第15話 幕間

「手応えの方はどうだ?」

 日没後、繁華街から寂れた郊外の住宅地帯へと続く、人気ひとけのない路地を歩きながら、迷彩色の衣服で上下を揃えた大柄な男――コテツは、自らの前方を歩く相方へと声を掛けた。

「……いや、今日もダメだった。誰一人として俺たちの話を聞きやしない」

 コテツの問いかけに、直前までショッピングモールで力強く演説をしていた男――イミトは苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、首を横に振る。

 そんなイミトの回答に、コテツはある程度予測できていたのか、さほど驚くこともなく、自らの意見を述べる。

「確かにな。昔は数人程度は足を止めるくらいはしてくれたもんだが、最近はさっぱりだ。恐らく、慣れてしまったのだろうな、という存在に……」

「それもあるだろう。だが、だからといって声を上げないわけにもいかない。俺たちが声を上げ続けなければ、ヤツらは都合よく解釈して、問題など無かったことにされてしまう」

「それはそうだが……いつまで続けるつもりだ? こうして演説を続けていても、向こうが話を聞いてくれる保証なんてないぞ」

「そろそろ、潮時ってことか……」

「何か、策でもあるのか?」

「俺たちはこれまで、幾度も国や自治体に向けて、呼びかけを行った。今更になって認知していないということはないだろう」

「それは、そうだろうな……実際、俺たちを排除するために警察も動いているわけだし、知らない振りはするかもしれないが、情報だけは上がっていると考えていいだろうな」

「――手駒は既に揃っている。今週中にいずれかから返答がなかった場合、計画を実行に移すまでだ」

 まるで積年の恨みを晴らそうかというような、強い意志を込めたイミトの言葉に、コテツはすぐには言葉を返すことができなかった。

 時間にしてわずか数秒。

 その一拍置くかといった考慮時間で、コテツは自らの考えを整理し、掛けるべき言葉を探し、そして口を開く。

「計画って……失敗したら、組織が壊滅するかもしれないんだぞ。そんな危険を冒してまで、本当に実行するっていうのか?」

 イミトはコテツの放った心配の声に、微細に表情をしかめ、しかしそれでも絞り出すように、冷たく、ただ前だけを見据えながら、続けた。

「俺は、この弱者の集まる場――DOという組織があったから、ここまで冷静に自分を抑えてこられた。その点は感謝しているし、できるなら争いたくはない。だが、この状況を続けても、何も変わらないんだ。だからこそ、仲間を、同志を、盟友を守るために、今こそ行動を起こさなければならないと、そう思っている」

「……そうか。お前がそう決めたんなら、俺は反対しねぇよ」

「すまない……。コテツ、これから数日かけて、計画に参加できる仲間を集めてもらうことはできるか? わかっているだろうが、向こうには感づかれないように頼む。計画が漏れてしまったら、すべてが水の泡になってしまうからな」

「大丈夫だって。そんなヘマはしねぇよ。あと、協力者は志願者のみでいいんだよな?」

「あぁ、今回の計画は危険を伴う。命を賭せるだけの覚悟がある者たちだけで、挑みたい……最悪、集まらなくても俺たちだけで何とかできるはずだ。まぁ、多少しんどいことにはなりそうだが」

「わかった。代表の言葉、はっきりと伝えておくよ」

「あぁ、頼む。コテツも、くれぐれも身の安全には気を付けてくれ。その図体じゃ逃げるのも大変だろうしな」

「危険なのは慣れてるさ。それに、万が一捕まったとしても……いや、気をつけるとするよ。じゃあ、俺は早速仕事を始めるとするかな」

 軽く笑いながら発した、その言葉を最後に、コテツの姿は、2メートル近い巨体をしていながらも、夕暮れの街並みに生じた、薄暗闇の中へと溶け込むように消えていった。

 残されたイミトは、コテツの気配が遠のいていくのを背中で感じながらも、決して背後を振り返ることなく、自分たちの拠点へ向けて、少しばかり歩く速度を上げる。

 そしてイミト自身もまた、時折通り抜ける自動車のエンジン音と、事あるごとに合唱を始めるカラスたちの鳴き声がこだまする住宅地の最奥へと、足音だけを残して姿をくらますのであった。

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