第29話 天界と地上
「待てよ、上の方に何かが見える、神殿のようなもの・・・あれが天界か? 」
龍は片手に持った木をぽいと放り投げ、海を泳ぐ太刀魚のように、体をほぼ一直線にして、すごい早さで空へと昇っていった。
「神々の住む場所、そうだ! そうなのだ!!! 」
そう思った次の瞬間には、彼はもうあの医の神の宮殿を上からのぞき込んでした。
「ほほう、彼は医学の神なのか、あれは薬の棚のようだ」
頭を上げ、龍の方を見た医の神とは目を合わすこと無く、その場を去った。
龍は飛び回った。雷神の上を、天界の薄紫の花畑の中、数人は飛び回り、数人は腰を下ろし笛を吹く天女の横を。
「ああ、これこそが天界! 数多の神がいるところ! 」
だが中には餅をついている神もいれば、木や竹などに囲まれて何かを作っている神もいる。
「何だ、こんな神もいるのか・・・まあ八百万の神だからな」
と色々なところを覗くように飛んでいると、ふと、人間が住む様な小さめの部屋に、若い男と女がいるのに気が付いた。
「知風、知風! あの龍は何? どこか邪悪な感じもする。しかも色を簡単に変化させているみたい、あんなことが出来るのは神鬼様くらいではないの? 」
彼女は、薄く、いかにも草木で染めた色の着物をゆったりとした感じで着ていた。その色が彼女の色であり、守るべきものだった。しかし着物をまとった体は明らかに恐怖に震え、頭上の龍が、これから先の知風との将来を真っ暗に変えてしまう様な物に思えた。
一方知風は、天界のどの神々よりも驚くこと無くその龍をじっと見つめた。龍の方も天界に上がって、しばらくの間、目と目を合わせたのは初めての事だった。
「ああ、知風だな」と龍は彼を見下ろしていたが
色神は「知風・・・」と彼を見つめながら呼びかけた。
「大丈夫だよ、心配しないで。そうだ、これは神鬼がやったことだ、あの龍は人間だよ」
「神鬼様が? どうして人間に力を、こんなに大きな力をお与えになったの? 」
「何となくだけど、神鬼がやろうとしていることがわかるよ。このことも含めて」
「お考えがあってのことなの・・・」
「今度の事はもちろん俺が一番悪いだろうけれど、少なからず神々にも落ち度はあった。人間の力を見誤っていたんだ、良い意味でも悪い意味でも」
「これから・・・どうなるの? 」
「何も心配しなくていい、終わるさ」
「終わる? 」
「もう少ししたら。きっと神鬼の役目なんだ。
数日後には君に会いにここにやってくるだろう」
知風は彼女に微笑みながら言った。
神鬼も同じように微笑みながら、少々疲れることをしていた。
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