普通の探偵が童話世界の事件解決!

久代 李月

第1話 恩人よ、金がない!

 ここは広い。父から受け継いだ事務所。家具はアンティーク系で今どきな感じを望む私のような少女にとっては古くさく感じる。だが、いまはそれどころじゃない。金がない。今は夜であり、この広い部屋を照らす蝋燭の一本でさえ惜しい状況だ。灯りは埃を被ったカーテンを開けて、月の光で凌ぐしかないだろう。今日は何を食って生きれば良いんだ。現代において探偵は食えないものよ。浮気調査やら、企業関連調査やら。まあ、そんな依頼さえ私には舞い込んでこないのだが。とりあえず本当に今日を生きられる自信がないため、バッテリー10%のスマホを取り出した。トークアプリ内の会話履歴がまっさらなある人物に電話をかける。…お、出た。私は真っ先に用件を言った。

『金を貸してくれ!!』

電話の向こうの人物は、驚いた声を出して、少し経ったのち、

『あの、詩夢?お金に困ってんのはわかったよ。ちょっと待ってて。』

冷静に返答してくれた。これは…成功か?残りのスマホのバッテリーを気にしつつ、私は彼女に期待していた。というよりも、彼女の財布に期待している。

『詩夢、あのさ。うちの研究手伝ってくれるなら当分の衣食住は保証してあげるけど。』

なんと、金ではなく食事も住むところも保証してくれるのか!?なんて良いやつなんだ!

『ごめん、暗い中悪いんだけど、今からこっち来てくれない?』

もとより、OKだったら直行するつもりだったから問題は無い。私は彼女に返事をし、スマホと空のがまぐち財布をポケットに突っ込み、お気に入りのキャスケット帽子をかぶって彼女のもとへ直行する。

この時間は結構暗いが、月が明るいため道に迷うことはなかった。私の相談を真摯に聴いてくれた彼女は、父の友人であった、なんかの研究者の娘であり、腐れ縁という感じである。何を研究しているのかは単純に興味が無かったためわからない。彼女とは全く連絡を取らなかったため、名前がなんだったか忘れてしまったかもしれない。まずいな。トークアプリでは彼女の個性的なアイコンですぐわかったのに。で、トークアプリでの名前は…ハネケイソウ…。これは、まずい。とてもまずい。彼女の研究所に向かう足がしんどそうに停止した。彼女の良心にすがって衣食住を提供してもらうのにも関わらず、そんな恩人になろうとしている人物の名前をど忘れするなんて…!いや、焦るな。これで覚悟は決まっただろう!私は彼女の研究において全力を持って対処すると!!そう考え、歩みを進めているうちに彼女の研究室の前に着いた。だが、一つ気になるのは、研究所はこんなにメルヘン感のある建物だったろうか。こんな田んぼばかりの田舎に佇むのは、パステルカラーで彩られたまるでおもちゃの模型とかであるお城テイストの何かであった。

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