知恵の実
昔の事です。
とある小さな村に、一人の勤勉で誠実な少年がいました。
彼は貧しい家庭に生まれましたが、自身の
朝には太陽に祈りをささげ、日中は畑で汗を流し、時に隣の畑、またその隣の畑の手伝いをしました。
夜になれば母の
そんな生活の中で針に糸を通すほどのごく小さな合間に彼は勉強をしました。
捨てられて、半分も読めなくなった言語の本です。
得られるお金は
しかし彼はお金の全てを家に入れます。
困っている人が居れば、自分の方が苦しくても手を差し伸べました。
そのお人よしが
彼がどれだけ誠実であろうとしても、世界は彼に微笑みませんでした。
そんな彼が十二歳になったある日の事。
彼はその日も畑に出ていました。
すると、頭上に輝く太陽から声がしました。
「君は本当に素晴らしい」
遂に、天が彼を見つけたのです。
「姿が見えませんが、私に語りかけるのはどなたでしょう?」
「私は、日頃からあなたが祈りを
少年はそれを聞いた瞬間、畑の土に髪の毛が付くほど
「顔を上げなさい。貴方の行いを私はずっと見守ってきました」
「とても、光栄です」
「貴方は数多の苦労をしてきました。ですので、私が
天の声がそう告げると、少年の目の前の土から小さな芽が出て、
「知恵の実です。これを食べれば、貴方は生涯で得られないほどの知識を得る事が出来ます。どれだけ多くの知識を得ても、貴方は正しい道を進むでしょう。その力で、どうかこの世界をより良いものに導いてください」
少年はお辞儀をしてから、知恵の実を摘み取りました。
すると、木は急速に枯れて、崩れて土に還りました。
もう、天の声は聞こえません。
少年が感謝の言葉を唱えて、知恵の実を
少年は果実を食べるのも忘れて老人の元へ駆け寄りました。
どうやら、行き倒れのようです。
「どうぞ、これを食べてください」
少年は
するとどうでしょう。老人がみるみる元気になり、少年に頭を下げました。
「ありがとう、優しい少年。これは特別な果実だったんだね。残りの果実は畑に植えると良い」
そう言って、老人は
少年は残り半分を食べるか迷いましたが、助けた老人の助言に従う事にしました。
半分になった果実を畑に上で土をかけると、水も与えていないのに瞬く間に芽が出て、瞬く間に木になりました。
先程の、半分ほどの大きさです。
その木に
奇妙な光景に少年は驚きます。
その時、天からまた声が聞こえました。
「ああ、可愛そうな子。贈り物を他人に与えてしまったのですね」
「はい、お腹を空かせて困っていたので」
「あなたの行いは素晴らしい。ですが、今回は間違いです。それだけでなく知恵の実を食べずに植えるとは」
「申し訳ありません」
「知恵の実は神の創造物。人が真似をしても、実は
そうして、天の声は聞こえなくなりました。
少年は二度、太陽に向かって大きく頭を下げて、七つの書を
彼が本のページを
一冊、二冊、三冊、四冊……。
本来、知恵の実を食すことで自身の血肉とする知識を、知恵の本という形で取り入れた彼はその情報の多さによって、一瞬で老け込んでしまいました。
十二歳の少年の姿はそこに無く、五十代半ばの白髪の老人となっていました。
しかし、彼は
この知識で皆が幸せになる
それから彼が生涯を終えるまでの七年間。
彼を中心に世界はより良く変化し、文明は発展し続けました。
その名前は永遠に人々の歴史に残る事となったのです。
めでたし、めでたし。
余談ですが、彼の読んだと伝えられる七つの知恵の書は後に偉大な七人の賢者の手に渡り、世界を恐怖に陥れる強大な悪との壮絶な戦いへと続いて行くことになるのですが……それはまた別のお話。
その強大な悪とは何者か、ですか?
お察しの通り、知恵の実を半分食べた老人ですよ。
~おしまい~
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