第24話 球技大会

 球技大会当日。

 美晴ヶ丘みはるがおか学園は、全校生徒が各々配属された競技に参加するということもあって、普段よりも賑わいだ空気が全体的に漂っていた。

 午前中から屋外ではソフトボールとサッカーが、屋内ではバスケットボールとバレーボールが、生徒会の生徒たちによって進行され、各学年2チームずつで繰り広げられたトーナメント戦は、比較的穏やかな、いわばレクリエーションのような雰囲気で消化されていった。

 そして、午後――各競技決勝戦のみを残したところで、それぞれの敗退したチームの生徒たちが一番に集まっているのは、他でもないマジックボールの行われる会場に相違ない。

 マジックボールは、その名の通り、魔法を用いて、競技用に造られた特殊なボールを相手のゴールへと入れるスポーツである。

 ゴールへ入れた回数で競うという点においてはサッカーやバスケットボール、ハンドボールなど他にも多くのスポーツが存在する。

 それらとの違いは何かというと、やはり『ボールに直接触れてはならない』という特異なルールであろう。

 では、ボールに触れることなく、どうやって相手のゴールまで持っていくのかというと、それはもちろん、魔法によってである。

 競技者たちは、攻撃側と守備側とに分かれ、攻撃側がボールを保持できなくなるか得点が入った場合、攻守が交代され、それを時間内に繰り返して競っていく。

 また、守備側攻撃側共に、魔法の発動――主に呪文の詠唱を阻害する行為を禁止するといったルールも併せて用意されているのも面白いところである。

 マジックボールは、その魔法を使用するという競技の特性上、専用のコートを所持している高校はほとんどなく、高校生のプレーを見ることができるのは、美晴ヶ丘学園だからこそともいえる。

 ただ、多くの生徒たちが会場に集まっているのは、マジックボールが見られるのが貴重であるからというだけではなかった。

「あっ、花音かのんも見に来たんだ?」

 客席の上段に座り、試合の開始を待っていた花音に声を掛けたのは、同じクラスのお団子頭と丸眼鏡が印象的な女子生徒――西野にしのまなみであった。

「あっ、まなみちゃんも見に来たんだ?」

 まなみの顔を確認するなり、小さく手を振ってみせると、すぐに隣寄って、友人の座るスペースを作る。

「もちろん。なんてったってかおる設楽したらさんっていう、二枚看板が揃ってプレーするんだから、見ない選択肢はないわね」

 そう言うと、まなみは花音の隣へ腰を下ろし、相変わらずの口元だけを緩めた表情で親指を立ててみせた。

「うん。前評判も凄かったけど、それを予想通り決勝まで勝ち進んでみせるのも本当に凄いよね」

 同級生のチームの邁進に、半ば興奮した様子で花音はまなみへと共感を求める。

 というのも、2年生のチームが決勝に進出するという事態が、学園創立以来の快挙であるからに他ならない。

 それは、魔法の練度も然り、肉体の成熟具合も然り、高校生というくくりにおいては、あらゆる面において3年生が圧倒的に有利となるのが当然と思われていたからである。

 その結果、元より注目度の高いマジックボールという競技であるのだが、今回の決勝戦は、例年に比べ、格段に観戦者が多くなっていたのであった。

 試合開始の時間が近づくと共に、会場も次第に緊張感と高揚感が増していき、独特な空気が周囲に漂い始める。

 そんな中においても、まなみはマイペースに、どこからともなく取り出した水筒からお茶を汲み、くつろぎモードへと移行しつつ、花音へとねぎらいの言葉を述べる。

「でも、花音も頑張ったじゃない。まさか初戦を突破するとは私も思わなかったわ」

「相手が1年生っていうのもあったけど、まさか私も勝てるとは思わなかったよ。やっぱり、かおるちゃんの熱血指導のおかげかな」

「えぇ、薫の指摘は的確だし、戦術面でも結構いい線いってたと思うわ。ま、敗因があるとすれば、相手が3年生で体力的にも数段上であったっていうことね」

「まなみちゃん、他人事みたいに言ってるけど、まなみちゃんも私と同じチームだったよね?」

「……まぁ、終わったことはいいじゃない。こうして薫たちの試合を見ることができるんだから、結果オーライよ。ほら、そろそろ始まるみたいだし、応援しましょう」

「もう、まなみちゃんったら……」

 まなみに促され、花音が視線をマジックボールの行われるコート内へと向けると、そこには運動着姿の参加者たちが、各々姿を現し、ウォームアップを始めていた。

 そして、その中にはもちろん薫や慶子けいこといった、注目選手の姿がしっかりと含まれている。

 薫は普段と変わらぬ様子で、程よい緊張感を抱きながら、軽いストレッチを繰り返し、慶子はというと長い髪をポニーテールにまとめながら、静かに闘志を燃やすように、じっと対戦相手側のゴールを見据え続けていた。

「あっ、薫ちゃんっ! がんばれ~っ!」

 姿を見つけるなり、大手を振って応援する花音。

「あっ、花音とまなみじゃん」

 その声に気付いてか、薫も顔を持ち上げ、手を振り返す。

 そこへ、審判役を務める生徒会の生徒が姿を現し、会場の盛り上がりと緊張感はピークを迎える。

 指示に従い、2年生と3年生がコート中央に集まって、互いに向かい合い、審判の笛の音を合図に、双方のあいさつが空高く響き上がった。

「――よろしくお願いします」

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