第6話 信長、危機に陥る

で、どういうことかしら」


 何故だか結城が怒ってる。どういうことだ。いや、せっかく景虎と出かけてたからといってただの友達だろ。いや、もしかして二人の仲がそこまで言ってるのか。いや、そうに違いない。


 俺は荷物とともに座っている向かい側の景虎と隣で起こっている結城を見比べた。


景虎、やっぱ変なところで男らしいな。でも、この状況俺が結城の隣に座ってていいのか。本当なら二人隣同士になりたいのか。いや、でも早とちりだったら・・。


「信長君やっぱ、顔色悪いですよ。大丈夫ですか」


「そうね。大丈夫?」


 俺はいろいろあってやばい状況なうえに、この二人の関係がそこまで行っていることを考えすぎてグロッキー状態に陥っているようだ。しかし、やはり今はこの二人に気を使っている場合じゃない。俺は俺でやばいのだ。


「ああ、大丈夫だ」


「それで、私は何で呼ばれたのかしら」


「それはですね。信長君から相談を受けまして。しかし、僕にはよくわからないので。女性の結城さんを呼んだんですよ」


 途中、ウエイトレスが来て、結城はドリンクバーを頼んだ。ドリンクを取ってきて、ストローを使ってごくごく飲んでいる。おそらく、走ってきたのだろう。やはり、こいつらはもうそこまで進展している。いやいや、今そんなことを考えている暇はない。


「で、どうしたんですか」


「いや、なんというか。ストーカーされているんだ」


 俺はケータイを結城の前に出した。そこには同じ電話番号で何度も不在着信が入っている。さらにメールもたくさん届いている。同じ差出人の。


「着信拒否すればいいじゃない」


「いや、したんだよ。次は公衆電話からかけてきてるっぽいんだ。メアドも変えてもなんかメール届くし。そして・・」


 俺はメールに添付されていた写真を見せた。


「こいつなんだが。俺はこいつに見覚えがないんだ」


「一目ぼれされたってことですよね。結城さんどうすればいいでしょうか」


「いや、私にそんなこと言われても・・・。あっ、ちょっと飲み物取ってきます」


 結城はすぐに飲み終えたコップを手にドリンクコーナーに行った。


「なぁ、やっぱ返信して直接会ってやめるように言った方がいいよな」


「どうでしょう。なんか今ここで会ってしまったら・・・。信長君信条かもしれないですよ。ヤンデレ的に」


「なっ。会ったら。俺死ぬのか・・・」


 いや、死にたくない。まだやりたいこといっぱいあるぞ。しかし、そんな最悪なことがあるのだろうか。しかし、あの人の迷惑を考えないやり口。景虎の言ってることは案外的を得ていると思う。


「結城さんも思いませんか。今会って断ろうものなら、信長君デッドのバッドエンドルートですよね」


「そうかもね。ここまで盲目な人ですからね。恋はヒトをそこまで凶悪にしますよ」


 こいつはこいつで恋が盲目的なのか。さっきから飲み物を飲んでは、景虎の方を見ているが。やっぱ、そういうことか。


「じゃあ、どうすればいいんだ」


 俺は頭を抱える。まず、この二人に相談するのが間違っていた。普通にクラスの友達に相談すりゃよかった。でも、あいつら親身になって応えてくれるとは思えないよな。少なからずこいつらに言うんじゃなかった。


「それより、信長君。あの人って知合いですか」


 なぜだか、景虎はファミレスの窓の外を指さした。俺はそっちに目線をやった。そこには見知らぬ金髪美少女が立っている。


「いや、知らねぇよ。誰だよ」


「えっ、でもこっちずっと見てますよ。・・・。というより、結城さんを睨んでるような気もしますけど」


 結城をにらんでる。そうか。結城は当たりの強さがあるからな。それでこいつを恨んでるまではいかないが怒ってるやつがいないわけがない。それでもびっくりしたわ。さっきの景虎のバットエンドルートがすぐに来たかと思ったわ。


「結城お前を大変だな」


 俺は結城を憐れむように少し笑った。


「えっ、何がですか」


 何も分かってない。こいつ。お前を睨んでたのに分かんねぇのか。


「いや、だから。お前が恨まれてるんだろ。あいつに」


 結城はきょとんとしている。ん、なんか違和感が・・・。


「私もこの人知りませんけど」


 ・・・・・。なんだと・・。どういうことだ。じゃあ、なんでこいつが睨まれているんだ。さっきの口ぶりから景虎も面識がない人物。というより、ここにいる全員が面識がない。どうしてあいつはこっちを見ているんだ。


