第40話 応援、そして足止め
「お待たせしました。通報を受けて
志乃が屋外へと脱出したのとほぼ同じタイミングで、数名の武装した隊員を引き連れやってきた、精悍な顔立ちをした警官の男性は、警察手帳を提示しながら声を掛けた。
突然に声を掛けられ、
そして、志乃は自ら警察の対応をするべく、
「……えぇ。
「――はい、大丈夫です」
花音は気丈に返事をすると、脱力しかけている比奈乃の身体をやっとのことで肩を抱え預かると、警察隊に保護される形で、比較的安全であろうスペースまで歩を進めていく。
志乃はその様を最後まで見届けようと、わずかに目線を上げるが、担当刑事である伊藤の声によって、それは遮られる。
「――では早速ですが、犯人の人数はわかりますか? 正確な数でなくとも、おおよそで結構ですので」
「えっと……確か、結構な数のグループだったと思います。ただ、魔法の戦闘があって、今現在動けているのは数人だと思います」
「なるほど。ということは時間が経てば相手の戦力も回復する可能性があるということですね。あと、魔法の戦闘があったとのことですが、犯人側が魔法を?」
「はい、それもかなり強力な魔法のようで――」
「だとすると、魔法使いのデータベースから犯人を割り出すこともできそうですね」
「いえ、それは多分難しいと思います。彼らの主張から察するに、恐らく、独自の手法で会得したものかと……」
「そうでしたか。それは失礼しました。ですが、一応可能性は否定できないので、後ほど詳しくお話を。あと、人質の状態について教えていただけますか」
聞き得た情報を、手帳へ事細かにメモしながら、刑事は最重要事項ともいえる、人質の状態へと話題を踏み込ませる。
それまでの応答によって幾分冷静さを取り戻していた志乃も、そこで思い出したように感情を瞳に表し、やや落ち着かない様子で自身の知り得る情報を提供した。
「ウチの生徒が一人……生徒会長の
「それは……立派な生徒さんで。大丈夫です、必ずや我々が宮澤君を救い出します」
それは志乃を安心させる為なのか、はたまた刑事としての信念からなのか、伊藤刑事はキリッと表情を引き締め、敬礼をする。
ただ、次の瞬間、玄関ホール内より閃光が確認できたかと思えば、半秒ほどの間を置いて全身を震わせるような爆音と衝撃が周囲に広がった。
「これは一体……何か交渉にトラブルでも⁉」
突然の出来事に、刑事たち警察隊の間に緊張と焦りの感情が共有される。
すると、その答えを解説するように志乃は黒ぶちの眼鏡を片手で持ち上げながら、不安そうな顔つきで玄関ホールを見つめながら、口を開いた。
「多分、宮澤君が戦っているんです」
「それは先ほど言っていた、自ら人質となった生徒さんの?」
刑事の言葉に、志乃は黙って首を縦に振る。
志乃からの無言の返答に、刑事もまた目線を玄関ホールへと向ける。
二人や警察隊のいる位置からでは、ホール内の様子をうかがい知ることはできないが、それでも空気を通じて得られた魔法の感覚から、件の魔法使い二人が激闘を繰り広げていることは容易に想像することができた。
その他を寄せ付けない迫力を持った戦いに、刑事は少しの間考えを巡らせた後、志乃へとある提案をする。
「このタイミングで我々が介入するのは少々危険かもしれませんね。今はまず突入の計画と経路について煮詰めていきたいと思っているのですが、図面や見取り図といった施設の構造がわかるものが手元にないので……」
「それでしたら、恐らく学園長が知っているかと――」
「助かります。それで、学園長はどちらに?」
「確か、玄関ホールから伸びている、あちらの通路の方に……」
「ホールを通らずに行く方法は、わかりますか?」
「はい、案内しますので、ついてきてください」
「ありがとうございます。部隊はこの場に置いておきますので、あちらの生徒さんについてはご安心ください」
そう告げると、刑事は自らの率いてきた部隊をその場に待機させ、志乃と共に校舎をぐるりと回り込む形で、現場から離れていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます