第20話 調味料


「調味料・・・スパイスの一部分といったところだ。よく気が付かれました、神鬼殿」


医の神の研究所には、人間の使う最新機器まであった。


「何を使ったかなんて、本人に聞かなければわかりませんね」


「そのために恋人になられるとか? 」


「悪い男になる気はございません、医の神」


「ハハハ」と自分で言った冗談に神鬼は答えたのに、医の神は弱く笑った。


「この毒の特性として、少し温度が高くないといけないようだ。冷たい状態ではわからない。本当にどんな風に作ってあるのか。

だがその女子が仲間であるとは思われないでしょう? 」


「違いますね、多分。とにかく明日聞いてみます」



 次の日、神鬼は出勤途中の道で彼女と出会った。

「とてもおいしかったです。どうもありがとうございました。

実は私の祖父はとても料理好きで、何か特殊な調味料でも使っているのか、聞いてきてくれと言うんです」


「そうなんですか、あのご存じかとも思うんですが、官民一体で作った、魔法のスパイスと言われているあれです」


「ああ・・・そうなんですね。

どうもありがとうございました」


神鬼は実はそのことは知らなかったが、昼休み中、先輩に了解を得て調べさせてもらった。


「美味しかった、使っている調味料は何? って言うのは・・・彼女としてはどうなんだろう」

「でも的外れという顔はされませんでしたよ、先輩」

神鬼は軽い感じを装いながらパソコンへ向かっていると、内部の資料から、例の団体の名前がチラリと出てきた。


「先輩、この団体ご存じですか? 」

「もちろん、やっぱり君は目の付け所が違うね。そこ・・・ちょっと妙な感じなんだ。でもその団体自体に資金はほとんど回っていないし、不透明性は逆にないんだ。ただ、一部の国有林を厳密にそこが管理している。山に入りたいという人たちから資金を得ているのが現状だ。でもこれはあんまり公表してはいけないことだそうだ。君だから話すけれど」

「どうしてですか? 」

「元々は個人所有の山だったらしいんだけれど、どうもその山は里山などと違って、ほとんど人間の手が入っていないそうなんだ。すごく貴重な動植物があるらしい。だから一部の研究者とかが結構な額を払って入るんだ。新種の細菌なんかもいたらしいよ。でもあまり人を入れてしまうと、そのバランスが崩れてしまうから、大切に保護しているそうだ。だがな・・・」

「どうしたんですか? 」

「一度だけ代表者と会ったことがあるんだが、はじめは自然保護団体に近いんだろうと思っていたら・・・何だろうな・・・ほかの団体の代表者と何ら変わりは無い。いかにも丁寧だが、本心は全く見せない感じがする。その感が、今までに会った誰よりも強いと思ったよ。だからもう五年以上前に実は調べたんだが、無いんだ、何も。ああ、資料があるよ、奥に追いやっているけれど」

「見ても良いですか」

「もちろん、でも昼休みも仕事になるよ、大丈夫? 」

「先輩からそんなことを言われるとは思いませんでした。すいません、ゆっくり出来ないでしょうけれど、ちょっと興味半分で」


 神鬼は資料を開いた。嘘が半分ばれていることを知りながら。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る