「あれ、いつの間にかいなくなってますね。なんか、さらに怒ってるように見えましたけど。気のせいでしょうか」


「だって、ここにいる人全員面識ねぇんだろ。じゃあ、こっち見てたのが気のせいだったんだろ」


「あぁつ、入ってきました」


 また景虎が指差している。俺と結城は振り向いた。そこには、金髪美少女が今まさにファミレスに入ってきていた。そして、店員と話してからずかずかとこちらに向かっている。


 おかしい。なぜこっちに来る。そして、金髪美少女は案の定我らのテーブルの目の前に来てしまった。


「この女はなんなの。久我君」


 ・・・はぁっ。こいつ俺の名前を・・。


「なんだ。久我君の知り合いじゃないですか」


 ・・・。しらねぇ・・・。


俺がこいつの知り合い・・・。そんなわけない。俺は別にあった人の顔を全部覚えてるわけじゃねぇがここまでの美少女なら覚えてないわけない。


「えっと、俺はお前を知らないんだか」


「なっ、久我君。私とあそこまでの関係になりながら私のことを忘れてるの。ひどい」


 金髪美少女が目頭に少し涙を浮かべている。なぜだろ、罪悪感が・・・。昔の俺こいつに何をした。・・・・思い出せねぇ。しかし、わが友、景虎と結城の目が痛すぎる。


 景虎と結城は俺に目線で最低と言っているようだ。


「・・・・。そういえば」


 景虎はテーブルの上に置いているケイタイを勝手にとって、何やらケイタイと目の前にいる金髪美少女を見比べている。


「おい、景虎。俺のケイタイ、勝手に取んなよ」


 こいつ何を見てんだ。


「やっぱり、この人。この写真の人ですよ。口元のほくろの位置一緒ですから」


 そんなわけあるか。ほくろの位置・・・。景虎はこっちに見えるようにケイタイを向ける。確かに口元にほくろがある。俺も結城も写真と金髪美少女を見比べる。でも、そんなわけない。このぽっちゃり・・。いや、口は悪いがもはやデブと言っても過言ではない。しかし、どう考えてもおかしいだろ。


「それで、本当に忘れたの。私のこと・・・」


「いや、ちょっと待て。俺らは初めて会ったのはいつなんだ」


「中学校の体育祭だよ」


 ・・・・。体育祭・・・。中学・・・。俺は写真をじっと見る。


「最低ね。久我君」


「とりあえず、座りませんか。


 景虎はずっと立ちっぱだった金髪美少女を座るように勧めた。男として負けたような気がする。でも、俺にはそんな気遣いをしている暇などない。俺はこいつを思い出さなければ・・・。


