第54話 着地


「もう少し下におろした方がいいか、海? 」


「ちょっと力が余っているから、これくらいの高さでいい、朝鷹」


自身の身長の数倍ある高さから、朝鷹は海の角を離すと、海は慣れた様子で、足を少し曲げ着地した。


「はあ・・・正直助かったよ、朝鷹。逃げ出したいくらいだった」


「鬼が逃げ出すか、ちょっと見てみたいが」


「勘弁してくれ、だが・・・ここは何だ? 」


「どう思う? 海」


「地獄の服を着ていた者、あいつは釜茹で地獄だったんだろうな、腕に湯の高さの線がある。だが他の者は衣服ですら普通のもので、鬼にも会ったことがない。ということは一度も地獄で罪を償ったことも無いことになる。お前はどう思う? 朝鷹」


「そうだな、意味のある地獄かな・・・」


「意味がある? どう意味があるんだ! あの人間たちは鬼も恐れないようなヤツらだぞ。地獄でも改心しなかったから、ここに・・・・・だがここの方が楽じゃないか! じゃあ何でここに? 」


「その意味を私に見つけてこいと言われているんだろう、大神は」


「ここで? 」


 海は、朝鷹に自分が見たことをつぶさに話した。釜ゆでにされた男の表情、女達の喧嘩、物のように、花のように自分を扱おうとする人間達。朝鷹がいつから空にいたのかわからないが、とにかく思ったこと、感じたことを話したのだが、急に疲れが出たように感じた。


「今日は眠ろうか、海。多分時間的に夜だ」

「え? 夜が無いのか? 」

「そのようだ・・・お休み」


 朝鷹の方が疲れていたのかもしれない。土の上で横になり、眠り始めた。海もそうしたが、何せ、かなり明るい。気温も全く変化が無く、暑からず寒からずだが、心地よさを感じない。

だが、やはり歩き疲れていたのか、体の方が「眠りなさい」と言っているように感じ、海はそれに従うように目を閉じた。

なるべくさっき会った人間の事を考えない様にしながら。

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