最高の名医
「『
「よろしくお願い致します」
簡素な扇型のテーブル席。
司会進行を担当するコメンテーターの女性と、白衣の老人が同時に頭を下げる。
「
「ええ。私の家系は代々、神職なんですね。今でいう
「それを
「捨てた訳ではありません、ええ。様々な観点から、人を救うのに最適な方法を探した結果です」
「東京に出た際、ご実家とは
「もう六十年以上前になります。後悔は今でもしていません」
「大学時代は
阿多牟医師は昔を懐かしむように「変わり者だっただけですよ」と
「生まれ持った『神の目』、
「期待されている方には申し訳ありませんが、もう
「今も少しは、見える?」
「どうでしょうねぇ。それが果たして見えてるのか、経験からくる幻影なのか」
コメンテーターは
「しかし、見えなくなってしまうのは残念ですね」
「そうでもありませんよ。逆に良かったかもしれません」
「というと?」
「見えればそれに頼ってしまう。先程も言いましたが、完全に信頼するには不確実な力です。今は医療が非常に発展していますから、神の目よりも正確に病状が分かるものもある」
「それとですね、見たくないものも見えなくなりました」
「見たくないもの、というと?」
「自分の体の病気です。もうこの年で見えたとしても治療に体が耐えられない。見えない方が幸せな事もあるんだと、この歳になって気づきました。本当に、人生に学ぶことは尽きません。生涯勉強ですよ」
そう言って笑う彼は、放送の10年後に天国に旅立った。
生涯、一度も病気をすることは無かったという。
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