 いや、待てよ。この顔・・・。


 俺は罵倒する結城をしり目に少しずつ断片的に思い出すてきた。


「お前、あの時の・・・」


「思い出したの。久我君」


 金髪美少女は喜んでいるのか笑顔だった。しかし、俺は複雑な気持ちだった。なぜなら彼女は・・。


「でも、お前は。体育祭で倒れて、体育祭の保健委員だった俺がたまたまお前を看病する羽目になっただけだろ。別に俺もすぐ自分の競技があったから離れたし」


「そ、あなたは。私を看病してくれた。まるで王子様だったわ。そして、私は告白して振られた」


「そうだな。俺は確かに振った。別に興味なかったからな。誰かと付き合うとか」


「そういえば、振った時の言葉覚えてる?」


 金髪美少女に言った言葉なんだっただろう。てか、そもそもこいつの名前すら知らないような気がする。まぁ、正直に言うか。


「いや、覚えてない」


「最低ね」


 何故だろ俺の好感度が著しく低下している気がする。ずっと、俺をジト目で見ている結城。なぜこいつは怒っているんだ。


「結城は俺が嫌いなのか」


「興味もないわ」


 まさかの返し。こいつどんだけ塩対応なんだよ。こいつもこいつで最低じゃねぇか。友人に言う言葉じゃねぇ。


「お前も大概だぞ」


「あら、失礼」


「ずいぶんと仲がいいのね。興味なかったんじゃないの。誰かと付き合うの」


 こいつもはや恐怖すら感じるよ。なんだこの状況。だが、以外な人物が助け船を出してくれた。


「あの、結城さんと信長君はただの友達ですよ。安心して下さい。僕が保証しますよ」


「その通りよ。ただの友達」


 難か、それはそれで悲しく感じてしまう。しかし、それで納得してくれてる金髪美少女を見て俺は安堵している。


「それならいいわ」


「では、僕からも質問が」


「何」


「まだ、名前を聞いてないと思いまして、僕は臼井景虎で、その女性が結城千代さんです」


「あっ、私は立花楓よ。楓でいいわよ。ちなみに、久我君の一個上だから」


「なぁ、お前先輩だったのか」


「そんなことも知らなかったの、久我君。ひどいわ」


 こいつが先輩だったとは思わなかった、確かに同じ学年じゃなかった気がするけど。それにしても当時の俺はこいつの名前すら知らなかったようだ。


「その通りですね。楓先輩、そもそもこの人を好きになる方がおかしいですよ」


 なんだ、それ。俺の評価低すぎねぇか。こいつ、俺のこと嫌いだろ。なんかしたかな。


俺は、自分が結城に何かしたかを考えた。


そうだ、分かった。俺を彼氏呼ばわりされたからか。目の前に彼氏がいるのに。そういうことか。なんか、かわいいところあるじゃねぇか。


「立花先輩は信長君のことをまだ好きなのでしょうか」


「当たり前だよ。私はあなたに外見がタイプじゃないって振られてから。努力したんだから」


「理由も最低ね」


「僕も少し思っちゃいました」


 とうとう景虎からの評価も滝のごとく落ちて行ってしまう。どうしたものやら。


「で、立花先輩は、俺に告白するのが目的なのか」


「ええ。そうよ。あの時のリベンジマッチだから」


「まぁ、でも。それは無理だ。俺は付き合えなぇ」


「どうしてなの。こんなに外見も変わったのに」


「悪いな。俺は確かにお前の外見を否定した。でも、お前も昔の自分を否定してるから。そこまで変わった。ありのままのお前を好きになるやつを探せ。自分を否定する奴は好きじゃねぇんだ。さぁ、もう話はいいか。景虎帰るぞ」


 俺はきっぱり断って、立ち上がると景虎を引っ張って行く。


「・・・・」


 立花先輩は無言のままうつむいていた。


「ああ、それと。もうメールとか迷惑だからな」


 俺はそのままファミレスを出た。そして、駅まで歩いている。


「信長君、よかったんでしょうか」


「ああいうのはきっぱり言うのがいいんだよ」


「じゃなくて、結城さん置いて帰ってますけど」


 ・・・・。俺は死んだかもしれない。違うバットエンドに向かっているのかもしれない。


俺は冷や汗を書いている。


「まぁ、いいんじゃなねぇか」


「そうですか。でも、好きってどういうことなんでしょう。ああやって、自分を無理に変えてまで好きになってもらいたいんでしょうか」


「はっ、お前何言ってんだよ。お前、結城と付き合ってんじゃねぇのか」


「信長君何言ってるんですか。僕らは付き合ってないですよ。そもそも、公園のごみクズみたいな僕があんなかわいい結城さんと付き合えるわけないじゃないですか」


 こいつの自己評価も大概だな。下に見すぎている。こいつもこいつで笑顔で言っている。そんなことないぞと言うのはこいつにとってはめんどくさい方向に行ってしまう。ここは無難に・・・。


「そうなのか。結城の反応的に付き合ってるかと思ったぞ」


「気のせいですよ」


 そうだな。こいつら会って間もないもんな。結城が一目ぼれなんてなさそうだしな。てか、こいつと一緒で好きって何なのか分かってないような気がする。こいつと一緒でボッチだし。


 頭の隅にあった気になることが解消されてよかった。


すぐにバスも来て、俺は途中で降りて家に着いた。


「はぁ、疲れた」


 俺は、帰ってすぐに寝る準備をし、すぐに寝た。


 そして、時間は進み月曜日になった。俺はいつものように登校していると前に一つ結びの見知ったやつがいた。俺は後ろからソロっと近づき肩を組んだ。


「よっ、景虎」


「うわ。びっくりした。後ろからラリアットされたかと思いましたよ」


 ラリアット・・。こいつ何言ってるんだ。でも、驚いている。作戦は成功のようだ。


俺はすぐに肩を組むのをやめ、景虎の隣を歩く。


「で、お前はいきなりラリアットされることでもしたのか」


「ないですよ。だから、びっくりしたんじゃないですか」


 そんなバカ話をしてたらいつの間にか校門までついていた。


「久我君!!!」


 校門に着いた俺らは見たことのある顔に驚愕した。


なんで、こいつがいるんだ。同じ学校に。


「何で」


「言ってなかったっけ。私ここの二年生なんだよ」


「景虎、逃げるぞ」


「えっ、何でですか」


「いいから」


 俺らは立花先輩を避けるように全速力で校舎に走っていったのであった。

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