第56話 迷路を通って
だが、遠ざかっていく一団は、離れれば離れるほど何故か大声で
「また来るからな! 」と偉そうに言い、それを海も朝鷹も力なく聞き、見つめていた。すると絵を描いていた男が、自分で描いた絵をなるべく消さないよう、迷路のような複雑で細かな隙間を、こちらに向かって歩いてきた。そして
「あの・・・本当にありがとうございます。いつもあいつらに絵を消されて、悔しいばかりでした。遠くに行ってもああいう奴らが必ずいて・・・」
海はその言葉に腹の立つ気がした。ここは地獄のはずだ、そんなことを、悪いことなど、して良いはずもない。すると朝鷹が
「あなたは、画家だったのですか? 」と彼に話しかけた。
「いえ・・・絵を描く喜びを覚えたのはここで、です。今まで自分がこんなに絵を描くのが好きとは思いませんでした。生きている間は・・・何かをする気持ちというのがなくて・・・」
と言った途端だった。
その男の体が、白く輝き、土まみれになっていたはずの手も足も、光に包まれた。
「天に・・・」
海のつぶやきとともに、男は何故か急に涙を流し始め、今度はゆっくりと目を閉じた。白鷺の様なそのふんわりとした白い光は、ゆっくりと、静かに小さくなり、やがて消えていった。
「ここから・・・直接天に昇れるのか、
そうか・・・繰り返される悪行に耐える、それも地獄か。逃げても追ってくる地獄に耐え、助けてくれた者に心から感謝を捧げた。
だからなのか・・・」
海の声に朝鷹が言った。
「私と大神の力の違いだ、この力は、今の私にはない」
朝鷹は、ほんの少し微笑んだ。
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