ルネアの結果

 それから一週間後のことである。

 いつものように授業部屋で待っていた俺の元に、いつになく表情を高揚させたルネアがやってくる。


「出来たわ」

「何がだ?」

「魔力を使って身体能力を強化する魔道具に決まっているでしょ?」


 何を当然な、という顔で彼女は言うが、そんなすごいものがたった一週間で出来てたまるか。しかしルネアは次々と指輪やネックレス、肩当などの装備品を並べていく。

 それを見て俺も驚いた。


 冒険者時代、数多くの冒険者の装飾品を見てきたが身体能力を強化する魔道具というのは貴重だった。あったとしても、高価な割に微々たる効果に過ぎないものが多かった。

 だが、ルネアの前に置かれている物はいずれも当代一流の品にひけをとらない強さのものばかりであった。いずれも最強の戦士が装備していても何らおかしくない。

 そして素人であってもこれらを装備すればある程度の戦いは出来るようになるかもしれない。


「どう?」

「ぱっと見た感じ、とても一週間で作れるものとは思えないな」

「そりゃそうよ。だって魔道具作りに初めて本気で取り組んだもの」


 さらりと言い放つルネア。


「分かった。ならば中庭に行こう。力を見せてくれ」

「うん」


 そう言ってルネアはそれらを全て装備すると、中庭へ向かう。そして用意していた竹刀を取り出して構える。

 素人なので構えには隙が多いが、彼女が竹刀を振ると風を切る音が聞こえてくるし、身のこなしも俊敏だ。そしてそんな自分の身体にルネアは表情を紅潮させている。


「すごい、あの運動音痴だった私の体がこんなに動くなんて!」

「すごいな」


 もちろん身体能力が上がったからといって技術まで上がる訳ではないので今の彼女はまだまだ隙だらけだ。

 しかし例えば、百点満点で技術をゼロから三十に上げるのは誰にでも出来るが身体能力を十から三十に引き上げるのはかなり難しい。言い換えれば、後は基礎的な練習を詰めば中級冒険者ぐらいの腕前にはなれるということだ。


 走る速さや竹刀の振り方を見ていると、運動神経がいい剣術初心者の男に勝るとも劣らない。


 ひとしきり自由に身体を動かしたルネアはこちらを振り返る。


「と言う訳で魔物討伐に連れていってもらえない?」

「待ってくれ。確かに身体能力は上がったが、技術は素人のままだ」

「だってメルクリウスは剣術は教えてくれないでしょう? それに城の騎士たちは私が剣術をやりたいなんて言ったら卒倒すると思うわ」


 彼らはルネアのことを凄腕の魔術師だと思っているから急に言われても困るはずだ。


「そうだな。だったらエリサに教えてもらったらどうだ?」

「ああ、姉上……」


 俺の提案にルネアは複雑な表情を見せる。

 これは俺の予想に過ぎないが、これまでルネアは自分がやりたいことを出来ないのに、第一王女の役割を全うしながらも自由に生きているように見えるエリサのことをまぶしく思い、そして嫉妬していたのではないか。そのため知らず知らずのうちに微妙な距離をとるようになってしまったのだろう。

 とはいえ今のルネアであればそんな彼女ともきちんと接することが出来るはずだし、出来れば仲直りして欲しかった。


 しかししばらく考えて他に案が思い浮かばなかったのだろう、仕方なく彼女は頷く。


「分かったわ、そこまで言うなら頼んでみる」

「またある程度の腕前になったら教えてくれ」


 とはいえ、難しい魔道具の開発すら一週間で終えてしまった彼女である。基本的な剣術の練習であれば難なくこなすだろう、と俺は思うのだった。

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