第14話 神への毒


「本当に食べないのか? こんなにたくさん買ったのに」


「お前が食べているのを見ている方が楽しいよ。いいから気にするなよ」


「でも・・・せっかく・・・」


「いいよ」


「そうか、じゃあ! 」


暗くなった、子供の遊具しかないような公園で、二人は並んでベンチに座っていた。知風は無心にその食べ物を食べている。


「予約までしていたなんて、お前も用意周到だな」


「昨日はこの店は休みだったんだ。だから今日お前に会いに来たんだよ」


「すぐに来ないなと思っていたんだ」


「寂しいと思ってくれたか、神鬼」


「ああ」


「本当か! うれしいな! 」


「食うか、話すかどっちかにしてくれよ、知風」


「お前がそんなことを言うからさ」


知風は楽しげだった。彼を見る神鬼の目は穏やかな感じだったが、それが次第に変化を始めた。このことを知風に気取られぬように気をつけてはいたが、食べ終わった知風の方が、話を先に切り出した。


「なあ・・・神鬼・・・・・俺が何でお前のところにすぐさま来なかった・・・わかるか・・・」


そのことに神鬼は答えなかったが、知風はその顔が、何かの疑問を抱えていることに気がついていた。


「怖かったんだ・・・」


「怖かった? 俺が? 」


「いや、お前がじゃない、神鬼。俺自身がだ・・・何だろう・・・長い時間だったからかな・・・お前に会いたいという気持ちが・・・どこかねじ曲がったのかな・・・・・わからない・・・・・俺が・・・・・お前を・・・その・・・・もしかしたら・・・・・殺してしまう・・・・・ような・・・出来るはずなどないのに・・・」


不自然な感じで今度は体ごと神鬼の方に向けた。

それに対して、神鬼は公園をチラリと見渡した。自分たちの真反対側にあるベンチに座っていた男性は去って、公園に人影はなかった。


「知風、少し苦しいぞ」

というや否や彼の背中を少し強めに「バン! 」と手のひらで叩いた。


「う!!!! 」

おなかいっぱい食べたものを吐き出しそうになるのを知風はこらえていたが、それに耐えきれず、知風の口の中から何かが出てきた。


それは「コン」と小さな音を立て地面に転がった。


吐瀉物ではなく小石のようであったが、角が取れて、つるりとしていた。暗めのオレンジ色のような街灯では、その色ははっきりとわからなかったが、神鬼はそれをすぐさまハンカチで包み、ジッパーの付いたズボンのポケットに入れた。


「何だ! 今の! 何だったんだ! 神鬼! 」


自分の事とはいえ、知風は慌てていたが、それに対して神鬼は


「知風、気分はどうだ? 」


「気分? 気分? あ・・すっきりした感じがする。澄み切ったというか・・・こんな気持ちは久しぶり・・・お前と仲直りした時みたい・・・俺がさっき吐き出したのは・・・じゃあ」


「毒だよ、神に対する毒だ」


「神に対する毒??? 誰がそんなことを! 神々の誰かか? お前を快く思っていない誰かか? 」


「まさか、そんなことをするはずないじゃないか。違うよ」


「じゃあ、誰が・・・」


「人間さ」


「人間? そんなこと出来るわけないじゃないか! 」


「一人じゃないさ、世代を超えて、四百年をかけたんだよ。お前の体にあったのは、四百年分の毒だ」


「四百年分? じゃあずっと俺の体にたまっていたのか? 」


「そして、その毒でお前の精神を多少なりとも操った。まあ毒と言うより、この食べ物だろうけれど。お前この食べ物がずっとあったといっていたろう? それはあまりに不思議なことだ、変化が激しい世の中なのに」


「この食べ物がなくなりそうになったときに・・・俺がちょっと」


「手助けをした、それを叔父上達に咎められた」


「ああ・・・」


「巧妙だな、人間風情が偉そうに。だが、それよりも行こうか、

医の神のところに」


「お前を悪く言った奴の一人だったろうに・・・」


「知風、その言い方だと、医の神の本心が理解できたようだな」


「ああ、前に会いに行って言われたんだ。自分は神鬼が嫌いな訳ではなくて、鬼の一部を入れて、神として体が変化するのが良くないという意味だったって」


「そういうことだ、さあ、行こう。お忙しいだろうが、これはこれで大切なことだ」


「あ! そういえば・・・医の神からちょっと体を見せろといわれたけど、また今度って言って逃げたな」


「いつの話だ?  」


「百年前くらいかな・・・」


「とにかく急ごう、しばらくは入院だ」


「え? 」


「健康第一だ」


二人はまた飛ばなければいけなかった。








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