第4話. 景虎、怒られる

「・・・・・・・」


 彼女の言葉に少し困惑した。


「えっ、なんで、無言なの。お前、ボッチから普通の人にジョブチェンジじゃねぇか」


「なんですか。そのショボいジョブチェンジは」


「あの・・・。臼井君。それで友達の件なんだけど」


「ああ、すみません。うれしくてつい。不束者ですが、よろしくお願いします」


「ああーー、もうツッコむのも疲れた」


「それで、臼井君は、どうして私と友達になりたかったの」


「ああ、それは俺から説明する。お前が一人ぼっちで読書に勤しんでいるというのを耳にしてな。で、景虎は、ラノベ作家を目指しているんだ。やっぱ、女友達っていた方がいいと思ってな。こいつボッチだったから」


「ラノベ作家ね。私がラノベばっか読んでるのを知っていたの」


「いや、それは今知ったところだ」


 今でも驚いている。まさか、この読書ボッチ女がまさかのラノベばっか飛んでるとは、誰も思ってはいないだろう。現にまだ僕と、おそらく平静を装ってる信長君も驚いている。


「そうなのね。でも、臼井君は、ラノベってどんなジャンルを書こうとしてるの」


「学園系ラノベですかね」


「その心は」


 なぜだか、ドリンクをストローで優雅に飲んでいる彼女は僕になぞかけのような問答を要求している。僕は、それに素直に思ったことを伝えた。


「異世界ものとかだと、建物とか町の風景とかの描写って見たことがないから書きづらいかなっと思いまして」


「それで、学園系ラブコメね。まぁ、いいと思うよ」


「本当ですか。良かったです」


「それで、どのくらいラノベは読んでるの」


「十二ページです」


 彼女は目を真ん丸にしている。なぜなのか僕には知る由もないことである。


「・・・・・はい?」


「だから、十二ページです」


「十二シリーズじゃなくて」


 次は少し怒ってるように思える。なぜだろう、表情の忙しい人だな。しかし、大人である僕はそういうことを言うことはせず、彼女の聞き間違いを訂正してもみる。


「はい、十二ページです」


「ねぇ、久我君。友達なんでしょ。なんで、ラノベ作家になる人がラノベをほとんど読んでないわけ」


 なぜだか、その怒りが信長君に及んでいる。怒らないと死んでしまう病気なんだろうか。とても不思議な人だ。


「いや、俺も昨日話し始めたからな」


 信長君が千代に言われたことに無茶いうなと言わんばかりに汗が噴き出ている。


「ねぇ、それで書けると思ってるの」


「何とかなりますよ。こう見えても文章を書くのは得意なんですから。それにいくつかギャルゲーをクリアしてますからね」


「ギャルゲーって・・・。全く違うでしょ」


 千代は恐ろしく呆れている。頭に手を近づけていた。調子でも悪いのだろうか。少し、心配してもみた。


「似て非なる物だな」


 信長君もなぜだか憐れむような目を隣に座っている僕に向けている。


なぜだろう、僕変なことを言っただろうか。ギャルゲーは、ノベルゲームとほぼ同じ意味である。まぁ、少しラノベとは違う気がするが、ほぼ一緒ではないか。


「同じですよ」


 いろいろ考えてみたもののやはり同じであるのは明らかであることに変わりはない。何故だか、ラノベ読書ボッチの彼女も怒りを通り越して、憐れみで見ていることは気になるところである。


「臼井君、まずラノベをたくさん読みなさい。分かった」


「はぁ、でも僕には、何を呼んでいいのかさっぱりです」


「分かったわ。次の土曜日、暇?」


「特に用事は、ありませんけど」


「じゃあ、土曜日。駅前に十時に集合ね。これ、私のメアド。私はもう帰る」


「えっ、はい」


 なんか、いろいろと勝手に決められて同意してしまった。当の結城さんは、すたすたとすでに帰ってしまった。そんなファミレスに残された男二人。


「信長君、何で結城さんは怒っているのでしょう」


「いや、それはな・・・。例えば、ゲームまだ一時間ぐらいしかしてないやつに、俺ゲーム作るわって言われたらどう思う」


 ゲームほぼしてないのにゲームを作ろうとするのは、もやは天才じゃないだろうか。いや、信長君がそういうことを言っているはずではない。


「頑張ってくださいですかね」


「違うだろ。普通、できるわけないって思うだろ」


「それもそうですね。でも、ものすごく天才だったら。あるいは」


「ねぇよ。じゃあ、お前は自分が書き手の天才とでも言うのか。違うだろ」


 なぜだか、言動に熱を帯びている。怒っているのだろうか。まぁ、言っていることは、ものすごくわかってしまう。


「そうですね」


「だから、あいつも怒ったんだろ」


「そういうことだったんですね」


「それよりも、お前よかったね」


「何がですか。僕は、人に怒られて喜ぶ趣味なんてないですよ。信長君はそいうい系なんですか」


「なわけあるか。デートだろ。デート」


「でーと?誰がですか」


 僕は言葉の意味が分からず、ただただジュースをちょこちょこと飲む。


「お前と結城がだよ」


「僕と結城さんがですか。そんなことあるわけないですよ」


「今、お前誘われただろ」


「信長君、デートの定義とは何なんでしょう」


 僕はデートという言葉は、ギャルゲーのおかげで聞きなれている。でも、ただラノベを買いに行くことが、デートと言えるのだろうか。最もその定義に不可欠なのは好意があることだと思う。しかし、僕はあったばかりのあの子に好感はあれど、好意と呼べるものはない。彼女も怒っている様子だったので好意があるとは思えない。


「知るか。俺は女友達はいても、男女数人で遊んでるからな」


 僕は、ジト目で信長君を見る。このチャラ男がそんなわけはない。いや、遊び人だからこそなのか。


「さすがチャラ男ですね」


「なんか言ったか」


 冷静な怒りを感じるのは、気のせいだろうか。まあ、信長君のは、さておき僕はどうすればいいのだろう。


「デートですか・・」


 声に出していってみた。再確認してみる。


「そうだ。うまくいけば、付き合えるかもしれないだろ」


「いや、僕みたいな人に彼女なんて。ましてや結城さんなんて高嶺の花みたいなものですし」


「そりゃそうだよな。結構人気っぽいし」


 そうだよね。なかなかの美人である結城さん。そんな子とデートなんてなんかわくわくする自分がいるのが何故だか不思議な気持ちだ。


 結局そんなことを協議していても無意味だと言われひとまず信長君と別れることになった。

僕は、家に帰って考えてみた。デートとは、何か。まぁ、土曜日になったら分かるだろう。僕はひとまず考えないようにして、ゲームに勤しむことにした。

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