ベタな仕掛け
「いや~疲れた~」
葵が通された部屋で足を伸ばす。爽が声をかける。
「会食、お疲れさまでした」
「とにかくカピタンにも挨拶出来て良かったよ」
「葵様に直接お声がけ頂き、感激しているご様子でした」
「それなら良いんだけどね」
「さて、今日はもうお休みになって下さい」
「え?」
「昨日の夜から移動を重ねてお疲れのことでしょう」
「ちょっと早い気もするけど……」
「しかし、夕食もお済みになられましたから……」
「……夜の出島を歩いてみるのは駄目かな?」
「駄目です」
「即答だね⁉」
「警備上の問題もありますので、どうぞご理解下さい」
「う~ん、でもな~」
「昼間に色々と出向いたではありませんか」
「夜のさ、飾ってない出島を見たいんだよ」
「……意味が分かりません」
「生の出島を感じたいんだよ」
「言い直されても分かりません」
「え~」
葵が唇をぷいっと尖らせる。
「……その物言いですと、お忍びで回りたいといいうことですか?」
「そうなるね」
「なおさら駄目です」
「なんでよ?」
「危険だからです」
「そんな~」
「鎌倉の件をお忘れですか?」
「む……」
「江の島の件は?」
「むむ……」
爽は先日の誘拐もどきと誘拐事件のことを持ち出す。葵は黙る。
「……視察も日程が詰まっております。今日はお休み下さい」
「さすがにまだ眠くはならないよ……」
「横になれば眠くなってきます」
「そうは言ってもね……」
葵は苦笑する。
「それではお休みなさいませ……」
爽が頭を下げて退室しようとする。葵が呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って!」
「……なんでしょうか?」
「せ、せめてこの建物を見て回っても良いかな?」
「ふむ……」
「明日の朝にはもう、他に移っちゃうわけでしょう?」
「そういう予定ですが……」
「珍しい洋館だしさ。ちょっと見てみたいんだよね」
「まあ、和洋折衷といった趣の建物ですからね」
「お願い、良いでしょう?」
葵が両手を合わせて爽に頼み込む。爽はため息をつく。
「仕方がありませんね……」
「やった!」
「しかし、外に出るのは駄目ですよ?」
「うん、それは分かっているよ」
葵は嬉々として歩き出す。爽がその後に続きながら呟く。
「適度な息抜きは必要ですからね……」
「……う~ん、変わった建物だよね?」
「これまでに色々と増改築を繰り返しているようですから」
葵の言葉に爽が答える。葵が立ち止まる。
「この部屋は何かな?」
「書斎のようですが……」
「ちょっと入ってみよう」
「はあ……」
「おお、本棚が一杯だね」
「それはそうでしょう」
「……こういうのってさ、本棚に仕掛けがしてあって、隠し部屋とかがあるんだよね」
「ドラマなどの見過ぎですよ」
葵の言葉に爽は苦笑する。
「分かんないよ? この重そうな本を取ると、本棚が動いて隠し扉が……」
「そんな馬鹿な……」
「よっと……! う、動いた⁉」
「ええっ⁉」
葵が本を手に取ると、本棚が動き出す。爽も驚く。本棚が動き、壁に隠し扉が現れる。
「ほ、本当にあったよ、隠し扉……」
「そ、そんな……」
「……入ってみようか」
「き、危険です! 誰か人を呼んできます!」
「大丈夫だよ」
葵が扉を開けて中に入る。爽が頭を抱える。
「ああ、もう……仕方がありませんね……」
「階段? 地下室?」
「お気をつけ下さい……」
「うん……あ、意外と深くないね」
「灯りをつけてみますか。電気は……通ってないようですね。えっと、マッチは……」
「灯りと言わず、燃やしてやるばい!」
「うおっ⁉」
「葵様⁉」
突然、発火が起こり、葵を火の玉のようなものが襲う。葵はなんとかかわす。
「ちっ、かわしよったか……」
「だ、誰かいる⁉」
「この子らは渡さんばい!」
「はっ!」
「ぬっ!」
葵が床に転がっていた木の棒を拾い、声の主の首元に突きつける。葵は薙刀の実力者である。声の主の動きが止まる。爽が称賛する。
「お見事……!」
爽がマッチを取り出し、火を点けると、そこには巫女のような不思議な恰好をした少女と、短い灰色の髪、灰色の瞳をした長身の青年、茶髪で碧い目をした双子の少年と少女の四人が身を寄せ合って固まっている。
「だ、誰……⁉」
葵は驚きの声を上げる。
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