第57話 面白くない旅
「はあ・・・」
と海はため息をつきながら歩いていた。
「おまえがそんな顔をするのは初めて見たよ」
「一番見たくない地獄だ、これこそ本当の地獄のような気がする。普通の地獄の方がまだましだ。だが朝鷹、お前体調はどうなんだ? 普通のフリなんてしていないよな」
「ああ、もう大丈夫だ。慣れた、というかな」
「良いことか悪いことかわからないが」
ちょっと軽めの会話が出来るようになっただけ、二人には良いことだった。
「俺は王だ! お前とは違うんだ! 」
と言いながら、確かにすり切れた衣服はそのように見える男もいた。また人が持っている物を奪い合っているのは日常茶飯事で、「どうしてこんな物を」と思うような何かわからない物体だった。
女の歌った「小さな花」という歌詞は、かなり美しく誇張された表現だと、海が朝鷹に言うと
「それが彼女の願いか、ここで生み出した美しい物なのだろう」
と答えた。
息も詰まりそうなこの地獄で、確かに彼女は歌で花を咲かせた、悲しげな花を、悲しげな運命を。
「なあ、海。俺たちも人も、生まれた運命からは逃れられない。
一人一人背負っている物が違う。だが、どうしてこの世に力を持った神や鬼が存在すると思う?
何故俺はこんなことが出来る?
努力をしたから出来たわけでもない。ずるい力だ。歴代の神が少しずつ力と知恵を蓄えたにしても、度が過ぎると思わないか? 」
「神が、自分の力を「度が過ぎる」とは面白い、朝鷹」
海は笑った。朝鷹にはこういう所があった。朝と呼んでいた頃からずっと、自分の力を素直に喜んでいるようなところが無かった。しかしそれはかなり奥深い、神としての「悩み」なのかもと思っていた。
「海、お前は真面目だよ。自分の地獄に帰ったときの事を考えているんだろう? 」
「それはそうだ、俺たちは地獄で人間達を悔い改めさせて、見事天へ昇らせることが出来たなら、昇格、だ」
「昇格したいのか? 」
「休みが増えるから」
「ハハハ」
楽しげに笑った朝鷹を、海はほっとした気持ちで見つめた。実は内心はそうではない。さすがに大神の友であるのだから、「ある程度の位の鬼」にならなければいけないと言う気持ちが、実は強く芽生えていた。
「なあ、海。人は地獄の責め苦で、本当に改心できるんだろうか」
「え? 」
海にとっては厳しい質問だった。
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