第60話 神の涙


「あるはずがない、そんなこと、そんなことがあるはずがない・・・」

否定しながら、海は朝鷹の方から目をそらし、この大地をもう一度見た。変化というものが皆無の土地は、ここにいる改めることを知らぬ人間と同じように思えた。


「この全く何も生まないような所が、あの人間達の心そのものなのか」


それを本人達に見せるためにこの地獄は存在し、それに気が付かなければ、ここから出ることは出来ないのだろうと海は気が付いた。


「ゾクッ」っと体が寒さを感じた。この地獄の恐ろしさを、頑ななまでの人の愚かさを、そしてそれが神を鬼を作るならば、自分たちの存在とは、一体何の意味があるのだろうか。


「グス・・・」


小さな音が聞こえた。


「朝鷹・・・」

「ウウウ・・・ウウ・・・」


朝鷹は泣いていた。


それは人のように、子供のように、はばかることなく、涙を流した。むしろそれは「ここだから」出来たことだった。天界でも人間界でも、もしかしたら出来なかったのかもしれなかった。


「朝鷹」


海は優しくこの言葉だけを繰り返した。その言葉を聞きながら、

若き神は、ここで一生分の涙を流した。

そしてその後、明るく海に言った。


「海、私達もこの土地で何か見つけよう、楽しみとなる何かを」


「それは良い考えだ、朝鷹! 実はやってみたいことがあってな」


「何だ? 」


「大工がやってみたいと思っていたんだ。ここには木が無いが、土ならある。それで何か建物を造ってみたいんだ」


「そうか、それは面白そうだ」



その後二人は人から遠く離れたところで、赤い閻魔宮の門を作った。道具なども勿論ない。湿った土を手でこね、レンガを作り、それを積み上げた。


「子供が喜びそうだ」

「ハハハ、そうだな」


この最下層の地獄で、二人は楽しく過ごした。






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