第33話 鳶のままで
「大神、お久しぶりでございます」
神鬼はゆっくりと頭を垂れたが、目の前にいるのは、焦げ茶色と、コーヒー牛乳のような薄い色が混じった羽を持つ鳶だった。大きさは神鬼の三分の一ほどしかない。
しかも鳶は、神鬼が思った以上長い時間言葉を発しないので、
「申し訳ございません、大神。勝手なことをいたしました」
と謝った。
「それはこの男の事か? 」鳶は言葉を発した。
「いえ、まずは歴史を変えてしまったことを」
「やってしまったことを今更言ってもしょうがあるまい、で、このとこに関してはどうするつもりだ? 」
「どうすると仰られても。脳に急激な負担がかかったので、年齢のためもあって、それに耐えきれなかっただけのことです」
「だけのこと? 冷たいな、やはり知風の事が許せぬか? 」
「許せぬのは、この男だけではございませんので」
「ほう、他にもおるか」
「はい、目の前に」
「なるほど」
二人の神は、互いをしっかりと見つめた。
しかし、かなり厳しい話をしているのであるが、特に緊張感はなく、言い争うことを互いにするつもりもなかった。
「何故、知風をそのままになさったのですか? 」
「神鬼、それは・・・すまなかった。本当のことを言わねばなるまい。毒のことは私も最初は「気が付かなかった」のだ。お前を失った知風が急に元気になったと聞いたので、こっそり様子を見に行くと・・・久々に驚いてしまった。まさかこんなことを出来る者がおるとは。だが・・・そう、そのままにしておいた」
「どうしてです? 」
「友を失い、せっかく見つけた喜びも急に奪われたでは、知風もかわいそうであろう。若い神だ、荒ぶる可能性もある。そうなってしまっては、最悪、風神殿が知風をどうにかしなければならぬ。
時が立ち、お前が目覚めたとき、知風がいないではな・・・」
「そこまで深くお考えになってくださっていたことは感謝いたします。しかし、こんな手の込んだ英雄譚を、私のためこしらえなければならなかったのですか?
勘の良い神々には、気が付かれる方が多いのではありませんか」
「そう、無意味だった、と思った。この四百年、私がお前のためにとやったことは、知風をより不安定にさせただけのことだった、すまなかった」
鳶はゆっくりと下を向いた。
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