第34話 鬼の理由


 神鬼を大神が生んだとき、天界は完全に二分されていた。


「鬼の部分をお入れになるとは、人間のやることに大神も心底お怒りなのだ。懲らしめるためにはちょうど良い」

「それはそうかもしれぬ、だがどのみち人間依りになる事に違いない。地獄にほかの生き物はほとんど行かないのだから」


動植物などの、自然の神にとっては尤もな意見であった。その対立が必要以上に深刻になり、まるで人のように意見の同じ者同士が、神であるはずなのに「徒党を組む」様な事までし始めた。

それ故神鬼を「眠りにつかせた」というのが、大神の本心の一つでもあった。



「神界を騒がせた者が、神界に恐怖を与えた者を退治するということだったのですね、大神」


「そうだ、神鬼。私が気が付かないのだから、悪いが、ほかの神であれば何百年も気が付くこともないだろうと思った。

だが・・・無意味だったよ、小賢しい知恵でしかなかった」


「無意味とはどう言うことでしょう? 」


「お前の太鼓だよ」


「太鼓? 叔父上のところで叩いた太鼓のことですか? 」


「そうだ、あの音がすべてだった。

お前の澄みきった心をそのまま現わした音色であった。お前に反対だった神々が私の所にやってきて「神鬼様がこれほどの方とは思いませんでした」と言った。

人以外の衆生に、お前自身からの優しい言葉だったよ。

本当に私も年を取って愚かになったか」


「そのような悲しいことを仰らないでください、大神」


「早くお前に譲って、私も余生を友人とゆっくり過ごすか。そうゆっくりは出来そうにない場所だが」


「余生を過ごす場所? 」


「風神殿と雷神殿との関係、お前と知風を見ていて思い出したよ。

私にも友がいた、最大の友が。ほとんどの者がこのことを知らぬが」


「どなた・・・でしょう」


「そう、知らぬだろう。お前とはまだ会ってはいないから。

閻魔だ。今の閻魔がまだ若い青鬼だった頃だ」


「初耳です」


「そのときの話を聞きたいか、神鬼」


「もちろんでございます」


「ならばここを離れようか。とにかく、一旦鳥になれ神鬼」


「鳶でしょうか、それともカラスがよいですか? 」


「おまえがカラスになったら、喧嘩のまねごとをしなければならない。鳶の方が私が楽だ」


「仰せの通りに」


そう言うと、神鬼も鳶になり、空へと舞い上がった。

「翼の白斑は、ちゃんとあるのだろうな、神鬼。」

「もちろんです、下から見たらわかるようになっております」


楽しげな会話を交わしながら二人が少し遠くまで来ると

「ゴロゴロゴロ」と遠雷が聞こえ、例の山には極端な雨が降り始めた。

テントを畳んで下山しなければ、命が危険なほどに。


「雷神殿は甥が心底かわいいと見える」


「大神が頼まれたのではないのですか」


「本当に違うぞ」


しばらく二羽の鳶は、輪を描くことなく、まっすぐに飛んでいった。



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