第4話

現地に移動しつつ打ち合わせを行う。


受け持ちの時間はそれなりに長いが無理が有る程でも無い(五、六時間。三人毎に三人の内一人が店員に扮し、一人が客、一人が休憩それを一時間毎にローテーション)。そして、ボーグ少佐は監視カメラを見て連絡してくれる人の内の一人らしい。…データを見られた関係上、盗聴の可能性もあるので、データとして存在させないために人数等は伏せられているが、本部に待機している人員が強盗犯を発見次第【転移】で送られてくるそうだ。


レアと言う話では有ったが、一人も居ないと言うわけでは無い様だ。…なら現地で張る意味があんまり無い気もするが、【転移】封じが有る以上敵がそれを使って来る可能性が無い訳でも無いので、現地に居る人員もそれなりに必要なのだとか。…成る程。【転移】が有るなら人員そんなに要らなくね?とは思ったが、そりゃ人員もそれなりに必要だよな。


まあ、【転移】を持ってる奴がそれを使うとは思えないが、念のためらしい。…これは通常時の対応を当てはめてるだけな気もするが…。まあ良いか。


一応犯人側からしてみたら犯行中にのみ使えば警備側が転移してくるのを防ぐのには使えるだろうし…。


そう言えば、強盗犯が銀行に事前に下調べに来ている場合は人が何時もよりかなり多いとか普通に警戒されるような気がするし、客に紛れるのにもある程度の人数的な限界が有る気がするんだけど…、まあ時間を振り分けてるから其所までには成らないと良いのだが…戦うのは極力したくないなら多分人が少ない時間帯を狙う方が合理的なのだが、それは逆に言えば銀行を混雑させ続けるだけでもある程度の防犯には成るのだ。客を人質にするにもかなりな縛りプレイを要求されるので、普通に返り討ちされても何らおかしくない。何せ戦うのは無理が有る訳だしね。…だが、犯行をさせない事は最低限の目的で、今回の主目的は捕まえる事なので、見た目上の度を超した混雑を起こす程には人は配置されては居ない様だ。


まあ、銀行員に成り済まししてる側は作業してるふりしてればそれなりに時間を稼げて良いのかも知れないが、…何せ然程混雑していない銀行に客として一時間も居なければいけないのだ。色々な手続きで時間を潰すのを何人かで繰り返すにしてもそれは一般客の迷惑に成るし、一時間も混雑してない銀行の中に客として居座れと言うのは割と不自然な行動と言える。混雑してたら受け付けの待ち時間だけで余裕だったが、そう言う銀行は安価な爆弾程度で壊れる様な金庫は使わないだろうし、今回の範囲外なのだろう。


さて、カモフラージュとして銀行の店員の業務をこなしながら周りに意識を向ける。


来る前にに思った通り然程人は居ない。下見のし易さは人が大量に出入りする銀行の方が上回るが、犯行のし易い銀行は人の出入りが少ない銀行なのだ。…流石に何時もの人の出入りの程度まで把握はしていないだろうと先の段階では言わなかったが、流石に零に等しい状態だと目立つだろうから出入りが零でも困るのだしね。つまりは出入りが少なすぎず多すぎずの銀行が一番狙われやすいと推測出来る。


此処は一応その範囲に当てはまる銀行と言えるはずなので、強盗犯が来る可能性は高いと言えるだろう。


問題はいつ来るか、だが、襲撃に規則性が有っては予測されても可笑しくない。なら出来る限り規則性を排除する様に襲撃するはずだが、…実際【転移】持ちが相手な以上国外逃亡は容易いだろうし、今までは戦闘に成ること無く強盗が成功してるから続けているのだろう。…つまりこれは一発勝負なのだ。まだ行けると相手が思うような状態で無いと逃げるのは容易い訳だから、本格的に捕まえられる様なタイミングを一回でも凌がれでもしたら手を引かれるのは目に見えて居るのだし。


そして後は特筆すべき事も無く見張り役の今日の割り振り時間が終わった。




次の日。…流石に今日か明日くらいには来て欲しい所だが…。


そして二日目の三時間が過ぎた頃。


テレパスで通信が入った。


『強盗犯が来たわ。急いで現場に向かって。【転移】で人員送るからそれまで時間を稼ぎなさい』


『解りました』


なので通信は繋げたままで金庫へと向かう。


金庫付近に着くと爆発音がかすかに聞こえた。…消音爆弾か?まあそれは良い。犯人は何処だ?…三人居た。取り敢えず、金庫の周囲と部屋の一部の空間を【剛体化】を【拡張】で自分以外へも使える様にして固める。


さあこれで通れないだろう。


そこで犯人の内の一人が剛体化している空間に向かって何等かの力を使用した。


…此方の力が掻き回されている?


