第2話信長、友人になる

高校始まったら始まったでだるいな。


しかし、昨日のあいつホントきもかったな。前髪長すぎて、口元しか見えなかったし・・。どこの引きこもりの代表だってんだ。


そんな俺、久我信長は少しいらだっていた。昨日、たまたま本屋に寄ったら気持ち悪い生物にぶつかってしまったからだ。そんな俺は、頬をつきながら廊下側から二番目の一番後ろの席に座っていた。


 恒例の自己紹介ってなんともめんどくさいよな。昨日も思ったが俺の隣の奴はなぜまだ来ていないのだろうか。そうこうするうちに隣の席のやつに回ってしまった。それと同時に前のドアがばたんと開いた。そこには、見覚えのある風貌の奴が立っていた。


おいおい、なんかの冗談だろ。なんで、あいつがいるんだよ。


「はぁはぁ・・・。申し訳ないです、先生」


 寝坊して急いでいたのかフルマラソンを走ってきたのかと思えるぐらい息を切らしていた。


「ちょうどあなたの番です。自己紹介をしてください」


「えっと、臼井景虎です。東邦南中学校出身です。好きなものはゲームです。よろしくお願いします」


 深々と頭を下げた、キモオタ野郎は、せっせと先生の指示のもと案の定俺の隣に座ったのである。それから、午前までだった学校は軽く流す程度で終わった。


 まぁ、なかなか友達は、できたな。


「あの・・・・。すみません」


 俺が帰ろうと、バックを手に取ろうとした時、隣で本を読んでいた、キモオタがこっちに話しかけてきた。


 はぁ、死にたい。


「なんだ、俺になんか用か」


「はい。ぼくは、あなたに言いたいことがあるので、一緒に帰りませんか」


 こいつは、何を言ってるんだ。急にどうしたんだ。いきなり俺を帰りに誘って何するつもりだ。まさか、こいつ昨日のことにキレてるのか。オタクほどキレると殺したりするとか都市伝説じゃないのか。いや、だがしかしここで断って変に粘着されても困る。仕方ないか・・・。


