第48話 愚かさ


 海も気が付いていた。ここ数日、どうもこの男を遠巻きに「監視する」人間がいることを。彼もそれに気が付かないほど愚かではない。

もし、この真面目で実直な男の、欠点を一つあげるとすれば、それは「素直すぎる」と言うことであろうと思う。二人で逃げる事等考えてもいない、毎日暗い顔をして泣き暮らしていたならば、「あいつはあの女を諦めた」と皆が思っただろう、しかし彼の顔はそうではない。何かを考え、行動しようとしている人間の目なのだ。


 その目の持ち主は、今や本当に抜け殻のようになってしまっていた。彼が恐れたのは自分の死ではない。愛した相手がどうなってしまうかと言うことだった。


 朝は彼に歩み寄り優しくこう言った。


「心を落ち着け、穏やかに過ごしなさい。結婚式の昼まで。そうすれば、きっとすべて上手くいきます」


「え? 」


「静かに、誰かが聞いているかもしれません、それでは」


そう言って朝は去って行った。


海は何をどう言おうかと悩んでいた。しかも彼が「何の神」かも聞いてはいない。非道な人間に天罰を与える神もいるので、そうするのかもしれないと思っていたが、どうもそれとも違うようだ。だが、とにかくこの男が「何もしないように」することが第一だと思い

「俺も、色々な国を巡ったが、あの占い師は本物だよ。忠告は絶対に聞いた方がいい。きっと何かあるのだろう」


そう告げて、とにかく海は式の当日、彼と二人で会うことに決めた。


 一方朝鷹の方は、一人で早々と相手の娘の所にも行って同じように諭した。彼女も彼の命のことを何より案じていたので、心と真反対の事をする覚悟をし、もう彼とは会わないと決めた。

監視がついていることを知ったからだ。


「昼まで我慢してください」

その言葉を残し、不思議な顔をした娘の前から占い師は姿を消した。


「昼までってどういうことだ? 」

「まあ、お楽しみだ」


本当に楽しげな朝鷹が、最初の頃より海には生き生きとして見えた。




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