するとなにかが剛体化した空間から突出した。犯人の内の一人は恐らく水系の因子でその突出した物へと攻撃を加える。…すると一部が壊れただけなのに剛体化した全体が壊れた。


はぁ?


するとドグラスが犯人に斬り掛かりながら割り込んで来る。


「これは【抽出】だ。絶対に喰らうなよ」


「意味わからんが取り敢えず空間を塞ぐぞ」


「おう。最低でも気絶させる。歯ぁ食い縛れや」


そして犯人達の周りの空間を【剛体化】で固め動けなくさせようとしたが一個一個は少ししか時間を稼げず一個一個のそれがあっさり破壊されていく。勝利条件としては援軍が来るまで時間を稼ぐだけで勝ちなのだ。とにかく妨害する事だけ考えろっ。


…それが失敗だった。敵の攻撃を一部喰らってしまったのだ。…すると自分の中から様々な色をしたクオーツ結晶が出て来た。


…何だこれ?


「このばかっ。それはっ」


敵はそれに追加で攻撃を加えてきた。防ぎきる前に攻撃が到達してしまう…が、それは壊れなかった。


「は?」


相手は何故か驚きで一瞬硬直した。そこをドグラスが攻撃を加え戦闘不能へと追い込む。あと二人。


今の戦闘不能に陥った奴だけが空間を破壊していたのか破壊を出来ずに閉じ込める事に成功した。…幾つか因子を使われるが、本来【剛体化】はそんなに柔じゃ無いんだよ。


そして、暫く経ったら援軍が到着した。…この遅さ。そりゃ今までは取り逃がすわな。だが、何とかこれで確保完了だ。


後、最初に戦闘不能に成ってた奴が密かに移動して脱出しようとしていたが、其所に援軍が来たらしく、追加で攻撃を喰らって終了した。


…そして強盗犯の三人は転移封じの効果が有る手錠を付けさせて、連行されていくのだった。


…そう言えば金庫が爆破されたのだし金が此処から見えても良さそうだったのだが、恐らく金を堅牢な金庫に移し替え済みだったのか、然程入って無かったみたいだ。


…金の輸送時が狙われやすく一番危険なのにこんな時に輸送をするとかどうなんだ?とは思うが、堅牢な金庫へと金をほとんど(全部やったら銀行としての業務を出来ない為)輸送さえ成功させてしまえば今回はそれで被害をかなり抑える出来る訳なのだから、やろうとしたのも解らなくは無いけども…。


さて、今回の疑問を解消するために色々と聞くか。


「あのさ、強盗犯の使ってた【抽出】ってどういう能力なんだ?」


「要は色々な物が混ざってる物から特定の物を取り出す能力で、あの壁が簡単に壊されてたのは壁を出してる力の中核を取り出して他の力で破壊した為だ。主に、色々な物が混ざってる鉱石等の物から狙った物だけを引っ張り出す事が出来るから鉱石の製錬等には御用達な能力に成る。だからそれ関連の仕事をしてる奴には所有者はそれなりに居ると言える因子だな」


「成る程、ではそれが此方に当たった際にクオーツ結晶が出たのはなんでなんだ?」


「要はあれは因子能力の結晶だな。それを壊されたらそれに応じる能力を失う結構大事な物で、それを【抽出】で取り出して破壊する事で壁を出す能力を破壊して脱出しようとしたわけだ。で、本来ならそれで破壊出来てただろうが、因子結晶は個々がその因子結晶に対応する能力の領域をある程度展開していて、例えば防御系因子の因子結晶を破壊しようとしたらその因子結晶に対応する能力の防御力を突破し無きゃ成らない訳で、能力が厄介だから能力を失わせようとしても 、結局は真正面からその能力を超える必要が有るって訳だな。で、水系因子を少し当てた程度じゃ壊れなかった訳だ」


「ふむ。…チートとは言え対処出来なくは無い訳ですか…」


「因みに【転移】で来る奴等が遅かった理由は【転移】の仕様に有る。まあ要は【転移】させる人数が多ければ多い程、術者に要求される技量が上がるし、【転移】に必要な時間も増える。この仕様は実際有難いんだよな。この仕様のお陰で敵国の中に大軍送り込んで暫く暴れたら即撤退…的な事が撤退に必要な時間的な意味で難しい訳だしね。術者がそれなりに居たら話は別だけど、【転移】はレアな部類だから問題は無い訳だ」