「ああ、いいぜ。望むところだ」


 そうして俺は、覚悟を決めてこのキモオタもとい臼井景虎と歩いているわけである。俺らの間には少し気まずい雰囲気が漂っていた。


「おい、言いたいことあるんだろ。立ち話もあれだから、ファミレスにでも行くか」


 俺は、どうにかこんな気まずいことから逃げ出すために話しやすい環境を作ろうとした。


 だが、このキモオタは、首を縦に振っているだけだった。


 そんなこんなで、俺らは、昼間を少し過ぎたファミレスの端の席にいるんだが。


「えっと・・。久我君・・・・」


 臼井景虎は、その重い口を開いた。


とうとうこの時が来たか。覚悟を決めないとな。


俺は、神妙な面持ちで臼井景虎を見た。


「なんだ」


 俺は、久々に生唾を飲んだ気がする。それぐらいここには緊張が走っていた。


「僕と、友達からでいいので、付き合ってください」


「はぁっ・・・。お前何言ってんだ。お前そっち系か」


「・・・・そっちとはどういうことでしょう」


 臼井景虎は、首を横に傾け分からない様子であった。


「いや、だから男が好きなのか。それなら、俺はそっち方面じゃねぇからお断りだ」


「久我君。僕は、ちゃんと女の子を好きになりますよ。何言ってるんですか」


「はぁっ。そうか。それならひとまず安心した」


 おい、じゃあその言葉どういうことだ。


 自分の中で、ツッコんだが、口にすることはなかった。なぜか、出来上がっていたツッコミとボケ(天然)の構図から脱したかったからだ。


「なぜ、そんな勘違いを起こしたのでしょう。この本通りに友達申請をしたのですが・・・」


 臼井景虎は、また不思議そうにしながら、おもむろにカバンから本を取り出してパラパラとページをめくっていた。


 おい、それってラノベか。こいつまさかそれ参考にしてんのか。


「おいっ、お前それ貸せ」


「えっ、ああいいですけど」


 俺は、ペラペラとめくると、今さっき聞いたことと同じようなことが書かれている文章を見つけた。


「おい、お前これを見て言ったのか」


「ええ、そうですけど。何か間違ってるでしょうか」


「大間違いだよ。甲子園でサヨナラホームランかと思ってみんな大喜びしてたら、センターフライぐらいの大間違いだぞ」


「そんなですか。えっ、でもそれのどこが間違ってるのでしょうか」


「いや、これは主人公がたまたま告白現場を見たシーンだろ。しかも、異性でやってんじゃねぇか」


「ああ、告白シーンですか。友達になってくださいって書いてるので、勘違いしてしまいました」


「はぁ、そうかよ」


 俺は、こいつに何を言っても駄目だと思い、頬杖を突きながら窓の外を眺めた。


「久我君。どうやったら君と友達になれるのでしょうか」


「そんな言われてもな・・・。友達ってそんなゲームみたいに申請してできるもんじゃねぇんだよ」


「じゃあ、どうすれば・・・・・」


「いや、だからさ。しゃべったりして、気が合うやつは勝手になるもんだろ」


「なんですか。それ。じゃあ、僕と久我君もこうして話しているのですから、友達に・・・。」


「しょうがなぇな」


「ありがとうございます。チャラ男君」


「前言撤回。なんだその呼び方、悪意しかねえ」


「えっ、だってあだ名で呼ぶのが友達じゃないんですか。これもそうなってますし」


「おい、それバイブルみたいにするな。そこに書いてるのは、あくまで二次元の話だ。一切現実とは違う」


「いや、でもこのラノベ以外にも・・。ゲームで主人公とその親友は、こんな感じのあだ名で呼びあってるじゃないですか」


「いや、距離の詰め方がおかしすぎるだろ。それは、長年の信頼関係あってのことだ。お前と俺は、今日知り合ったばっかだろ」


「そんな、昨日会ったじゃないですか。その時キモオタというなんとも心外な言葉を言われましたが・・・」


「覚えてたのか。あんときは悪かった」


「ええ、全くです。僕のどこがオタクなんでしょう」


「いや、普通そう思うだろ。閉店間際の本屋でラノベの本棚からこそこそ出てくるなんて大体そうだろ。それにゲームが好きって言ってただろ」


「あの時は、まぁ確かにこそこそしてましたけど。迷ってただけですから。それに僕は、ゲームが好きなだけで、ゲームオタクじゃないですから」


「それをオタクっていうんじゃないか」


「僕は、断じて違いますよ」


「まぁ、いいや。脱線したが、普通に信長でいいから」


「信長君ですか。どっかの武将みたいな名前ですね。信長君は、家臣に裏切られて、某寺で自害する予定があるのですか」


「お前に言われたかねぇよ。それにそんな予定ねぇよ」


「あっそれもそうですね。じゃあ、信長君で」


「ああ、それでいい。それより何で俺と友達になろうとしたんだ」


「えっと、ですね。僕は、ラノベを書こうと思ってるんです」


「はぁっ」


「いえ、だからラノベを書こうと思ってるんです」


「いや、分かってるよ。それと俺と友達になることに何の関係があるんだよ」


「ラブコメを書こうと思ってるのですが、僕には友達がいないのでそういう描写がどうもわからなくてですね。そんな時、信長君みたいなチャラ男が友達ならいろいろと僕のためになるじゃないですか」


