第15話 共鳴


「おお、知風を連れてきてくださるとは思っていた、神鬼様」


医の神は本物の医師のように、年配の細身の男性の姿をしておられました。ですがお召しになっていらっしゃる服は、元々の白い色が少し変わったような、袖の短めの着物の様でした。


「少々知風をほっておかれすぎたのではないですか、医の神」


「はい、これは本当に申し訳ございません。忙しさにかまけまして」


「また今はお忙しいでしょうが」



医の神は天高くにある立派な建物に住んでいた。神社のように見え、それは豪奢である、というより堅固である、といった方が良い造りであった。だが普通の建物と違い、屋根は無い。かなり高いところまで漆喰や木の板が見えるのだが、それ以上は雲がかかっており、何も見えない。神鬼以外には。


壁という壁には本や薬が並んでおり、奥の方には手術をするような場所もあるという。

三人は薬の瓶がずらりとならんだ部屋にいて、その部屋の中心にある、まるいテーブルと椅子に座った。


「これです、毒の塊」


神鬼はさっきの物を広げた。色があるようなないような、光によって変わるような、複雑な物であった。


「なんと! 大きなもの! 苦しかっただろうに知風」

「苦しい・・・体がどうというのはなかったですが」

「心の方が痛んでいたからな、知風」

「医の神・・・どうもありがとうございます」

知風はとても大人しくなっていた。


「神鬼様、知風は何よりあなたがいなくなったことが、悲しくてどうしようもなかったのです。それで・・・」


「とにかく、まだ毒が残っているかもしれません。ここで知風を静養させていただきたい」


「もちろんです」


「え! せっかくお前に会えたのに? 」


「見舞いには来るさ。毎日来てほしいなら、毎日来る」


「本当か! 頼むぞ! ここは・・・・ちょっと・・・・・」


「退屈なのだろう? 人間の病院と同じだ。だがそうはならないぞ、私を含め、神々がやってくるだろう。木の神、草の神、花の神。とにかく覚えていることを正確に話してもらおう」

そう医の神は言ったのだが、知風はチラリと神鬼を見た。

神鬼ならば時を超えて、そのすべてを見ることが出来る。曖昧な自分の記憶よりも数段良いだろうと思ったのだ。

だが


「悪いが知風、このことで時を超えることは出来ない。これからやることがあるから」


「やることがある? 」


「ああ、すぐさまな、時間は置かない方がいいだろう」


「神鬼、お前何をするつもりだ? 」


「心配するな、ちょっと人間のフリをするだけだ、じゃあ、また明日。学校のようだな」


「神鬼・・・」


神鬼は人間のように医の神のところを後にした。そうして、宮殿からかなり離れ、天を下降する時に呟いた。



「人間達は、我々が人型であるとでも思っているのか。手先を使う時にはちょうど良いからだけのこと。

そうか、会いたいか、私に。ならば会ってやろう」


冷静にそう言ったが、最後にとても小さな声でこう言った。



「許さんぞ」


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