第13話 テイクアウト


「ハハハ、にぎりめしはおかしいな」


「思わず出たんだ、しまったと思った」


「それで相手の記憶を消すことはなかっただろう? 」


「ああ、そうなんだ、正直言うと本当に「寝ぼけていた」んだ。

やることが雑だった。反省しているよ

風神様は、私のやったことに何かおっしゃっていたか? 」


「神鬼、風神様の事を話すときは、極端に丁寧だな」


「そうか? 」


「ああ、俺はすぐにはお前のやったことと気がつかなかった。

でも風神様が、やけに俺の方を楽しげに見るし、動物たちが極端に騒いでいるから、まさかと思っていたら、「知風にしては感が働かないな」って・・・」


「お前にとって風神様は、人間で言う父親のようなものなのかな」


「お前が雷神様を叔父上と呼ぶのと同じだ。大神様を呼ぶときよりも楽しげだ」


「ハハハ」


その神鬼の笑いは、どこか愛想じみたところがあると知風は感じた。これから神鬼の前にある道、永遠に近い道はどれほど長く続いてゆくのだろう。それを一人の時にふと考えたことはあったが、それよりも知風は楽しいことをやった方が良いだろうと思った。

このことも、長い間、ずっとそうしようと思っていた。


「お前がそのおにぎりをおいしいと思ったように、俺も下界ですごくおいしい食べ物を見つけたんだ。あまりにも旨くて、ずっと長いことあるんだよ。お前が目覚めたら、一緒に食べに行きたいと思っていたんだ」


「ずっと・・・どれくらい? 」


「お前が眠りについてすぐくらいかな。随分とこの食べ物に慰められた気がするよ。旨いぞ! きっと気に入る。でも神々には内緒だ、食い尽くされたら困るから。鬼達にはちょっと教えてやったよ。すごく喜んでいた」


「そうか、お前も気を遣うな」


「鬼達の方が、神々よりよっぽど優しいさ。お前がいなくなって、みんな俺に色々話してくれるんだ」


「そうか、鬼達にも会っておいた方が良いな」


「そういえば、確か赤鬼の頭が今、人間界にいるぞ」


「頭? 変わらないのか? 」


「いや、俺より問題児だった奴」


「え、彼が頭か! 」


「知らなかったか? 面白い話だろう? とにかく食べながら話そう。どこで食べるようか」


「ここはだめだ、買ってからすぐにどこか・・・公園・・・でもいいじゃないか」


「そうそう、合格だ神鬼、今はそういう風になっている。テイクアウトって言うんだぞ」


「ああ、色々教えてくれ」


「じゃあ、ちょっと遠いが行こうか」


「ああ、だがちょっとだけ補修を」神鬼は小さな穴に手をかざすと、雲がそこへよってゆき、完全に塞いだ。


「すまん、やってしまった」


「小さくても、叔父上は見逃さないから。音が違うと言うんだ、信じられないけれど」


「冗談だろう? 」


二人は子供の頃に戻ったようだった。



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