「ボッチがラブコメを書けるのか」


「僕は、ボッチじゃないですよ。ただ友達がいないだけです」


「それを一般的にボッチって言うんだよ」


「さっきから、そんなツッコんで・・。信長君疲れないんですか」


 景虎は、なんか冷めた目でこちらを見ているが、こいつにはいろいろとウザさを覚えている自分がいる。


「誰のせいだ」


「えっと・・・。何で怒ってるんでしょうか」


「もういい・・。で、お前ラノベなんて書けるのか」


「いえ、まだ一度も書いたことないですが」


「マジかよ。じゃあ何で書こうと思ってんだ」


「ものすごく切実ですが・・。お金がほしいです」


「ああ、そういうことね・・・。って、何言ってんだお前」


「いやはや、僕は金欠ですから。新人賞の賞金とか印税とかものすごく魅力的じゃないですか」


「いや、お前な・・・・。俺もよく知らんけど、そういうのって・・。才能ないと出来ないもんだと思うぞ。お前みたいな初めて書いたものがすぐ取れるもんじゃねぇだろ」


「そういうもんでしょうか。じゃあ、やってみないと分からないですね」


「いや、まぁそうだけどよ・・・」


「でも、もう一つ問題点があるんですよ」


「(なんだ、俺には一つどころかたくさんあると思うが)」


「えっ、なんか言いました」


「いや、続けてくれ」


「問題点は、僕は、信長君が言う通りボッチらしいのですが、女性の気持ちが分からないです」


「・・・。それもそうだな。そりゃ問題点だ」


「信長君は、分かりますか。そういうの」


「いや・・・。俺もわかんねぇよ」


「ええーーー。チャラ男なのに」


 景虎は、俺をまた馬鹿にしたような目で見てきた。


おい、こいつふざやけがって。しょうがないだろ。俺も付き合うとかなかったからな。それにしても、このキモオタめ。


「まぁ、いい。女友達とか作ればいいじゃねぇのか」


「女友達ですか。でも、僕には、信長君以外顔見知りの人がいないので、いきなりは難しいんじゃないんですか」


「俺も顔見知りじゃなかっただろ」


「だから、本屋で会ったじゃないですか」


「いや、顔見えねぇよ」


「ああ、そういうことですか」


 景虎は、おもむろに髪をかき上げた。


 俺は、それを見た瞬間、想像とは違う顔に黙ってしまった。


「・・・・」


「えっと、どうしたんですか。ゲームやりすぎたせいで、フリーズしたみたいになって」


 景虎は、すぐ髪をもとのように鼻先まで見えないようにした。


「いやいやいやいや。なんだそれ」


「ごめんなさい。不細工で・・・・」


「ちょっと待て。俺に妙案ができた。ちょっと、ここ出るぞ」


 俺は、たぶん不敵な笑みを浮かべていたのだろう。景虎は、俺を見て少し不信感を募らせる表情をしていた。


「えっ、はい」


 景虎と俺はファミレスから出ると、駅まで行った。


 俺は、少し時計を気にした。


よし、今なら大丈夫か


「えっと・・・・。どこに向かっているのでしょう」


「まぁ、いいから。もうすぐ着く」


 そうして、着いたのは綺麗目な外装の理髪店であった。


「ここですか。髪切るところでしょうか」


「ここは、俺の家だ」


「信長君の家って理髪店だったんですか・・・。って、僕の髪切るつもりですか」


「ああ、その通りだ。まぁ、入れ」


 俺は、信長を連れて、我が実家である理髪店の戸を開いた。俺は、景虎を座らせるとカットクロスを付けた。


 こいつ、もっと抵抗すると思ったが、別に気にしてないのか。


「信長君が切るんですか」


「ああ、まぁ、前髪だけだからな」


「大丈夫なんですか・・・」


 景虎が心配そうにこちらを見上げている。


 俺は、それに応えてあげるかの如く笑顔を作った。


「任せろ」


 景虎は、髪が目に入るのを恐れて、ずっと目をつぶっていた。ほんの数分で無事終わった。


「景虎、終わったぞ」


「えっ、早いですね」


 景虎は、静かに目を開けた。すると、なぜだか少し顔を赤らめていた。


「いい感じだろ。まぁ、文句は言わせないがな。まぁ、あとは・・・」


 そういって、俺は、景虎の後ろ髪の中間ぐらいから一つ結びにした。


これで完璧。これならいいか。


 景虎は、いつもは隠れている顔を鏡ごしにじっと見ていた。


「えっと、似合ってるんでしょうか・・・」


「お前さっき見た時から思ったんだけど顔結構いいからな」


「僕がですか」


「ああ。バンドマンみたいでいい感じだぞ」


「じゃあ、いいです。友達にそこまで言われたら・・・」


 景虎は、なぜだか恥ずかしそうに下をうつむいてる。


てか、こいつこんなことで喜んでるとか・・・。マジ、どんな人生送ってきてんだろ。


「まぁ、これで明日女友達をゲットしに行くか。ちょうど、お前と会いそうなやついたからな」


「えっ、やっぱ・・・。チャラ男ですね」


「次それいったらボコるからな」


「すみません」


「じゃあ、もう今日は解散だ」


「はい。では、これで」


「じゃあな」


「はい。さようなら」


 景虎は、すたすたとでもその背は、充実感を持ってるような背中をしていた。


 あいつ結構面白いやつだな。こういうのもいいもんか。


 俺は、そういって、自分の部屋に上がっていった。

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