第49話 喧噪


「ほう・・・」「きれいね」「あれがお姉ちゃん? 」


 輿入れする当日、彼女は家の周りに集まった人々にその姿を見せた。若い花嫁の憂いが残るその顔は、普段を知る人々には高貴なほどに美しく見えた。中には涙を流す人もいて、彼女はその人にお礼のように微笑みをたたえ、家を後にした。

そう遠くない屋敷まで馬に乗り、周りを子供や見物人がぞろぞろとついて行った。


 海と男は川辺にいた。

「間の抜けた見張りだな、こちらから丸見えだ・・・」

海は男に言ったが

「仕方ない、頭の回る者は警護に就いている様だ、昨日の夜、大勢の者が屋敷に呼ばれていた・・・あの数では、確かに俺はすぐに殺されていただろう。彼女の目の前で・・・」


 二人はその後黙ってしまった。朝鷹はどこかに姿をくらましているし、迂闊なことも言えない。だが男は少し微笑んで


「ありがとう、海、君がいてくれて助かったよ。一人でいたら、自分がどうなっていたかわからない。本当にありがとう」


そう言った。

 

 しばらくすると、彼女が屋敷に到着したのか大きなが声が聞こえ、笛や太鼓の音が、風に乗り聞こえてきた。

式の後、祝宴が一日続く事になっている。



だがその後聞こえてきたのは、遠いとはいえ、明らかにガヤガヤとしたざわめきだった。それは祝い事とは似つかわしくないものの様に思えた。


「何があったのだろう? 」男も海も立ち上がったが

「何かがあったのは確かだろうけれど、ここにいた方がいい、疑いをかけられるぞ」

「そうだな、ありがとう、海」


二人がそう話していると、誰かが走ってくる。年の頃はこの男と同じぐらいで、遠くから名前を呼びながら探すようにやってきていた。


「おおい! どうした? 俺はここだ! 」

「ああ! おい! おい! よか・・・あ・・・」

友人であろう男は二人の所にやってきて、息を整えた後、それはうれしそうに、さっきとは違うとても小さな声でヒソヒソと話し始めた。


「死んだんだ、花婿が祝宴中に」

「死んだ? 何故? 」

「喉に物を詰まらせたんだ、大勢の者が見ているから間違いない」


そして更に小さな声で


「良かったな」


太陽は真上から照らしていた。


 






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