血と心

かさのゆゆ

血と心

 ぼくは心を持ったおとこのこ。

ぼくはひと。ぼくは“たにん”。

ぼくのかぞくは“たにん”のおとうさんとおかあさん。

ぼくのしたには“たにん”のいもうとがひとり。

 


おとうさんとおかあさんは血のつながりのない“たにん”のぼくといもうとに心をくれない。

ぼくたちからの心ももらってくれない。

だからね、さみしい。

でもいつか、もしかしたらっておもいながら、今日もぼくらはつたえるんだ。ふたりに好きだよって。


 

 “たにん”のおとうさんとおかあさんはまいにちぼくらの血だけはもらう。

 

「心はいらない。血さえくれれば

きみたちはわたしたちのこどもだよ。

わたしたちもきみたちの“りょうしん”。


わたしたちは“血でつながった”家族になるんだ」



 どばーっと出て死んでしまわないように、ぼくといもうとは気をつける。

おさえなければ生きていけそうにない、ぼくらのかぼそい血と心。


「おにいちゃん。わたしたちの血は何に使われているの? 」

 

「わからない」

 

「わたし、とてもさむいわ」

 

「ぼくもだよ。でも生きてる。ぼくらの血はいまも流れている」


 


 このせかいにはいろんな心の他人がいるね。

ぼくのおとうさんとおかあさんがぼくらの血だけを好きなように。


なんで血をもらうのか、おしえてくれたらいいのにな。

家族であってもわかりあえない。

ひとの心ってむずかしいね。


 

まいにちふたりきり、ぼくといもうとはあたためあう。

血も心も足りないようで、とってもとってもさむかった。

でもがまんしなきゃ。

“しんせつ”なおとうさんとおかあさんは今日もつめたい両の手で、ぼくらの生き血を待っている。



良い血のためにあたえてもらう。おとうさんのおかね、おかあさんのごはん。


トクトクトクトク


ひとつの入れ物のなかで、まじっていくぼくといもうとの血。

わけあってまざりあって、ぼくといもうとだけは

よりわかり合っていったんだ──。


 



 ある日とつぜんぼくらの部屋に、おおきなベッドがあらわれた。

ぼくといもうとはよろこんだよ。

おとうさんとおかあさんがはじめてぼくらにくれた心だって、そうおもってしまったから。

でもちがった。

ふかふかな大きなベッドはぼくらのものではなく、あかちゃんだけのものだった。

“ぼくらの血を飲んであったまったおとうさんとおかあさん”から生まれたあかちゃんの。

おとうさんとおかあさんの体はあまりにも冷たかったから、ふたりだけでは子どもが作れなかったんだって。

だからあたたかい血をもったぼくたちを家族にしたんだね。




ぼくといもうとはあたらしい“ふたりのこども”にふれてみた。

つめたいおかあさん指でそっと。

 

 ──びくっ

 

おとうさんとおかあさんからほんもののあたたかい心をそそがれるあかちゃんは、ぼくたちと違い、ぞっとするほどあたたかかった。

 

「あなたたちのおかげよ。おとうさんとおかあさんをたすけてくれてありがとう。

でもこの子が目をさますには、この子にもっとあなたたちの血を入れて、あたためてあげなきゃいけない。

もっとあなたたちのからだを冷たくしなければならない。

でも大切ないのちのためだもの。やさしいおにいちゃんおねえちゃんは、よろこんで恵んでくれるわよね」


 あついくらいあたたかいのに、このあかちゃんには、まだぼくたちの血がひつようなんだね。まだぼくといもうとがいなきゃだめなんだね。


早くしてって顔でぼくらを見る、おとうさんとおかあさん。

そっか。今やっとふたりの心が、ぜんぶじゃないけどわかったよ。

 

この子のために、ぼくといもうとがいなくならなきゃだめなんだね──。




ながれてく血と心がもえてもえて、すぐにつめたくなっていく。

ちがう血と心をもっていたって、おんなじなんだとぼくらは知った。

おんなじようにながれて、おんなじようにあがっておちて、おんなじようにかたまりこげる……。


ぼくといもうとはもう血と心をおさえられなくなってしまった。

おさえすぎてふるえていた片手を、黒くへこんだうでからはなす。

もう片ほうの手はぎゅっとふたりでつないでみる。



──あぁ、ぼくらはあたたかかったんだ。

赤く、黒く、ふつふつとわきだつ心血に、ボワッともえて、ゾッとこごえて……それでも生きた温度だった。



ぼくらはわらった。

満たされた“たにん”たちに。空っぽになったじぶんたちに。

心よりも血が好きな“たにん”が作った、

“血だけでつながれたこうふく”の世界に。


 


 ぼくといもうとがもえつきた冬。

他人のかわいた血と、おとうさんとおかあさんのなまぐさい真心を一身にうけて、 血のつながったかよわいあかちゃんは目をさました。


おかあさんはわずかに血色をつけた手でその子を抱きしめて、“きもちのわるい心”こめた声で伝えてあげるんだ。

 

 「おとうさんとおかあさんはあなたを心から愛してる。あなたはのわたしたちのこどもだもの。

わたしたちの血をいつまでも残して生きるのよ。あなたの中でわたしたちも生きつづけるわ」

 

 ──って。











ねえねぇ、忘れないで。

ぼくたちの血も生きてくって。


みんなずっと

“ぼくらの血で”家族だよ。


だからみんなぼくたちみたいになる。

ぼくたちが流した分だけの血を流す。



逃げられないよ。

心で“たにん”につなげるまで──。









 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 

 


 

  

 

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