「…要するに【転移】がレアじゃ無くなったら、転移封じの設備必須って事じゃ無いですか」


「まあそうなるな。空間系因子は試練がかなり難しいから絶対数はそうは増えないけども」


「なら良いんですけど…一定以上の威力の爆弾とか持ち込まれて起爆されたらどうなるんですかね?」


「…あー、一定以上の威力を世界の中で出した場合には世界の仕様として特殊な事が起きるが、それについては実際に見た方が解りやすいだろうから此処で説明しても仕方ないかな」


「要は世界の仕様上問題ないと?」


「そう解釈して貰えば良いかな」


「そう言えば防御系因子を相手は破壊しようとしてたんですから、因子の仕様をある程度は知ってたはずですが、何故壊せなかった事に驚いたんでしょうか?」


「自分の因子の破壊力にある程度の自信を持ってたんじゃないか?実際【抽出】を使った後の他のはあっさり壊せてたから、大抵はあっさり壊せると認識してても仕方ないだろうし」


「なら因子結晶自体にもそれなりの硬度は有るって事で良いんですかね?」


「基本的にはな。…まあ、一定以上の火力持ち相手には素の因子の防御力なんて有ってない様な物だし、因子結晶を壊されない様に因子結晶を保護するための因子を手に入れる奴も結構居るがな」


「まあ確かに、能力の根幹何でしょうし、そうなるのも解りますけど、どんな対策してるんですかね?」


「対策の種類が多すぎて、人によるとしか言えないな」


「そうですか…」


「さて一先ず撤収するぞ」


「その前に、後始末は誰がやるんですかね?」


「それをやるのは少なくとも俺達じゃ無いだろう。もしやるなら不公平過ぎるしな」


「まあ、本部待機陣側は待機中は暇だったでしょうからそっちがやってくれると嬉しいのは確かですけど、…少しくらいは手伝っといた方が無難かと」


「…だな。手早く終わらすぞ」


「ですね。さっさと終わらしましょうか」


…そして後始末をある程度手伝った後に其所から撤収したのだった。


そして皆で軍事施設に戻って来たので、もう一方の確保に成功したかを確認すると、どうやら成功したようだ。これは高評価が期待出来そうなので、最初から高い階級に成れたりするのだろうか?だが、まだとりあえずは階級の確定は保留らしい。まあ、犯罪者の思考を読めるのは犯罪者だ。…と主張する創作も存在するし、様子見とされたのだろうか。…犯罪者じゃ無いんですけどね…。


そして寮に通され、寮についての説明を受ける。意外だったのは寮生活な割には朝が速く無くても良い事だ。休む時間をある程度づつずらした形で寝てる時にも誰かしらが一定数軍事施設の警備に居るためなのと、時間系因子のせいで…いや、おかげで、訓練の時間をかなり長く取れるらしく、基礎体力の向上や、因子の強いのを獲得するために必要な試練対策の為の訓練などかなりキツい訓練をする様だ。だが、これは渡りに船な話だ。基礎体力の向上の為の鍛錬はともかくとして、今の自分には欲しい因子が幾つか有るのだから。


そして自分はその為の手続きを行う事にした。


因みに兵器類はまた別の時間帯に行うそうで、○○の技量を得る系能力が無い訳では無いが、取得したとしても、既存兵器を扱う物ならば、基礎的な問題に対する回答を丸暗記しただけなのと意味合い的には変わらないそうなので、結果的に特殊な条件下には弱く、結局は自分で経験積んで鍛えた方が良いと判断され、余り好かれないらしい。


それはともかく、寮の部屋に戻る事にする。明日は九時から因子の獲得の為のトレーニングに成る。楽しみだ。…っておい。警備時間割り振りの表が張り出されていたので見たら、夜警する側の時間に自分が割り振られているのを見付けてしまった。 …初日からこれかよと言う事に成ってしまった。…だがまあ、朝が八時起きでも問題無いので、警備をしながら時間を潰す事にしよう。幸い、深夜一時くらいまでやってれば良いらしいので、不寝番よりかはマシと思う事にしよう。


そして夜警に向かい、夜警時間が被る人達に挨拶して、深夜一時まで夜警し、寮の部屋に引き上げるのだった。

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