才能の使い方

「さて、とりあえずしばらくの間お互いの役目を取り換えっこしてみたら思ったよりもうまくいったわけだけど、これからもこれで続けてみない?」


 その次の授業、俺はルネアにテストをしたが、相変わらずルネアは可もなく不可もない成績をとった。そして俺がやっていた作業もルネアと方法こそ違えど問題がなかったらしい。つまりこのままいけば何の問題もないだろう。

 それでも俺は机の中にあった剣の存在が脳裏にこびりついて離れなかった。ルネアの個人的な問題に首を突っ込むのは教師の仕事というよりは自分のエゴだ。それでも、彼女の今の状態を見過ごすことが出来なかったし、ルネアの才能が今のように雑に使われているのは嫌だった。


「なあルネア、本当は魔法じゃなくて剣術がやりたかったのか?」

「……」


 俺の問いにルネアは不快そうな顔をして沈黙する。

 やはり他人に触れられると嫌なことだったか。

 少し考えてルネアは重い口を開く。


「見たのね。でもだとしたらどうだって言うの?」

「何でやめたんだ?」

「私は体力もないし、今はそうでもないけど幼いころは病弱だった。それに周りは皆私の魔法の才能に注目してそればかりさせようとしていたから」


 それはそうだろう。今のルネアは特に才能を磨いていない状態でここまでの能力を持っている。それを有効利用しようとするのは当然の考えだ。

 しかし一方で、それは他人の道や才能をコントロールしようという考えでもある。


「とはいえ多少やってみるぐらいなら構わないだろう。今ならそこまで体も弱くないはずだ」

「もちろんそう思ったこともあるわ。でも分かる? 剣はいくら訓練しても大して上達しない。でも魔法は何もしなくても勝手に上達していく。こんな理不尽なことってないわ」


 ルネアは内心の思いを吐き捨てるように言った。

 努力はそれ自体尊いもののように思われがちだが、その努力を自分自身が否定してしまうのだ。他人のせいにしようにも自分の中で自己完結しているからその感情は全て自分に向いてしまう。


「ルネアは今魔法の才能があることも剣の才能のなさも嫌いになっているだろう?」

「ええ」

「でもそれは別に対立関係にある訳じゃない」

「どういうこと?」


 俺の言葉にルネアは首をかしげる。

 そこで俺は自分なりに考えた解決策を提示する。


「魔法の才能があるならそれを極めて剣術に生かすことも出来るってことだ」

「それは身体強化の魔法をかけるということ?」

「それもそうだが、ルネアは様々な魔道具を作ってきたはずだ。それなら自分の身体能力を強化する魔道具も作れるんじゃないか?」

「確かに、それはそうだけど試合ではそんなことは許されないわ」


 俺にはよく分からないが、王族や貴族の試合では魔法を使ってはいけないみたいな決まりがあるのだろうか。それでルネアは今まで魔法の力と剣術を全く別物として分けて考えていたのだろう。面倒だ。

 俺は冒険者の世界しか知らないし、そちらでは魔物が倒せれば何でも良かったのだが、そうもいかないらしい。

 そんな思考があったため、俺はつい言ってしまった。


「じゃあ魔物とでも戦うか?」

「え、いいの!?」


 途端にルネアが今までにない食いつきを見せる。まるで男の子のようだ。

 余談だが、この国ではほとんどの男子が一度は剣を振るって魔物退治することを夢見るか、もしくは魔物退治ごっこをするらしい。今の彼女はまるでそういう男の子のようであった。

 冷静に考えてルネアを魔物退治に連れ出すなど許されることではないが、ここまで言って今更だめとも言えない。それに王族や貴族相手では魔法相手の試合が出来ないし、俺ではそもそも相手になることが出来ない。


「ま、まあルネアがそれにふさわしい実力を身に着けたらな」

「分かった。そこまで言うなら最強の魔道具を作ってみせる!」


 ルネアはいつになく高揚した表情でそう宣言する。


「お、おお」


 とはいえ俺が知る限りではルネアがこれまで作って来た魔道具は身体強化系ではない。いくらルネアでもそんなやすやす目的を叶えるものを作り上げることが出来るとは思えない。

 その時の俺はそう考えていた。

 が、これまで不承不承使ってきた才能に、やる気が加わった時にどうなるのかを俺は少し甘くみていた。そのことをすぐに思い知ることになる。

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