。
娘はそんな母親の手に指を絡ませながら、泣くのを忘れ曇った空を見上げた──
──《こちらエドモンド・J・ユースタス。アッシュガル第54部隊、出撃する!!》
アッシュガル第54部隊の隊長であるエドモンドの掛け声を合図に、輸送ヘリに懸架されたアッシュガルが次々と地面と降下し、ワイヤーを外される。
着地したアッシュガルは全6機。その内の、日本の武士の兜を模した隊長機が、サブマシンガン二挺を携え、カメラアイを第3ゲート入り口に向けた。
《現在、新型オーガロイドを先頭に第2ゲートが突破された。ここの部隊の半数は倒されている。ここが最後の守りであり、俺達がその要となる》
アッシュガルに搭乗した各パイロットに戦場特有の緊張感が走る。各々の足は生死の淵に立っており、背中には守るべき命が背負われている。
《アッシュ、お前は新型を狙撃で足止めしろ。残る俺達は群れを掃討、新型の情報をULS(ユニバーサル・リンク・システム)に送り攻略作戦を構築する》
命令を受信したアシェリー搭乗機が、スナイパーライフルに弾倉を装填し、発進体勢を取った。
《エモン、今さらだが、今回の状況は今までの比じゃないほどヤベェぞ》
アシェリーが通信にぼやきを入れた。エドモンドと彼は学生時代からの友人であり、そして訓練生時代からの同期でもある。彼はエドモンドと共にくぐり抜けたこれまでの戦いを回想しながらゲートの向こうの戦場を睨んだ。
《怖じ気づいたか、教授? そんなもの、ブリーフィングで既に感じてるだろ》
副長である風・愛からアシェリーに向けて叱咤の通信が飛ぶ。部隊で一番の若手であり、かつ紅一点である風副長は、その2つを感じさせない不敵な物言いと、細身の体型から予想できない戦闘力の高さで多くの隊員から恐れられている。彼女の搭乗すりアッシュガルにもその強さは反映され、得物であるナイフが他のアッシュガルよりも多く装備されている。
アシェリーは彼女からの通信を、フッと鼻で笑った。
《ここに来て、ンなワケあるかよ。ただ事実を確認しただけだ。無理させんじゃねぇぞエモン》
アシェリーが僅かに抱く心配は、エドモンドの搭乗するアッシュガルに向けられていた。
《心配するな、アッシュ。俺の機体は朽ち果てぬ》
エドモンドは、部隊全員と市民大勢の命を背負っている。
極限の緊張に、彼は一切の恐怖も不安もなかった。
《何故なら俺は──サムライであり、胸に武士道がある! それがなくならぬ限り、決して我らは負けぬ!》
エドモンドの搭乗するアッシュガルが、右手のサブマシンガンの銃口を空に掲げた。
エドモンド・J・ユースタス。金髪碧眼、鍛え上げられた体格のアメリカ人らしい彼は、日本を愛しサムライを尊敬する、自前の日本刀をコクピットに置くほどの日本かぶれであった。
《エモン隊長!! ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!》
その点を抜かせば彼は優秀な兵士であり、部隊一同は彼の武士道を理解できずとも、彼の言葉に士気をあげ、雄叫びをあげた。
《チッ、機体フレーム負荷かけさせんじゃねぇぞ……》
《さすがエモン隊長……私も負けないわ》
アシェリーは愚痴を、風副長は闘志を言葉に出した。
《威勢がいいな!! 行くぞ、第54部隊!! 倒れるな、前に進め!! 隣と後ろに友が、家族がいる!! 我らは部隊、共に戦い、弾の一発まで放ちオーガロイドを討ち倒すぞ!!!》
エドモンドの掛け声と共にゲートが開き、アッシュガル全機がブースターを起動し、戦場に発進した──
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