第2話 残酷テイスト童話
私はこのメルヘンテイストの研究所?の前で唖然とした。しかし夜中にここでうろうろしているわけにもいかず、とりあえずここが本当に彼女の研究所であるか確かめることにした。答えはすぐにわかった。メルヘン感のある城にも関わらず、玄関は普通で横開きの扉の側にはパステルカラーで彩られた表札があった。そこには丸文字で『ケイソウ』と書いてあった。これは彼女の名前の特定のための材料にすらない。彼女の名前が判明しないことに若干落ち込みつつ、普通の玄関らしきものにインターホンがないことがわかり、普通にガラガラと扉を開ける。
扉の先には外装とは異なり、メカメカしい感じのオーソドックスな研究室が広がっていた。私は正直、外装のメルヘンな感じに合わせてぬいぐるみとかあって遊園地みたいなのを期待していたから内心がっかりだった。…と思ったら、私が求めていた大きなクマのぬいぐるみが研究室の隅に陣取っていた。私の体よりも随分大きい。私はその愛くるしいクマに触れるべく、ズカズカと研究室に足を踏み入れる。
『あー、ダメダメ!それ触っちゃだめなやつ!』
研究室の奥から、聞き慣れた声が響いた。…しかし、声の主は現れない。
『私ここ、詩夢』
声が聞こえてきた方向は予想外で、私の目線よりも遥かに下から聞こえてきた。そこにいるのは…2リットルペットボトルと同じくらいの、長い髪をハーフアップにして、白衣を着た人形が私を見つめていた。
『え!?ちょっ、え?』
驚きすぎて変な声が出てしまった。人形は変わらない表情で私を観察しているようだ。でも声の主はこの人形だとわかった。そして、こいつが私に衣食住を提供してくれる彼女だとたった今理解した。
『ごめん、落ち着いて聞いてくれ。私、なんか知らんが人形になったみたいでさ。そして、なんとか喋れるまでは自力で解決できたんだけど、これ以上は無理で。…ってことで、助けてくれ。』
どうやって自力で話せたのかが気になるが。それどころじゃないな。私は取り乱したときに落としたキャスケット帽子を拾い、近くのパイプ椅子に腰掛けた。
『協力はするよ。でも、どうやって助ければ良い?』
人形の彼女はトコトコと私が愛でようとした大きなクマのぬいぐるみに近づいていった。
『これ、私がつくった童話の世界に入れる機械なんだけど。』
彼女は本棚にぴょんと飛び乗り、ある本を持ってきた。
『これ、見て。』
差し出された本のタイトルは、『三匹の子豚』。よく聞くタイトルだ。話の内容はあらかた知っている。だが、ペラペラとページをめくっていくと、それは私の知る『三匹の子豚』のストーリーではなかった。
『三匹の子豚たちの母は何者かに殺害されました。』
その一文によって、私の記憶にあるストーリーは消し飛んだ。
『なに…、これ?』
私は言葉を失った。絵本の中の生々しい絵について、淡々と言葉が紡がれていく。
『見てもらえればわかると思うんだけど、童話の世界がおかしくなっているんだ。でも、ここにある絵本だけ。世界には何も影響はないんだ。で、試しにある絵本のストーリーに干渉してみたんだ。そしたらなんか喋れるようになってさ。』
そんなこと、現実にあるのかよ。っていうか、自力でこんなに解析できるとか、すごいな。それよりも、気になることがある。
『で、このクマのぬいぐるみがなんだって?』
私はクマのぬいぐるみに近づき、触れてみる。
『うん、この機械は童話の世界に入り込める。つまり、このストーリーに干渉できるってこと。で、詩夢に頼みたいのは、この機械で童話の世界に入り込んで、事件を解決して欲しいってことなんだよ。』
なるほど…。正直なところ、現代の探偵の仕事は飽きていたから、良いなって思った。でも大事なのは、こいつの体を元に戻さないとってことだね。一応、腐れ縁だし。
『いいよ。衣食住は提供してくれるなら、協力するよ。』
人形である彼女はぴょんぴょん跳ねて感謝の言葉を言った。
『じゃあ、早速だけど。さっき見てもらった、三匹の子豚の世界に行ってもらおうかな。この世界では三匹の子豚たちの母親が何者かに殺害されてしまったんだ。そのシーンのページに送るから、これに入ってみて。』
彼女はクマのぬいぐるみのお腹の部分をパカっと開ける。
『え、これにはいるの?』
若干不安はあったが、私の体はピッタリクマのお腹の中に収まり、彼女は蓋を閉めた。蓋が閉まった途端、パステルカラーの電気が一斉につき始めた。そして私は眠るように『三匹の子豚』の世界へ誘われていった。
普通の探偵が童話世界の事件解決! 久代 李月 @Ram_littlecat
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