第22話 思わぬ再会
吸い込まれそうな青空の下、せっかくの休日ということもあって、朝の身支度もそこそこに、
モール内に続く街並みは、所々でまだ閉まっている店舗が見られ、往来する人々の姿も、まだそれほど多くはない。
あと数十分もすれば、それらの店も開店の看板を掲げ、人通りもより増え、賑わうであろうが、それを待たずに花音がこの場を訪れたのは、より長い時間外出を楽しみたいというのもあるが、混雑していないこの時間帯で静かに商品を見て回りたいという思いもあってのことであった。
そして、そんな花音の思いも無事叶い、ファンシーショップや個人経営の小さな雑貨屋等を巡り、好みの小物であったりミニチュアの商品を、存分に見て、想像し、夢を膨らませ、今日という時間を消費していく。
そうしている間にも、もちろん時間は進んでいき、ショッピングモールにも人の気が増していき、雑踏の音が静寂を飼っていた店内にまで聞こえてくる程にまでになっていた。
「うわぁ……もうこんな時間かぁ……」
店を出るなり、花音はその瞳に映った、大勢の人の流れに、思わず声を漏らす。
花音が美晴の地を訪れたのは去年のことであり、この休日の人通りを見たのも決して初めてではないが、それでも中々慣れるものではない。
だからといって、いつまでも店先で置物のように棒立ちしているわけにもいかないので、花音はおもむろに、その流れに溶け込むべく、一歩を踏み出す。
様々な服装、年代、顔つき、背丈の人々とすれ違いながら、花音はなおも気になる店や商品が新たに出ていないか確認しながら通りを進む。
そんな中、花音は不意に目についた、見知った顔に意識を引きずられ、思わず足を止めた。
「もしかして……アカツキ、ちゃん?」
様子をうかがう様にゆっくりと近づきながら声をかけた花音に対し、通りを歩く人々の邪魔にならないよう、道の端に寄って、手にしたメモらしき紙を読んでいる、決してオシャレとは言い難い、無地のワンピースを着た少女は、不思議そうに顔を持ち上げる。
「あっ、花音ちゃん!」
ピタリと目が合い、声を掛けてきたのが花音であるとわかるなり、アカツキは初めて対面した時と同じような、満面の笑みを浮かべ、花音の元へと近づく。
決して高級とはいえないが、それでもある程度はめかし込んでいる格好の花音に対して、アカツキの格好は明らかに見劣りするものであった。
対照的な服装の二人の組み合わせであったが、それが周囲の目には珍しく映ったらしく、直接話しかけたり接触したりすることはないものの、皆が奇異の視線を向けながら通り過ぎていく。
そういった不特定多数の視線を感じながら、花音はそれらを振り払うように、アカツキへと声を掛ける。
「何かメモみたいなの見てたみたいだけど、どうかしたの?」
「えっとね、今日は私はおつかいに来たんだ。お友達が誕生日だから、そのお祝いをするんだよ」
「お友達の? そうなんだ、じゃあ、一体何を見ていたの?」
アカツキに友達がいるという事実を知り、花音は無意識に安堵の表情を浮かべ、改めて疑問を投げかける。
対してアカツキは純真に、手に持っていた、チラシの裏紙で作られたメモを花音へ見せつけた。
「ここに行って買う様に頼まれたの。だけど、いくら探しても見つからないの」
「見つからない? えぇと、ちょっと見せてね」
アカツキからメモを受け取り、花音はその紙面へと目を向ける。
そこに描かれていたのは、アカツキより大分年上の人間が書いたのであろう、成熟した筆跡で綴られた、地図と『アラモード』という店名であった。
「アラモード?」
店名を
そして、手にした地図と記憶の中の店の並びを照らし合わせ、店があるであろう、おおよその場所を特定する。
「ここって、確か通りの向こうの方にあるはずだから、案内するよ」
「本当⁉ ありがとう、花音ちゃん!」
案内を申し出た花音に、アカツキは目を輝かせ、喜びの感情をにじませながらお礼の言葉を返す。
「ううん、気にしないで。じゃあ、行こう、アカツキちゃん」
まっすぐに向けられるアカツキの明朗な表情。
それを受けて、花音も知らず知らずの内に頬を緩めながら、横に並んでモール内を歩き始める。
相変わらず、周囲の視線は柔らかなものではなかったが、二人はそれを意に介すことなく、まるで姉妹のような空気感で『アラモード』へ向けて足を進めていくのであった。
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