その見えざるX

澄岡京樹

超規模の『それ』

その見えざるX




 ——その男の『それ』は、どういう理屈か定かではないが……見えなかった。

 あれだけ太いそれが、あれだけ大きなそれが、誰がどう見ても視認できなかった。

 奇妙、あまりにも奇妙。だがそれでも確かにそれは見えなかった。見る専門家、観る専門家、『不可視領域インヴィジブル』の使い手が見ても尚、それは見えなかった。ゆえに、なぜ見えないのかについて考えるのは最早無意味であった。

 あれだけ太く、あれだけ大きく、あれだけ目立つ、彼のそれが、見えなかったのだ。


 どうやって隠しているのか? そもそもどうやって隠したのか? 何もわからない。


 ——そう言われてもな、と彼は笑う。


 ——ただデカいだけだしな、と彼は語る。


 ——もしかしたら筋トレのしすぎなのかもな、と彼は呟く。


 誰もが悩みに悩んだ末、ある一つの仮説に到達した。


 ——彼はそれを認識できている。

 ——つまり彼はそれの巨大化過程を見たわけだ。

 実際にそれを見ていればそれが今どうなっているのかも分かる可能性が発生する。

 だが逆に、過程を見ていなかった場合、膨大な姿になり過ぎたそれを——膨大すぎるがゆえに認識できていない可能性があるのだ。


 世界中の科学者たちは悩みながらも、一旦はそう結論づけることにした。


 それほどまでに、彼の——パワフル剛力丸の両腕は膨大な成長を遂げていたのだった。


「正月だからこれで隠し芸大会に出ても良い?」

 パワフル剛力丸は依然として不可視なレベルで——超領域級規模クラス:オーヴァー・ボーダーレベルで超巨大な腕のまま笑顔でそう言った。



その見えざるX、了。

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その見えざるX 澄岡京樹 @TapiokanotC

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