素敵な港町

 私が住んでいるのは、とてものどかな港町です。

 日々人口は減衰の一途を辿り、人々は死んだ魚のような目をして暮らしています。

 そのせいか、街は常に魚の生臭さでいっぱいです。

 三日もいれば慣れると思いますけど。

 海は八割がた大シケで、三日に一度は行方不明者が出るんですよ。

 でもご心配には及びません。

 溺れた人達は波が収まった翌日には浜辺に打ち上げられるんです。

 の回収を専門にしている人がいるくらいですから、もうこれは一つの観光資源と言っていいかもしれませんね。

 鼻や口からぞろぞろとフナムシが湧き出てくるさまは、生命の神秘を感じさせる一大スペクタクルではないでしょうか。

 ワクワクが止まりません。

 そうそう。先日、二件隣の漁師さんが八十歳を迎えました。

 この街で無事に八十を迎えられる人なんて一割にも満たないので、町総出まちそうででお祝いしたんですよ。

 盛大に花火なんか打ち上げたりして。

 もっとも、激しい荒波と吐き気がするほどの潮風に長年当てられていたせいで、目はほとんど見えなくなっていたんですけど。

 そのおじいさんも、翌日には亡くなってしまいましたけどね。

 病人を外に連れ出したのが悪かったんでしょうか。謎ですよね。

 こんな街の観光名所の一つが、海に近い断崖だんがいにある洞窟どうくつです。

 この洞窟は非常に奥が深いんですよ。二重の意味で。

 港町の人はよく海で亡くなりますが、此方こちらは観光客がよくお亡くなりになるのです。

 洞窟内には安全用のロープ等が厳重げんじゅうに張り巡らされているのに、不思議ですね。

 洞窟の中には、ここでしか見られない純正のクリスタルが生成されてるんです。

 専門家の人の話では、人類創世じんるいそうせいより前から少しずつ積み上げられてきたものらしいです。

 勿論、そんな大切なモノですから、盗掘者とうくつしゃもちらほら来ます。

 ――なら警備とかしなくていいのか、ですって?

 大丈夫です。もうクリスタルの見学には行かれましたか?

 なら、クリスタルの足元が少し白くなってたと思います。

 あれ、全部そういったやからの骨ですから。

 自然の力に勝る防犯対策なんて有りはしませんよ。ウフフ。

 それよりどうです、あなたもこの街に住んでみませんか?



 ▷ 住む     ただでは住まない

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