第58話 与えられた物

 

 朝鷹と海は、それからも地獄の旅を続けた。どこも同じような集団、孤立が見られ、代わり映えのしない毎日だった。だが二人はあることに気が付いた。ここには地獄の責め苦も何もないが、無限に「時」が用意されている事を。

この限られた所で、何かの楽しみを見つけている人間に、二人は敬意を払うようになった。


 だが、それは数で見れば、ほんの、ほんの少ない人間であり、あの絵を描いていた男を邪魔しに来た人間は、この平らな土地で、山のようにいた。

 いけないとは思っていたが、海はこの様子に慣れてしまい、ため息交じりにそれを見るのが日課になってしまっていた。そうなると、何故か海は自分の力が日に日に抜けていくように感じた。人間でいる時間が長くなっているせいではと、誰にも会わず、一日鬼のままでいた日もあったのだが、最初の朝鷹ほどではないにせよ、新米の時以上に、すべてに疲れ切ってしまった。


「彼らは、神も鬼も信じない」

ある日ぽつりと朝鷹が言った。


「え? どういうことだ? 俺が鬼になったのを見ているじゃないか? 」


「鬼がいようが、神がいようが、ここの生活は変わらないと思っている人間と言うことだ。ここが地獄であることさえ、彼らにはどうでも良いことなのかもしれない」


「じゃあ、天に昇った人間は? ここを出たあの女は? 」


「この中で、自分で光を見つけた人間と言うことだ」


「他の奴らはじゃあ何で生きているんだ? 」


その言葉を聞いて、しばらく朝鷹は沈黙した。海はそれが何か重要な事を言うためだと待っていると



「彼らは、俺たちのために生きている」


「え? どういうことだ? 」

海には信じられないような言葉だった。



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