第50話 朝鷹の体調


「おまえが大きな事をしないから、大神では無いと思ったんだよ。医の神になるんだろうと思った。だから体の調子をほんのちょっと変えたんだろうって」


「まあ、良かっただろう、あれはあれで。きょとんとした感じで二人は一緒になったが、本人達も息子娘も地獄には来ず、だ」


「ああ、これで鬼の世話になったら俺もお前も大王様級の大目玉ってとこだ」


「ああ」




 朝鷹は軽く答えたが、海は少し心配事があった。それは神といえど、あまりに人の暮らしに踏み込んではいけないと言うのが暗黙の了解で、少なくとも自分が外界に出たときに、朝鷹はこういう人助けを「やらないこと」の方が少なかった。


「 朝鷹は良いことをやっているのだが、嫌な予感が」


その不安は的中してしまった。


二人はもうすぐ外に出ることが分かっていた。

洞窟の先から光が入り、海は松明の火を吹き消し、走るように外に出た。



「なんだここは・・・」


 とてつもなく広いところに出た。自分たちの今まで通ってきた洞窟は完全に消え失せてしまい、海にとっては、船で遠くまで出た時のように、視界すべてに地平線がくっきりと見えた。

だが、ここは海にとっては不思議な感じがした。真っ青な空の日の凪の海のようだったが、何かが違う。地面があるからというわけではない。曇り空の昼のような明るさだが、空がその灰色の雲一色、完全なる一色なのだ。地面も赤い土が壁のように固められた感じで、裸足の自分にとっては、閻魔大王の御前の石畳のよう平らかさを感じているが、その石の切れ目すらもなかった。異物がなく歩きやすいは歩きやすいが、どう見ても植物が育つような土ではなかった。

風も全く吹かず、寒くもないが、ただ淀んだ空気だけがある空間だった。


「最下層の地獄、過酷な環境があるわけではないのか」


 全体的にそうであるとも限らない。確かに普通の地獄にも荒野のようなところは存在している。しかし、そこにも雲があり、風も吹く。

眼前の風景ばかりに捕らわれていた海は、やっと朝鷹のほうを見ると、そちらのほうにもっと驚いてしまった。


「朝! どうしたんだ!! 顔が真っ青だぞ! 」


「朝と呼ばれるのは久しぶりだ・・・海」


ふらふらとしながら、朝鷹は地面に座り込み、頭を完全にうなだれてしまっていた。


「閻魔様の・・・おっしゃっていた通りになってしまった」

海は心の中で思い出していた。



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