第28話 千の龍 万の龍


「ハハハハ! 龍に! 私が龍になったぞ!!! 」


空のそう高くないところで龍は蛇のように、ミミズのようにくねくねと動き回った。そして山の中の神鬼を見ると、初めは小さく、もっと表情などをつぶさに見たいと思っただけで、すぐに双眼鏡のように目元も、口元もはっきりと確認できた。

神鬼は笑っているわけでも、怒っているわけでもない。そしてさらに先ほど分かれた一行の様子も見て取った。


「体の様子までわかる・・・ああ、この前足を痛めたという話をしていた男の骨の具合・・・それにもう一人は・・・何か体に異常がありそうだ・・・そんなことまでわかるのか! これが神の力か! ハハハハ! 」

笑いながらチラチラと神鬼の方を見ていたが、体が先ほどの「人間達」と全く同じように見えた。不可思議な部分と思える物は何もない。


「今は・・・彼は人間になっているのか? いや・・・そうではないはず・・・この龍のまま、彼を食い殺すことなど出来るわけもない。私はそれほど愚かではない」


そう考え、彼はまたしばらく天で風と雲と戯れていた。しかし、一つ気が付いたのは、鳥が自分の体を「すり抜けている」事だった。

なので、神鬼の元にもう一度戻って見ると


「私たちが龍になる場合は、ほかの生き物には全く見えないのです。実体もない。見せることも出来はしますが、本物の龍神様もいらっしゃいますので、その点はみな気を遣わなければいけません。ですが手は自由に使うことも出来ますし、色も自在ですよ。ただこの国の外には出られぬように。他国の龍神様もいらして、色々なお考えがありますから」


「そうなのですか! ありがとうございます! 」


彼はそう言うと、また天へと昇っていった。

その途中、彼は一瞬、鳳凰へと変化した。金色と羽の部分の淡いクリーム色は、天の高い部分にあると、良くは見えない物だった。

そしてその鳳凰は、岸駒のクジャクのようになったり、手塚治虫の火の鳥になったりしていると、


「おい! なんか変なものが飛んでいないか? 」

という大きな声が、山に響いてきた。

「鳳凰は見えると言い忘れたな」と神鬼が苦笑している中、彼はまた龍へと戻り、その色を変えて遊び始めた。


千の色、万の色

鉱物の金で出来た龍に、日本画の金色で描いた龍に、生きているような緑と黄色の龍に、墨一色の雪舟の龍に。

火山灰を顕微鏡で見たときのような、宝石が色とりどりにちりばめられた龍に、

すべてが磨き上げられたステンレスのような龍に、真新しい銅の明るい龍に、それが酸化していく変化も楽しみ、やがては落ち着いた、長く使われた十円玉のような色になった。

龍があまり遠くにはいかなかったのは、先ほどの神鬼の忠告を素直に聞いたためであったが、さすがに色遊びに飽きたのか、少し離れた山へと向かった。


「確か・・・手は動かせると・・・」


山に生えた巨大な大木をまるで草のようにつかみ、人間のように引き抜くと

「何という力か!! 重さも何も感じない!! これこそ神の力! ハハハハ! 」


あたりに人がいないのを確認しながら、彼は今度はこの

「龍の草むしり」に夢中になった。





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